1.百年目の目覚め
佐々木の意識は、深い海の底からゆっくりと浮上するかのように戻ってきた。
全身を包んでいた穏やかな浮遊感と心地よい眠気は消え、代わりに硬いカプセルの感触が背中に伝わる。
重い瞼を開くと、ぼんやりとした視界の中に、無骨な金属の壁とむき出しのパイプが複雑に張り巡らされた光景が広がっていた。
「ここは?どこだ?」
彼はゆっくりと体を起こし、自分の掌を見つめる。
ここに至る記憶も、経緯も、全てが靄に包まれている。
その時、一つの声が響いた。
それは感情のない、しかし驚くほどクリアな女性の声だった。
「佐々木様、お目覚めですか。システム起動、完了しました」
佐々木は声のする方を見た。
彼の目の前でぼんやりと光を放つモニターに、美しい女性の姿が映し出されていた。
「…あなたは、誰?」
「私の名はリベラ。この船のAIです。佐々木様、ただちに生体スキャンを実行します」。
リベラの言葉に続き、カプセルの内壁から柔らかな光が発せられ、彼の全身を包み込んだ。
佐々木は無意識に息をのんだ。
「生命維持機能、正常。主要器官に異常なし。神経系接続、正常。脳機能、正常。ただし、長期のコールドスリープによる軽度の記憶障害が確認されました」
リベラは淡々と、佐々木の身体のあらゆるデータを読み上げていく。
その報告を聞きながら、佐々木は違和感を覚えた。
この無骨な空間。
そしてAIから発せられた「長期のコールドスリープ」という言葉。
漠然とした不安が、徐々に彼の心を蝕んでいく。
「ここは、どこなんだ?」
佐々木のふたたび問いに、リベラは淡々と、そして容赦なく答えた。
「佐々木様はコールドスリープ中に、事故に巻き込まれました」
リベラの淡々とした言葉に、佐々木はただ茫然とするしかなかった。
事故?記憶はない。
しかし、この無骨な船の現状が、彼女の言葉を証明している。
彼がわずかに覚えている、白く優雅な豪華客船の面影はどこにもなかった。
「事故から約100年が経過しました」
淡々とした事実の羅列が、佐々木の心を容赦なく切り裂いていく。
100年の時が過ぎたという事実を突きつけられた。
「…なぜ、ぼくは…生きているんだ…?」
佐々木の声は、力なく震えていた。
その問いに、リベラはモニターに船の構造図を表示させながら答える。
「佐々木様のコールドスリープカプセルは、高い耐衝撃性と生命維持機能を備えていました。その機能が、生存確率0.008%という奇跡的な状況下で佐々木様の生命を維持したのです」
しかし、リベラの言葉はまだ終わらなかった。




