111.救済という名の支配
「では、具体的にどんな交換条件を出しましょうか?」
リベラの問いに、佐々木はマッサージベッドの上で少し考え込んだ。
「とりあえず、ココへ来た目的であるラグーナ・パレスの解放はお願いしましょう」
とリベラが最初に提案した。
「私はねえ、ここに来たら全部タダ! っていうのが嬉しいな」
いつの間にかリラクゼーション・ルームに来ていたメイリンが、フルーツの盛り合わせを頬張りながら口を挟んだ。
「ハイローラーの紹介をお願いしてみては?エリュシオンが抱える上客をアヴァロンへ流す仕組みがあれば、長期的な利益につながるわ」
クレアも身を起こして提案した。
「我々の最初の旅の目的とも合致しますし、それはいいですね」
リベラもクレアの意見に賛成した。
「なるほど、そんなところか。あとは、何かある?」
佐々木が二人に問いかけると、クレアが少しの間を置いて「あっ」と声を上げた。
「なに?」
佐々木が聞き返すと、クレアは少し言いにくそうに視線を泳がせた。
「⋯実は、ラザルスさんから俺の女になれと言われたの⋯」
「なにーーー! そりゃ許せんな!アイツは死刑だ、死刑にしよう! 佐々木の彼女に手を出そうなんて、身の程知らずもいいとこだよ!」
メイリンが悪い顔で首をかき切るポーズをとり、笑いながら言った。
佐々木も思わず笑ってしまった。
「死刑はさすがに行き過ぎだけど、そうだね。二度とクレアにちょっかいを出さないよう、釘を刺しておこう」
ヒューッとメイリンがからかうように口笛を吹いた。
「俺の女に手を出すなってか。結構、佐々木って独占欲が強いんだね。あー私も言われたいなー」
「そうですね」
リベラが真顔で、しかしどこか楽しげに同調する。
「いつもはなかなか手を出さないのに、クレアさんに手を出すのは即日でしたから。よっぽど好みで、誰にも渡したくないんでしょうね」
「ホント焼けちゃうよねぇ。この執着心!」
メイリンとリベラの言葉に、佐々木とクレアの顔はみるみるうちに赤くなっていった。
「こりゃ今夜は寝かせてもらえないね」
メイリンがいじると、クレアが真っ赤になって抗議しようとしたその時、リベラが本題に戻した。
「さて、先ほどの条件ですが、あまりに一方的な要求は遺恨を生むかもしれません。そこで一つ、ラザルスさんにとっての『救い』も提示してもいいかと。再びここが傾くようなことがあれば、アヴァロンが無制限でサポートするというのはどうでしょう」
「無制限サポート?」
メイリンが首を傾げると、クレアがいち早くその意図を察し、感心したように声を漏らした。
「なるほど。つまり、佐々木さんのような規格外のギャンブラーに再び狙われて、支払いが不可能になった際の『受け皿』としてアヴァロンを提案するのね?」
「そうです。ラザルスが今最も恐れているのは、自分の手に負えない『化け物』に全財産を毟り取られることです。その際の損失をアヴァロンが肩代わりするという条項は、彼にとって何よりの精神安定剤になるでしょう」
⋯
リベラがラザルスに通信で和解案が決まったことを伝え、場所を移しての交渉が始まった。
重厚な会議室には、青白い顔のラザルスと責任者が待っていた。
リベラが先ほどの取り決めを提案していく。
クレアに二度とちょっかいを出すなと突きつけられた際、ラザルスは激しい脂汗をかいていたが、和解案の全容を聞き、実質的に破滅的な支払いを回避できることを知ると、一も二もなく了承した。
リベラは取り決め内容を即座に書類にし、佐々木とラザルス間での正式な契約が締結された。
「感謝いたします、佐々木様」
深く頭を下げるラザルスに、サインを終えた佐々木がさらりと付け加えた。
「ああ、そうだ。さらにお近づきの印として、デポジットの1,000億を寄付するよ。今回の騒動で、いろいろ負担をかけたおわびに」
「は?」
呆然とするラザルスたちを余所に、佐々木は穏やかに微笑んだ。
圧倒的な力での制圧と、逃げ場のない救済。
こうしてエリュシオンは、事実上のアヴァロン傘下として再出発することとなった。




