第17話
統合知性圏アークチュリア。
その、あまりにも完璧すぎるユートピアで、新田 創の奇妙な新生活が始まってから、地球時間にして約一週間が経過した。
彼は、割り当てられた超高層ビルの最上階スイートルームで、文字通り、堕落の限りを尽くしていた。
朝は、彼の睡眠サイクルを完璧に把握した環境制御システムが、鳥のさえずりと森の木漏れ日を部屋に再現して、優しく彼を目覚めさせる。起き上がると同時に、全自動のシャワーユニットが彼を洗浄し、思考するだけでその日の気分に合わせた快適な衣服が彼の身を包む。
食事は、脳が欲する味と栄養を完璧に再現したフード・レプリケーターが、三食昼寝付きおやつ付きで提供してくれる。昨日は母親の生姜焼き、今日は交易都市で食べたであろう幻の最高級肉料理。明日は、寿司でも頼んでみようか。もちろん、全て無料だ。
午後は、無重力マッサージチェアに身を沈め、眼下に広がる非現実的なまでに美しい未来都市を眺めながら、うたた寝をする。あるいは、完全没入型のVRシステムで、古今東西、ありとあらゆる映画やゲームの世界に没入する。
夜は、自動で最適な温度に調整されたベッドで、心地よい眠りに就く。
労働も、心配事も、人間関係のストレスも、何もない。
ただ、ひたすらに快適で、満ち足りた時間。
それは、彼が夢見ていた「スローライフ」の、一つの究極の形であった。
だが、創の根底には、十年以上の社会人生活で染み付いた、元プロジェクトマネージャーとしての知的好奇心と、物事を体系的に理解せずにはいられないという厄介な性分が、まだ残っていた。
堕落した生活を数日送るうちに、彼の心の中には、新たな、そして強烈な欲求が芽生え始めていた。
知りたい。
この、あまりにも完璧な世界を支える、根源的な技術を。
そして何よりも、この世界で「ロスト・テクノロジー」として博物館に飾られている、あの「魔法」の正体を。
「イヴ」
創は、マッサージチェアの上で微睡みながら、室内の管理AIに呼びかけた。
彼の呼びかけに応じ、目の前の空間に、銀髪の少女のホログラムがふわりと姿を現す。
『はい、ハジメ。何かご希望ですか?』
「ああ。この世界の、『科学魔法』について、本格的に勉強してみたいんだが」
その言葉に、イヴはサファイアの瞳をわずかに瞬かせた。
『〝サイエンス・ソーサリー〟の学習ですね。承知しました。当知性圏のVRアカデミック・ライブラリに、最適なカリキュラムが存在します。あなたの現在の知識レベルと脳の可塑性をスキャンし、最適な学習プログラムを構築しますが、よろしいですか?』
「ああ、頼む」
『処理を開始します。……スキャン完了。プログラム構築完了。トラベラー〝ハジメ・ニッタ〟に最適化された学習コース、【古典的ソーサリーの現代物理学による再解釈と応用】へのアクセスを許可します。VRヘッドセットを装着し、没入モードへ移行してください』
創は、部屋に備え付けられていた、流線型の滑らかなヘッドセットを装着した。
次の瞬間、彼の意識は肉体を離れ、光速で情報の海へとダイブしていく。
そして、彼が再び目を開けた時。
そこは、もはや豪華なスイートルームではなかった。
彼は、プラネタリウムのような、巨大なドーム状の空間に立っていた。
天井には、無数の星々が輝き、その間を銀河が川のように流れている。
そして、彼の目の前には、白衣をまとった、長い白髭の老人が、穏やかな笑みを浮かべて立っていた。
『やあ、初めまして。ハジメ君、だったかな。私が、君の学習をサポートするAIチューター、アルベルトじゃよ』
その老人は、地球の歴史上、最も有名な物理学者の一人に、驚くほどよく似ていた。
『これから君には、我々の祖先が〝魔法〟と呼んでいた、古き良き、そして少しばかり厄介な技術について、学んでもらうことになる。まあ、肩の力を抜いて、楽しんでいってくれたまえ』
