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第11話 【現代日本編】 故郷の味と次なる計画

 約束の日から二日後。

 新田にった はじめは、東京の喧騒から逃れるように、十年以上ぶりに故郷の土を踏んでいた。

【異界渡り】の能力は、もはや彼の体の一部となっていた。実家の住所と、Googleストリートビューで繰り返し確認した風景をイメージするだけで、彼は一瞬にして、懐かしい最寄り駅のロータリーにその身を転移させることができた。

 九月半ばの太陽が、アスファルトに気怠い光を落としている。東京よりも心なしか空気が澄んでいて、風に乗って運ばれてくる微かな潮の香りが、彼の記憶の扉を優しくノックした。

 駅舎は、彼が高校生だった頃からほとんど変わっていない。少し色褪せた駅名の看板、錆びついた自転車置き場の屋根、そして、客がいるのかいないのか分からない駅前の小さな蕎麦屋。時間の流れが、ここだけゆっくりとしているかのようだ。


 創は、あえて実家まで直接転移するのではなく、駅から歩いて帰ることを選んだ。

 この、何も変わらない風景を、自分の足で確かめたかったのだ。

 シャッターが下りたままの文房具屋。角にあった駄菓子屋は、いつの間にか小洒落たカフェに変わっている。それでも、通学路だった川沿いの道や、友達と馬鹿な話をしてだべっていた公園の錆びたブランコは、昔のままだった。

 一つ一つの風景が、甘酸っぱい記憶を呼び覚ます。

 会社での十年。クライアントとデザイナーの板挟みになり、終わらない仕様変更と予算の調整に追われ、日に日に心がすり減っていったあの時間。その全てが、この穏やかな風景の前では、遠い異国の出来事のように色褪せて感じられた。

