目覚め
午後、村の結界が不自然に揺れる。影の結界柱の結晶が点滅し、ガラスがひび割れる音が響く。住民たちが広場に集まり、ざわめく。リナの紫の瞳が鋭くなり、銀髪が風に舞う。
「腐敗の兆候だ。結界が弱ってる。徘徊獣が集まるぞ」
悠太は眼鏡を直し、緊張で喉が乾く。リナの言葉が、死のリスクを思い出させる。
「やばいってこと? 俺、役に立てるかな…死にたくないよ」
リナは頷き、短剣を握る。銀髪が肩に落ち、紫の瞳が彼を捉える。
「準備しろ、悠太。今日は実戦だ。お前の共鳴、試す時だ」
悠太の心臓が跳ね、恐怖とワクワクが混じる。
「実戦!? レベル1なのに! でも、リナと一緒なら…やってみる!」
リナが鼻で笑う。
「死にたくないなら、ついてこい。私が守る」
悠太は笑顔で答える。
「リナが守ってくれるなら心強い! 俺もリナを守るよ!」
リナの頬が赤らみ、紫の瞳が揺れる。
「…生意気」
二人は森の奥へ向かう。リナの革の軽装が軋み、銀髪が陽光に輝く。悠太は汗で眼鏡が曇り、震える足でついていく。道中、悠太が尋ねる。
「リナ、こんなのいつもやってるの? 怖くない?」
彼女は肩越しに答える。銀髪が風に揺れ、紫の瞳が遠くを見る。
「いつもじゃない。腐敗がひどい時だけだ。怖いけど…お前みたいなのがいると、ひとりじゃない気がする」
悠太の胸が温まる。
「俺も、リナと一緒だとワクワクするよ。成長してる実感があるんだ」
リナの口元が緩み、距離がさらに近づく。
「…黙って集中しろ。敵が近いぞ」
森の奥、薄暗い木々の間で、七匹の影の徘徊獣が現れる。
体長2メートル、半透明の体は黒紫の霧に覆われ、歪んだ骨格が透ける。赤い目が霧の中で不気味に光り、尾の影の糸が液体の鞭のようにうねる。牙は結晶のように鋭く、陽光を反射してキラキラと輝く。
咆哮が森を震わせ、地面が振動し、木々が折れる音が響く。紫の霧が膝下を這い、冷たい感触が裾を濡らす。空気は腐った木と鉄の匂いで重く、悠太の心臓が喉に詰まる。
リナが短剣を構え、銀髪が風に舞う。紫の瞳が燃え、革の軽装が軋む。
「悠太、木の陰にいろ! 私が引きつける!」
悠太は太い木の陰に身を隠すが、足が震えて動けない。
リナは単身で獣に飛びかかる。短剣が弧を描き、影の糸が尾を引き、一匹の肩を切り裂く。霧が爆ぜるように散り、獣の咆哮が森に響く。地面が揺れ、土と苔が飛び散る。別の獣が横から襲い、爪が空気を切り裂く。シュッという鋭い音が耳を刺す。リナは軽やかに跳び、触手を避けるが、爪が肩をかすめ、革の軽装が裂ける。血が滲み、彼女は歯を食いしばる。すぐに反撃し、短剣から影の糸を放ち、獣の足を縛る。糸は紫の光を放ち、獣が暴れるが動きが鈍る。銀髪が汗で頬に張り付き、紫の瞳が燃える。
三匹が同時にリナを囲む。触手が蛇のようにうねり、彼女の足元を狙う。リナは短剣を振り、糸で一匹を縛るが、別の触手が彼女の足首を締め付ける。力が強く、彼女の体が一瞬硬直。牙が迫り、結晶のような光が彼女の顔を照らす。悠太の胸に恐怖が走るが、リナの危機に熱い衝動が湧き上がる。昨日助けた時の感覚――影の欠片を投げた瞬間の共鳴――が頭をよぎる。
「リナ、危ない!」
悠太は無我夢中で木の陰から飛び出す。恐怖で頭が真っ白だが、リナを守りたいという思いが体を動かす。地面に転がる拳大の影の欠片を掴む。電撃のような痛みが走り、指が焼けるように熱い。だが、痛みを無視し、心を集中。リナの教えを思い出す。
――影は川、流れに乗れーー
目を閉じ、川のせせらぎをイメージ。すると、欠片が突然熱を帯び、紫の霧が彼の手を包む。体に異様な力が流れ込み、心臓が強く脈打つ。
「うおおっ!」
悠太は咆哮を上げ、欠片を獣に投げつける。だが、今回はただの投擲ではなかった。
欠片が空中で紫の光を放ち、まるで矢のように加速。獣の胸に突き刺さると、霧が爆発的に散り、獣の体が内側から崩れる。赤い目が消え、咆哮が途切れ、獣が地面に倒れる。森が一瞬静まり、紫の霧が渦を巻く。悠太は自分の手に目をやり、震える。
「…え、俺、倒した!? なんだこれ!?」