アルベルトと名乗るAIは、ウインクしてみせた。
こうして、創の、常識を根底から覆すことになる、奇妙な授業が始まった。
最初の講義は、「高次元エネルギー物理学入門」だった。
『さて、ハジメ君』
アルベルトは、教鞭の代わりに、光る杖のようなものを振りながら語り始めた。
『君のいた世界では、おそらく〝魔法〟とは、神秘的な、超自然的な力として認識されていたことじゃろう。だが、結論から言おう。魔法とは、神秘でも何でもない。それは、我々の宇宙が持つ、極めて基本的な物理法則の一つに過ぎんのじゃよ』
彼の言葉と共に、周囲の空間に、複雑な数式と、いくつもの宇宙が泡のように浮かぶ図が投影された。
『我々の住むこの四次元時空はな、実は、もっと高次の次元に浮かぶ、無数の膜の一つに過ぎん。そして、その高次元空間――我々は〝バルク〟と呼んでおるが――には、我々の宇宙の全エネルギーの95%を占める、未知のエネルギーと物質、すなわち、ダークマターとダークエネルギーが満ち溢れておる』
創は、その言葉に息を飲んだ。魔法学院で学んだ、「魔素」の概念。それは、この世界の言葉で言えば、ダークエネルギーに相当するものなのかもしれない。
『古典的ソーサリー、すなわち〝魔法〟とは』
アルベルトは、続けた。
『術者の脳――正確には、その生体量子脳が発する微弱なサイオニック・フィールドを用いて、この高次元空間からダークエネルギーを極めて非効率的な方法で汲み出し、我々の四次元時空の物理法則を、局所的に書き換える技術体系のことなのじゃよ』
その日の講義で、創が魔法学院で「神秘の御業」として学んだ現象の全てが、冷徹な数式と物理法則によって、次々と解体されていった。
ファイアボール。
それは、『局所的な空間座標に高エネルギー・プラズマを励起させるための、量子トンネル現象の意図的な誘発』と説明された。
レビテーション(浮遊)。
それは、『対象物の周囲の重力子の相互作用を、斥力場を生成することで一時的に阻害する現象』と定義された。
テレポート(瞬間移動)。
それは、『二つの空間座標間に、微小なワームホールを生成し、情報化された物質を転送する技術』だと、こともなげに語られた。
創は、最初は戸惑い、混乱した。
自分が信じていた世界の根幹が、ガラガラと崩れていくような感覚。
だが、その混乱が収まると、彼の心の中には、純粋な知的好奇心が、まるで超新星爆発のように燃え上がっていた。
面白い。
面白すぎる。
彼の、元プロジェクトマネージャーとしての論理的な脳が、この科学的なアプローチに、水を得た魚のように、異常なほどの適性を見せ始めたのだ。
彼は、まるで難解なシステムの仕様書を読み解くかのように、この世界の科学魔法の、膨大で、しかし美しく体系化された理論の海へと、猛烈な勢いで没入していった。
学習を始めて数日が経った頃。
創は、VRライブラリの中で、AIアシスタントのイヴを呼び出し、より専門的な質疑応答を繰り返していた。
彼の疑問は、もはや初学者のそれではなく、この世界の専門家でさえ唸らせるような、本質的な領域にまで達していた。
「イヴ、一つ教えてくれ」
創は、目の前に投影された、古代の魔法陣のホログラムを指差した。
「古典的ソーサリーにおける、これらの呪文や魔法陣は、一体なぜ、高次元エネルギーに干渉することができたんだ? そこには、どんな物理的なメカニズムが介在していたんだ?」
その問いに、イヴは数秒間、そのサファイアの瞳の奥で、膨大なデータを検索していたが、やがて滑らかに答え始めた。
『それは、当知性圏の科学史においても、長らく最大の謎とされてきた領域です、ハジメ』
イヴは、淡々と、しかしどこか楽しげに語る。