 ああ、帰ってきたんだ。

 彼は、心の底からそう思った。


 駅から歩いて十五分。

 見慣れた住宅街の一角に、彼の目的地はあった。少し古びた二階建ての一軒家。赤い屋根瓦と、父親が趣味で手入れしているささやかな庭。

 創は、玄関の前に立つと、一度だけ大きく深呼吸をした。

 インターホンを鳴らす指が、少しだけ震える。

 ピンポーン、という間延びしたチャイムの音が鳴り響き、数秒の沈黙の後、パタパタというスリッパの音が近づいてくる。


 ガチャリ、とドアが開いた。

「……はい、どちら様……あら」

 そこに立っていたのは、記憶の中の姿よりも少しだけ小さくなった、彼の母親だった。

 目尻の皺が増え、髪には白いものが混じっている。だが、その優しそうな眼差しは、昔と少しも変わっていなかった。

 母親は、目の前に立つ息子を認めると、驚きに目を見開き、そして次の瞬間、その顔をくしゃりと綻ばせた。

「……創! 本当に帰ってきたのね!」

「ああ、ただいま。母さん」

 創がそう言うと、母親は「まあ、まあ!」と嬉しそうに声を上げながら、彼を家の中に招き入れた。


 玄関を上がると、醤油と出汁の混じった懐かしい匂いが鼻孔をくすぐる。

 通されたリビングのテーブルの上には、既に食事が並べられていた。

 湯気の立つ白いご飯。わかめと豆腐の味噌汁。ほうれん草のおひたし。そして、テーブルの中央で圧倒的な存在感を放つ、大皿に山盛りになった豚の生姜焼き。

 香ばしい醤油の匂いと、食欲をそそる生姜の香り。少し厚めに切られた豚ロース肉に、甘辛いタレがたっぷりと絡みついている。

 それは、創が電話でリクエストした、世界で一番好きな料理だった。

「さあ、座って座って。お腹すいたでしょう」

 母親に促され、創は食卓の椅子に腰を下ろした。

 いただきます、と小さく呟き、箸を取る。

 まずは、主役の生姜焼きからだ。

 一切れつまみ上げ、白いご飯の上にワンバウンドさせる。タレが染みたご飯と共に、一気に口の中へとかき込んだ。


「…………うまい」


 思わず、声が漏れた。

 肉の柔らかさ、タレの絶妙な甘辛さ、そして後から追いかけてくる生姜の爽やかな風味。

 全てが、完璧だった。

 都会のレストランで食べるどんな高級な料理よりも、コンビニで買うどんな便利な弁当よりも、遥かに、遥かに美味い。

 それは、ただの味付けだけではない。母親の愛情という、最高のスパイスが効いているからだ。

 創は、夢中になって箸を動かした。

 生姜焼き、ご飯、味噌汁、そしてまた生姜焼き。無限のループ。

 異世界での冒険も、日本政府との交渉も、魔法の探求も、全てがこの一皿のためにあったのではないかとさえ思えた。


「まあ、そんなに慌てて食べなくても、なくならないわよ」

 母親は、息子の食べっぷりを嬉しそうに、そして少しだけ心配そうに見守っていた。

「よっぽど、お腹が空いてたのねぇ。東京では、ちゃんと食べてたの?」

「ああ、まあ……一応はな」

 創は、口の中のものをこくんと飲み込んでから答えた。カロリーメイトと水だけで何日も過ごした異世界でのサバイバル生活のことは、もちろん言えるはずもない。

「でも、やっぱり母さんの飯が一番だよ。これだけは、どんな店でも食えない」

「あら、おだてたって何も出ないわよ」

 口ではそう言いながらも、母親は本当に嬉しそうに笑っていた。


 しばらく、無言で食事が進む。

 皿の上の生姜焼きが半分ほどになった頃、母親が、おずおずと切り出した。

「それで……その、新しいお仕事っていうのは、どうなの? 順調?」

 来たか。

 創は、内心で身構えた。

 これは、今回の帰省における、ある意味最大のミッションだった。

 彼は、味噌汁を一口すすってから、できるだけ自然を装って口を開いた。

「ああ、うん。まあ、なんとかなってるよ」

「そう? どんなことをしてるの?」

「ええと、まあ、なんて言うか……新しい技術を覚えるための研修みたいなのがメインでさ。結構、専門的な分野なんだよ。最初は、専門用語とか覚えるのが大変でさ。物理法則がどうとか、空間の構造がどうとか……」

 創は、魔法学院の授業風景を思い出しながら、できるだけ当たり障りのない言葉を選んで説明する。

「へえ、難しそうなのねぇ。あなた、昔から勉強は苦手だったじゃない」

「いや、それがさ」

 創は、少しだけ照れくさそうに、そしてどこか誇らしげに続けた。

「案外、俺、才能あったみたいなんだよね」


「才能?」

「うん。なんか、周りの人たちがやたら褒めてくれるんだよ。俺がちょっと何かやると、『君は天才だ!』とか、『信じられない! 千年に一人の逸材だ!』とか。しまいには、『君はもしや、神の化身なのでは?』なんて言う人までいてさ。大げさなんだよ、まったく」