眼鏡が汗で曇り、息が荒い。体に残る影の共鳴の感覚が、ワクワクと恐怖を同時に掻き立てる。
リナは触手から解放され、素早く動く。短剣が弧を描き、別の獣の首を切り裂く。霧が爆ぜ、彼女は息を切らして振り返る。紫の瞳が驚愕に揺れ、銀髪が汗で輝く。
「悠太…お前、今何をした!? あんな共鳴、影の民でも見たことないぞ!」
彼女の声に感嘆と混乱が混じる。悠太は痛む手を押さえ、苦笑する。
「わ、わかんない! つい! でも…なんか、すげえ力だった!」
リナは一瞬黙り、紫の瞳で彼をじっと見つめる。
「無謀だ。死ぬぞ、こんなことしたら…だが、あの力…お前、ただの外来者じゃないな」
彼女の言葉に、悠太の胸に火が灯る。痛む手を見下ろし、欠片の感触を思い出す。影の拒絶を乗り越え、異常な共鳴を起こした感覚が、成長の喜びと未知の可能性を予感させる。
残りの獣が咆哮し、リナが再び構える。
「下がれ、悠太! 後は私が片付ける!」
リナの短剣が舞い、影の糸が残りの獣を縛り、次々と切り裂く。だが、一匹がリナの死角から襲う。悠太は再び動く。別の欠片を掴み、痛みを耐え、投げる。今度は糸が自然に形成され、獣の足を縛る。リナがその隙に短剣を突き刺し、獣を仕留める。戦闘が終わり、森が静寂を取り戻す。リナは息を整え、悠太に近づく。銀髪が風に揺れ、紫の瞳が彼を見つめる。
「お前…本当に何者だ? 影の民でも、あんな共鳴は稀だ。糸を無意識に織ったぞ」
悠太は眼鏡を直し、笑う。
「俺にもわかんないよ! なんか、体が勝手に動いた!」
リナの口元に笑みが浮かぶ。
「…バカだな。だが、頼もしい。お前の力、期待以上だ」
その言葉に、悠太の胸に火が灯る。影の共鳴が、彼の中に眠る異常な才能を示している。戦闘のスリルと成功のワクワク感が、未来への希望を膨らませる。
村に戻り、夕陽が木々の隙間から差し込み、紫の霧が村を柔らかく包む。住民たちが広場に集まり、悠太に好奇と驚きの視線を向ける。長老が杖を地面に叩き、結晶が紫の光を放つ。白髪の老女の紫の瞳が悠太を捉え、鋭く輝く。
「悠太、戦場での共鳴を見た。影の民も見たことのない力だ」
長老の声は低く、岩のように重い。悠太は縮こまり、眼鏡を直す手が震える。
「え…俺、ただリナを助けたかっただけで…」
長老は杖を握り、結晶が強く光る。
「ただの外来者ではない。影と共鳴し、獣を倒した。お前の力は、影の民の末裔を超える可能性がある。伝説にある『影を統べる者』に似ている」
悠太は目を丸くし、息を呑む。
「影を統べる者? 俺が? そんな大それた…」
リナが脇に立ち、銀髪を軽くかき上げる。紫の瞳が悠太をちらりと見、驚きと信頼が混じる。
「長老の言う通りだ。悠太、あの共鳴は異常だった。私でもあんな糸は織れない」
長老は森の奥を指し、声を低める。
「だが、喜ぶのは早い。腐敗は強まっている。古代の影の脅威――『黒の深淵』が目覚めつつある。お前の力は、その脅威に対抗する鍵かもしれない。訓練を急げ、悠太」
悠太の胸が締め付けられる。世界を救うかもしれない才能という重圧が、恐怖とワクワクを同時に掻き立てる。
「世界の命運…マジかよ。俺、ただの図書館員だったのに…」
リナが肩を軽く叩く。銀髪が夕陽に輝き、紫の瞳が柔らかくなる。
「バカだな。図書館員だろうが、可能性はお前が証明した。死にたくないなら、私と一緒に強くなれ」
悠太は彼女の笑みに勇気をもらい、頷く。
「リナ…ありがとう。俺、置いてかれないように頑張るよ。世界とか、でかい話だけど…リナと一緒なら、怖くない!」
リナの頬が赤らみ、視線を逸らす。
「…調子に乗るなよ。だが、悪くない。明日も厳しくいくぞ、先生としてな」
悠太は笑顔で答える。
「了解、先生! リナの笑顔のために、レベルアップするよ!」
その夜、悠太は小屋の窓から星空を見る。シェイドリアの空は、紫の霧が星を滲ませ、夢のような美しさだ。リナの過去、影の共鳴、長老の言葉が頭を巡る。
「俺にそんな才能が…? 怖いけど、ワクワクする。リナと一緒に、この世界を守るんだ」
拳を握り、決意を新たにする。影の力とリナの存在が、未来を輝かせる。