『最新のシミュレーションによれば、古典的ソーサリーにおける特定の音声パターン(呪文)及び、幾何学図形(魔法陣)は、術者の生体量子脳が発生させる、極めて微弱なサイオニック・フィールドを、特定の高周波領域に共鳴、増幅させるための、一種のチューニング・キーとして機能していたと推測されています』
「チューニング・キー?」
『はい。例えるなら、特定のラジオ局に周波数を合わせるための、アンテナとダイヤルのようなものです。呪文という〝音〟と、魔法陣という〝形〟が、術者の精神エネルギーを、高次元空間の特定のエネルギー層へと接続するための、パスワードのような役割を果たしていたのです』
「……なるほどな」
創は、腕を組んで深く頷いた。
「脳波を合わせるための、アンテナとパスワードか。分かりやすい例えだ」
イヴのその説明は、創の中の最後の疑問を、パズルのピースがはまるように、綺麗に氷解させた。
彼は、魔法学院で学んだ「魔素」の概念と、この世界の「高次元ダークエネルギー」が、本質的には全く同じものを指していることに、既に気づいていた。
文化や文明レベルの違いによって、呼び方や、その現象に対する解釈が違うだけなのだと。
そして、彼は、その先にある、究極の結論にたどり着いた。
(なるほど……。完全に、理解した。本質的には、魔法ってのは、**『因果律改変能力』**ってことだな)
彼は、VR空間に、思考インターフェースでノートを投影させ、その考えを整理していく。
『火よ、出ろ』と願う。
すると、何もない空間に、突如として火が出現する。
これは、冷静に考えれば、ありえないことだ。
現実世界において、火が起きるためには、必ず「火種」「可燃物」「酸素」という原因が必要になる。
だが、魔法は、その原因のプロセスを全てすっ飛ばして、いきなり結果だけをこの世界に顕現させる。
これは、つまり、この世界の物理法則――『原因があって、結果がある』という、絶対的な因果律の鎖を、捻じ曲げ、書き換えていることに他ならない。
(その因果律にアクセスするための『鍵』、つまりインターフェースが、重要なんだ)
創の思考は、さらに加速していく。
(ファンタジーの世界では、そのインターフェースが、『呪文』や『魔法陣』といった、経験則と神秘主義に基づいた、アナログで儀式的なものだった。だからこそ、習得には才能と、長い修行が必要だった)
(そして、このSF世界では、そのインターフェースが、『サイオニック・アンプリファイア』や、『事象改変ソフトウェア』といった、科学理論に裏付けられた、デジタルで機械的なものに置き換わっただけなんだ)
(だから、この世界では、呪文の詠唱も、複雑な魔法陣を描く必要もない。術者の『意思の力』が担っていた、複雑で繊細な周波数のチューニングや、膨大な物理法則の計算を、全部、高性能な機械が肩代わりしてくれるからだ。だから、誰でも簡単に、まるでスマホアプリでも使うかのように、大規模な魔法が使えるってわけだ)
彼は、そこまで思考を進めると、ふっと笑みを漏らした。
(でも、突き詰めて考えれば、魔法学院にいたような、本物の大魔法使い――学院長のアルバスみたいな熟練した魔法使いなら、結局、やってることはこの世界の連中と変わらないんだろうな。彼らは、自分自身の精神力と魂だけを頼りに、この世界の最新鋭の機械がやっているのと、全く同じレベルの、精密で、大規模な因果律操作を、独力でやってのけていたんだ。そう考えると、あの世界の魔法使いってのは、とんでもない天才たちだったんだな)
彼は、科学の力で魔法を解体した結果、逆に、魔法学院で出会った人々への深い尊敬の念を抱いていた。
科学魔法の理論を、ほぼ完全にマスターした創は、次なるステップとして、実践的なシミュレーションへと移行することにした。
VR空間内に再現された、巨大な演習場。