 創は、学院長や教授たちの顔を思い浮かべ、ははは、と乾いた笑いを漏らした。

 事実を語っているだけなのだが、我ながらとんでもない自慢話に聞こえる。

 母親は、きょとんとした顔で息子を見ていたが、やがてふふっと笑った。

「まあ、すごいじゃないの。創が、そんなに褒められるなんて。どんな会社なの?」

「会社っていうか、まあ、研究所みたいなところかな。結構、自由な気風でさ。寮みたいな個室もあって、快適だったよ。食事も美味かったし」

「そう。体に気をつけるのよ。あんまり、無理しちゃだめだからね」

 母親は、息子の言うことの半分も理解できていないだろう。

 だが、そんなことはどうでもいいらしかった。

 息子が、新しい場所で元気に、そして楽しそうにやっている。

 その事実だけで、彼女は心から安心したようだった。

 その無条件の愛情が、創の胸を温かくした。同時に、ほんの少しだけ罪悪感が胸をよぎったが、彼はそれを味噌汁と一緒に飲み干した。


 食事が終わり、創が「俺が洗うよ」と言うのを母親が「いいからいいから」と制し、台所で皿を洗う音が聞こえてくる。

 創は、リビングのソファに深く体を沈め、久しぶりの満腹感と幸福感に浸っていた。

 壁にかかった柱時計が、カチ、コチ、と穏やかな時を刻んでいる。

 テレビからは、昼下がりのワイドショーの、どうでもいい芸能ニュースが流れていた。

 これだ。

 これこそが、俺が求めていた日常。

 スローライフ。

 彼は、この穏やかな時間を守るためなら、どんなことでもできると思った。たとえそれが、国家を相手に大賢者を演じることでも、異世界で魔猪を狩ることでも。


 その日の夜。

 夕食も終え、風呂にも入り、創は高校時代から使っている自分の部屋に戻った。

 本棚には、色褪せた漫画の単行本や、昔やり込んだゲームの攻略本が並んでいる。机の上には、卒業アルバムが埃をかぶって置かれていた。

 何もかもが、あの頃のまま。まるで、ここだけ時間が止まっているかのようだ。

 創は、ギシリと音を立てるベッドに大の字になると、天井の木目をぼんやりと眺めた。

 一日のんびりと過ごし、心も体もすっかりリラックスしていた。

 だが、彼の元プロジェクトマネージャーとしての脳は、休息を知らない。

 一息ついた今、思考は自然と次の計画へと移っていた。


「さて……夜だし、次の計画を練ろうか」

 創はむくりと起き上がると、東京の部屋から次元ポケットに入れて持ってきた、あの使い古したノートとボールペンを取り出した。

 机の椅子に座り、スタンドライトのスイッチを入れる。

 ノートの真新しいページを開き、彼は力強い文字で書き記した。


【プロジェクト名:安定キャッシュフロー構築計画(交易編)】


 日本政府との取引は、確かに莫大な利益を生むだろう。

 だが、それ一本に依存するのは、リスク管理の観点から言って愚策だ。

 卵は、一つの籠に盛るな。

 投資の基本であり、プロジェクトマネイングの基本でもある。

 政府という巨大なクライアントは、時に気まぐれで、時に理不尽な要求を突きつけてくるかもしれない。あの狸女、橘 紗英の顔を思い出すと、決して油断はできない。

 それに、あの「大賢者」のペルソナを演じ続けるのは、精神的な消耗が激しすぎる。

 もっと、個人的で、気楽で、安定した収入源。

 第2、第3のキャッシュポイントを確保する必要があった。

 そのための計画が、この「交易編」だ。


「まずは、ターゲットとなる世界の選定からだな」

 創は、ノートに「世界要件定義」と書き込み、思考を整理していく。


【ターゲット世界の要件定義】


 目的:現代日本の安価な物資を、高値で買い取ってくれる世界を見つけ出し、継続的な交易ルートを確立する。


 必須要件(Must Have):


 価値観の相違: 香辛料、砂糖、塩といった、地球では安価な調味料が、金や宝石と同等の価値を持つこと。これは、多くのファンタジー作品で採用されている、いわば「テンプレ設定」だが、それだけに蓋然性は高いと判断。


 商業ギルド等の存在: 安定した商取引を行うための、社会的なシステム(商人たちの組合や、大規模な商会など)が確立されていること。無法地帯では、商売にならない。


 安全性: 文明レベルがある程度安定しており、盗賊が跋扈していたり、常に戦争状態にあったりしないこと。


 推奨要件(Want Have):


 インフラ: 街道が整備されており、都市間の物流がある程度機能していること。


 言語: 日本語が通じること(これは【異界渡り】の能力で自動補正される可能性が高いが、念のため)。


 そこまで書き出したところで、創のペンがぴたりと止まった。

 最も重要な要素が、まだ定義されていない。

 それは、魔法の存在だ。


「おっと、魔法をどう説明する? 魔法がある世界の方がいいのか?」

 創は、腕を組んで唸った。

 これは、極めて重要な選択だ。

 彼は、ノートの上に二つのシナリオを書き出し、それぞれのメリットとデメリットを比較検討し始めた。


【シナリオA:魔法が『存在する』世界】


 メリット:


