107.強欲の終焉
ゾルグの部屋に立ち尽くす秘書は、冷徹な眼差しで主人を見据えた。
「ゾルグ様。どこの誰と連絡を取っていたのか、教えて頂けますか?」
ゾルグは顔を真っ赤にし、机を叩いて怒鳴り散らした。
「お前に教える必要などない!さっさと出て行け!」
しかし、秘書は眉一つ動かさずに告げた。
「事はもう、そんな段階ではありません。あなたが宇宙海賊と通じ、カース星の開拓を妨害していたことは、すでに領主様もご存知です。領主様は、あなたのこれまでの不祥事には何度も目をつぶってこられました。それなのに、なぜこのような真似をしたのですか?」
「うるさい!黙れ!」
もはや言葉にならない叫びを上げるゾルグに対し、秘書は背後の男たちに命じた。
ゾルグは領主の私設警備団によって、引きずるようにして部屋から連れ出されていった。
その後、秘書は佐々木たちの宿泊先を再び訪れ、深々と頭を下げた。
「佐々木様、メイリンさん。この度は、情報をご提供いただき、誠にありがとうございました。お陰で、迅速に警備団を動かすことができました」
メイリンは仕事だからね、と不敵に笑った。
秘書が去った後、クレアがふと疑問を口にした。
「ねえ、結局あの男は、何をやりたかったのかしら? この星の外の海賊と手を組んで資源を横取りしても、販路なんて持っていたの?」
メイリンも腕を組んで賛同する。
「たしかに。アイツはこの惑星の商人だし、ここで私腹を肥やす以外の目的がわからないよ。弱みでも握られていたのかな?」
二人の推測を聞いていたリベラが、手元の端末を操作しながら静かに口を開いた。
「皆様の懸念はもっともですが、真相はより利己的で、破滅的なものです」
リベラは空中にホログラムを投影し、ゾルグの過去の取引記録を表示した。
「ゾルグが海賊と通じていた真の動機。 それは、彼が密かに行っていた『合成麻薬』の密輸ルートを再建するためです。 ゾルグはかつて非合法な合成麻薬の輸入で莫大な私腹を肥やしていましたが、現領主によってその販路を完全に絶たれました。 今回の資源の横流しは、その対価として麻薬を再度密輸させる契約だったようです」
「自分の欲望のために、この星の未来を中毒者に売り払おうとした。 それが彼の『復讐』の正体です」
リベラの冷ややかな結論に、一同は激しい嫌悪感を抱き、ただ沈黙するしかなかった。
翌日の昼頃、カース星の宇宙港には、佐々木たちのの資源運搬船が無事に着艦していた。
船のハッチが開き、ナノマシンによって精製された高純度の資源が次々と降ろされていく。
その壮観な光景を前に、秘書は満足そうに微笑んだ。
「素晴らしい。 後の作業はこちらで引き受けます。 佐々木様、領主様も大変お喜びで、これをお渡しするようにと仰せつかりました」
秘書が差し出したのは、三名の有力なハイローラーへの紹介状だった。
「領主様ご自身はカジノに興味がないため佐々木様のカジノへは参りませんが、この者たちは興味を持ちそうです。まずは一度、彼らに会ってみてはいかがでしょうか」
リベラが恭しくその紹介状を受け取った。
「貴重な情報を感謝いたします」
資源の引き渡しを終え、一行は、再びルインキーパーへと乗り込んだ。
「さて、次は、いよいよ本番だね」
佐々木の言葉に、メイリンとクレアも表情を引き締める。
ラグーナ・パレスの上位カジノであった「エリュシオン」を次なる目的地とし、佐々木たちのルインキーパーはカースの宇宙港を旅立った。