そこには、この世界の標準的な装備である、手首に装着するタイプの『サイオニック・アンプリファイア』が用意されていた。
『これは、あなたのサイオニック・フィールドを10の12乗倍に増幅し、安定化させるデバイスです』
イヴの解説を聞きながら、創はそれを自分の手首に装着した。ひんやりとした金属の感触。彼の生体情報と、瞬時にリンクする。
彼の脳内に、直接、膨大な魔法のライブラリが流れ込んできた。
『では、試してみてください。ターゲット・ドローンに向かって、初歩的な攻撃魔法である〝プラズマ・ボルト〟を発動してください。トリガーは、あなたの思考です』
創は、目の前を高速で飛び回る、的のドローンを見据えた。
そして、ただ、頭の中で「撃て」と念じた。
次の瞬間。
彼の腕から、機械的な起動音一つなく、眩い稲妻の槍が迸った。
その速度は、もはや目で追うことさえ不可能だった。
稲妻は、完璧な軌道を描いてターゲット・ドローンに命中し、凄まじい爆音と共に、ドローンを原子レベルまで蒸発させた。
「……おお」
創は、そのあまりの威力と、手軽さに、思わず感嘆の声を漏らした。
詠唱も、魔力の集中も、何もいらない。ただ、思うだけで、これほどの現象が引き起こせる。
彼は、面白くなって、次々とシミュレーションを試していった。
思考するだけで、目の前に巨大な氷の壁を創り出す。
思考するだけで、演習場の端から端まで、一瞬で空間を歪めて瞬間移動する。
思考するだけで、重力を反転させ、瓦礫の山を天高く舞い上がらせる。
いとも、簡単に。
まるで、呼吸をするかのように、奇跡が彼の意のままに起こる。
だが、数時間、その万能感を味わった後。
創の心の中には、ある種の奇妙な「違和感」が、生まれ始めていた。
(確かに、これは凄い。簡単で、パワフルで、誰でも使える。だが……)
彼は、自分の手を見つめた。
(どこか、借り物の力のような感覚が、拭えないんだ。自分の手足を、自分の意思で動かしているのとは、根本的に違う。これは、高性能な外部デバイスを、コントローラーで操作している感覚に近い)
彼は、ふと、試してみたくなった。
手首のサイ・アンプリファイアを、ゆっくりと外す。
そして、今度は、魔法学院で学んだ、古き良き、彼自身の力だけで、同じ魔法を発動してみようと試みた。
彼は、目を閉じ、精神を集中させる。
自分の内なる魔素の流れを感じ、それを練り上げ、編み上げていく。
そして、ターゲット・ドローンに向かって、イメージの力だけで、同じプラズマの稲妻を放った。
彼の腕から放たれた稲妻は、機械を使った時のような、直線的で無機質なものではなかった。
それは、まるで生き物のように、わずかに螺旋を描き、その表面には無数の微細な雷光がまとわりついていた。
そして、ドローンに命中した瞬間。
爆発の規模は、機械を使った時よりも遥かに小さかった。
だが、ドローンは蒸発したのではなかった。
命中したその一点から、まるで黒いインクが染み込むように、存在そのものが「無」に侵食され、音もなく、完全に消滅していた。
因果律そのものを、より根源的なレベルで、破壊したのだ。
その時、VR空間に、けたたましい警告音が鳴り響いた。
『警告! 警告! 未登録のサイオニック・デバイスによる、規定外の高密度エネルギー放射を検知しました!』
アルベルトのAIアバターが、慌てた様子で創の隣に出現する。
『なんということじゃ……! ハジメ君、君は今、何をした!? シミュレーターが計測した、君自身のサイオニック・フィールドの出力、安定性、そして何よりも、因果律への干渉解像度が……我々の最新鋭のサイ・アンプリファイアの理論上の限界性能を、遥かに、遥かに上回っておる! これは、ありえん! 理論上、ありえない数値じゃぞ!』
その、AIらしからぬ狼狽ぶりを見て。
創は、静かに、そして深く、納得した。