 こちらの魔法(商品を無限に取り出す次元ポケットなど)を、比較的すんなりと受け入れてもらえる可能性がある。


 魔法道具の売買など、交易の幅が広がるかもしれない。


 デメリット:


 最大のリスク: 相手も魔法を使ってくる可能性がある。


 鑑定魔法で商品の原価や俺の素性を見抜かれる危険性。


 精神干渉系の魔法で、不利な契約を結ばされる危険性。


 最悪の場合、攻撃魔法で商品を強奪される危険性。


 魔法のレベルによっては、俺の力が通用しない可能性もゼロではない。


 魔法使いギルドのような、面倒な組織と関わらなければならなくなるかもしれない。


【シナリオB:魔法が『存在しない』世界】


 メリット:


 最大のメリット: こちらが一方的に魔法というアドバンテージを行使できる。


 次元ポケットから商品を取り出す行為は、「奇跡」「神の御業」として、相手に絶対的な畏怖を抱かせることができる。交渉を圧倒的有利に進められる。


 身の安全を確保するのが、極めて容易。


 デメリット:


 あまりに常識から外れた現象を見せすぎると、異端者として宗教団体や国家から追われる危険性がある。


「奇跡」を安売りすると、価値が暴落する可能性がある。


「……うーん……」

 創は、両方のシナリオをじっくりと見比べた。

 今回のプロジェクトの目的は、あくまで「楽して安全に儲けること」だ。

 バトルやスリルを求めているわけではない。

 面倒な駆け引きや、命のやり取りは、極力避けたい。


「よし、決めた。魔法なしで、魔法の伝承ぐらいはある世界にしよう」

 これこそが、最適解だった。

 魔法という概念そのものが完全に存在しないと、こちらの力を見せた時に説明がつかない。

 だが、「かつて神々が奇跡を起こした」「伝説の錬金術師が、無から金を生み出した」といった、おとぎ話や伝承レベルで魔法的な現象が語り継がれている世界ならばどうだろう。

 その場合、俺の魔法は、その「伝説の再来」として受け取られるはずだ。

 人々は俺を畏れ、敬い、決して敵対しようとはしないだろう。

 これならば、安全性と交渉の優位性を両立できる。


「よし、これで行こう」

 創は、自分の判断に満足げに頷くと、ノートに力強く書き込んだ。

『ターゲット世界:中世レベルの文明。魔法は存在せず、伝承レベルでのみ認識されていること』


 次に検討すべきは、具体的な取引相手だ。

「さて、商家に接触だったな。うーん、大手で多少ぼられても良いから大手でいいか。下手に小さい所だと取引先から何かあったときダメだし」

 これもまた、重要なリスク管理の一環だった。


【取引相手の選定】


 候補A:街の零細商人、個人商店


 メリット:フットワークが軽く、すぐに取引を始められる可能性がある。


 デメリット:信用度が低い。商品を奪って逃げられるリスク(持ち逃げ)。口が軽く、こちらの情報がすぐに広まってしまう危険性(盗賊や悪徳領主の耳に入る)。大量の取引に対応できる資本がない。


 候補B:複数の都市に支店を持つ、大規模な商会


 メリット:信用度が高い。「看板」に傷がつくことを恐れるため、無茶なことはしてこないはず。巨大な資本と、広範な販売網を持っている。長期的なパートナーシップを築ける可能性がある。権力者とのコネクションも期待できる。


