101.となりで眠るギャンブラー
「えーと、何で、こうなったんだっけ?」
佐々木は高級スイートルームのベッドで、ぼんやりと隣で眠る女性を見つめていた。
クレアは、今日の出来事と緊張から解放されたのか、ぐっすりと眠っていた。
…
カジノの敗北が決定した直後、オーナーのクレアは潔く立ち上がっていた。
「完敗でございます、佐々木様、ラグーナ・パレスのすべては、あなたのもとなりました。後の手続きは、レイラが処理いたします」
そう言って、クレアは部屋を後にしようと踵を返した。
その時、リベラが静かにクレアを呼び止めた。
「クレアさん、お待ちください」
クレアは振り向いた。
「あなたはこの後どうされるおつもりですか?」
クレアは肩をすくめた。
「当然、ここにはいられません。すぐにここを去ります」
リベラは佐々木の耳元で囁いた。
「まだ、次の予定はありませんよね。…佐々木様、クレアさんのことをどう思われますか?そばに置きたいと思える女性ですか?」
佐々木は、リベラから急にそんな事を言われドキリとした顔をした。
リベラは続けた。
「クレアさんはこのカジノを運営できる非常に優秀な人材です。我々の協力者として、これほど欲しい人材はいません。問題は、クレアさんの気持ちと、佐々木様がクレアさんを真に愛せるかどうかです」
佐々木は、ほんの少しだけ照れたような表情を見せた。
「…ステキな女性だと思います。叶うなら、そばにいてほしい…です」
クレアは、この男に個人的な評価をされたことに胸の奥が熱くなるのを感じた。
リベラは佐々木の答えを聞き、頷いた。
「そうですか、では、レイラさん。佐々木様とクレアさんを、ゆっくりお話のできる部屋へ連れて行って差し上げて下さい」
高級スイートルームで二人きりになると、クレアはすぐに佐々木に疑問をぶつけた。
「なぜあなたは、100億クレジットをはした金のように扱えるのですか?」
佐々木は初めて自分の背景を明かした。
「ココに資金として持ち込んだのは『金』だけど。僕らは宇宙空間の資源をかき集める術を持っているんだ。ああいったものは、探せばいくらでも手に入るから、価値観が少し違うんじゃないかな」
「では、もうひとつ。あなたはすべてストレート勝ちしましたが。あれは、単なる偶然だったのですか?」
佐々木は少し笑って、頭をかいた。
「確かに最近ツいている気がするね」
そういった後、佐々木は関係ない話をはじめた。
「僕、見た目は30歳くらいに見えるでしょ。でも、実は年齢は130歳を超えているんだ。今から100年ほど前、僕はアビス・ディスカバリーという豪華客船に乗っていて事故にあったんだ」
クレアは、その豪華客船の事故を知っていた。
「あの事故は生存者ゼロでは?」
佐々木は静かに答えた。
「事故の際、僕はたまたまコールドスリープポッドに入っていたから一命を取り留めたんだけど、その後、宇宙をずっと漂流していたんだ、それを数年前にリベラが見つけてくれて、目覚めさせてくれた。目覚めてからは、たしかに、運がいいかもしれないね」
佐々木が生存不可能の事故から偶然生き残ったという途方もない幸運を知り、クレアは強運の根拠に納得した。
クレアは、コールドスリープを経験した人が極度の孤独を感じ、目覚めた後、他人と無性に会話をしたがるという話を思い出した。
そんな特別な強運の持ち主が、今、自分という人間をそばにいて欲しいと求めてくれている。
この事実に、クレアの心は完全に動いた。
…
佐々木は再び、隣で穏やかに眠るクレアに目を向けた。
佐々木は、クレアの目の下の泣きぼくろをそっと指で触れた。
クレアはみじろぎをするが、かすかに笑顔になった。
その笑顔を見て、佐々木は満足そうに、「まぁいいか」とつぶやき、クレアの隣で再び眠りについた。