「……やっぱりな」
彼は、自分の手を見つめながら、呟いた。
「俺としては、こっちの方が、どうにもしっくりくる。機械に頼るより、俺自身のほうが高性能っぽいしな」
彼は、その理由に、もうとっくに思い至っていた。
全ての始まりとなった、あの、たった一つの奇跡。
【異界渡り】。
その能力こそが、彼の全てを、常識の外側へと追いやった元凶なのだ。
(結局、俺のこの身体そのものが、あの【異界渡り】っていう、とんでもない能力によって、魂のレベルから、根源的に作り変えられてるんだ)
創は、確信していた。
(世界と世界の壁を、次元の法則を、いとも容易く飛び越える。そんな、神様レベルの因果律操作を、呼吸をするように当たり前にやってのける能力だ。その能力を行使するたびに、俺の魂や精神は、その超常的な法則に最適化されていく。その結果、俺の存在そのものが、この世界のどんな高性能な機械よりも、遥かに優れた因果律干渉インターフェースに、成り果ててしまったんだろうな)
彼は、初めて、自分に与えられた力の、本当の規格外さを、客観的に理解した。
(異界渡り。それが、それだけ、とんでもない能力ってことなんだな)
科学魔法の学習は、創にとって、非常に有益だった。
それは、彼に新たな力を与えたというよりも、彼が元々持っていた力の、本当の価値と、その取扱説明書を、与えてくれたのだ。
彼は、VR空間での学習を、その日で切り上げることにした。
学ぶべきことは、もう十分に学んだ。
彼は、現実世界のスイートルームで、マッサージチェアに身を沈めながら、今後の計画について、最終的な評価を下していた。
(このSF世界は、素晴らしい場所だ。魔法の本質を理解できたし、自分の能力も客観的に把握できた。だが……)
彼の思考は、極めて現実的な問題へと着地する。
(ここに、長居する必要はないかもしれないな。特に、金儲けという、俺の当初の目的を考えた場合)
(この世界は、そもそも、資本主義経済という概念が、ほとんど過去の遺物になっている。誰もが、生活に必要な全てを、無償で手に入れられる。そんな世界で、俺が交易世界で手に入れた金貨や、これから手に入れるであろう香辛料に、一体誰が価値を見出すというんだ? 換金するには、絶望的に、向いていない)
(暮らしやすいのは、間違いない。まさに、理想郷だ。安全で、快適で、飯も美味い。だが……永住するには、どうだろうか。全てが与えられすぎていて、少し、退屈かもしれないな。ハングリー精神というものが、完全に失われてしまいそうだ)
「よし、決めた」
創は、マッサージチェアのリクライニングを元に戻すと、すっくと立ち上がった。
「ここは、俺の『別荘』だ」
彼は、この完璧すぎるユートピアの、彼自身のスローライフ計画における、最適なポジショニングを、見出した。
ここは、最高の保養地だ。疲れた時に帰ってきて、心身を癒すには、これ以上の場所はない。
そして、最先端の技術と知識を学ぶことができる、最高の研究施設でもある。
(時々、休暇で帰ってきて、のんびりするには、最高の場所だ。でも、俺の『本拠地』、俺が本当に腰を据えて暮らす『自宅』は、また別の場所にしよう)
彼は、窓の外に広がる、完璧な未来都市を見下ろした。
その目は、もはやこの世界の住人になることを、望んではいなかった。
金儲けのための「仕事場」である、交易世界。
休息と、自己投資のための「別荘」である、このSF世界。
ならば、本当に心から落ち着ける「自宅」は、どこに作るべきか。
彼のスローライフ計画は、さらに具体的に、そして多角的に、進化を遂げようとしていた。
次なる目的地は、まだ決まっていない。
だが、彼の中には、確かな指針が生まれていた。
それは、彼自身の力で、何もないところから、自分だけの理想郷を創り上げる、という新たな野望だった。