 デメリット:組織が大きい分、意思決定に時間がかかる可能性がある。足元を見られ、マージンを多めに取られる(ぼられる)可能性がある。


「よし、これも大手一択だな」

 創の決断は早かった。

 短期的な利益よりも、長期的な安定性と安全性。

 元プロジェクトマネージャーとしての経験が、そう結論付けていた。

 多少の損失は、必要経費であり、安全マージンだ。


 計画の骨子は、固まってきた。

 ターゲットは、魔法の存在しない中世レベルの世界。

 取引相手は、信用できる大手商会。

 商品は、香辛料、砂糖、塩。


「よし、まずはスーパーで砂糖と塩と香辛料を買い揃えて、サンプルとして渡そうかな。計画として、こんな物か?」

 創は、ノートを眺めて呟いた。

 ファーストコンタクトのための具体的なアクションプラン。

 まずは、いくつかの世界を渡り歩き、要件定義に合致する世界を見つけ出す。

 次に、その世界で最も大きな商都へ行き、身なりを整え、大手商会にアポイントを取る。

 そして、次元ポケットに忍ばせておいたサンプルの数々を提示し、相手の反応を見る。

 完璧な流れだ。


 だが、その時。

 創の脳裏に、一つの素朴で、しかし極めて重大な懸念が浮かび上がった。

「あー……でも、香辛料が貴重な世界って、飯まずそうだな……」

 そうだ。

 香辛料や砂糖が金と同じ価値を持つということは、裏を返せば、普段の食事はほとんど味付けされていないということだ。

 塩でさえ貴重品なのだとしたら、日々の食事は、素材の味だけの、味気ないものに違いない。

 そんな世界で、長期的に滞在できるだろうか。

 俺は、母親の生姜焼きで、改めて美味しい食事の重要性を再認識したばかりだ。

 味のないスープと、硬いパンだけの毎日。

 考えただけで、気が滅入ってくる。


「……住むのは、別世界の方がいいかな?」

 その考えは、すぐに次の思考へと繋がった。

 そもそも、中世レベルの世界だ。衛生観念も、現代とは比べ物にならないだろう。下水も整備されておらず、疫病が蔓延しているかもしれない。

 治安だって、決して良くはないはずだ。

 そんな場所に、わざわざ自分の生活拠点を置く必要はない。


「そうか……『出張』すればいいんだ」

 創の中で、点と点がつながった。

 取引(仕事)をする世界と、生活スローライフを送る世界。

 この二つは、完全に分離させるべきなのだ。

 まず、拠点となる世界を見つける。

 そこは、気候が温暖で、景色が美しく、魔物などの危険がなく、そして何よりも食事が美味しい世界。

 そんな理想郷に、魔法で快適な家を建てて、そこを自分の「ホーム」とする。

 そして、そこから次元ポケットに商品を詰め込んで、例の中世世界へ「出張」する。

 仕事を終えたら、また「ホーム」へ帰ってくる。

 これならば、ストレスなく交易ビジネスを続けることができる。


「考えるべき事、山程あるなー」

 創は、苦笑した。

 スローライフ計画のはずが、いつの間にか多世界をまたにかけた壮大な事業計画になっている。

 拠点の選定、家の建築、交易ルートの確立、資産の管理と運用……。

 まるで、一人で商社を立ち上げるようなものだ。

 だが、不思議と嫌ではなかった。

 会社でやらされていた、他人のためのプロジェクトではない。

 これは、全て、自分のための、自分の未来のためのプロジェクトだ。

 そう思うだけで、心の底からモチベーションが湧き上がってくる。


「まあ、基本路線はこれで行こう」

 創は、ノートの最後に力強く書き記した。

『基本戦略:生活拠点とビジネス拠点を分離。理想郷をホームとし、各世界へ出張する多角経営モデルを確立する』


 ペンを置き、創は大きく伸びをした。

 計画は、固まった。

 やるべきことは、明確だ。

 彼の目は、高校時代には決して見せることのなかった、野心と自信に満ちた輝きを放っていた。

 窓の外は、静かな夜の闇に包まれている。

 だが、創の心の中には、これから始まる大冒険への期待で、朝日が昇ろうとしていた。

 彼の、本当の意味での独立と起業。

 その第一歩は、まず、この故郷のスーパーマーケットで、最高の塩と砂糖と胡椒を買い揃えることから始まるのだ。

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> 気候が温暖で、景色が美しく、魔物などの危険がなく、そして何よりも食事が美味しい世界 1周廻って、「やっぱり地球が1番だな」と言ってそう(笑)
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