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8.少年王は奴隷の娘に心を伝える

少年王視点になります


夜の帳が下り、王宮の中庭は静寂に包まれていた。月明かりが草花を照らし、幻想的な雰囲気を醸し出す。私は一人、噴水のほとりに佇んでいた。今日の公務が、心身に重くのしかかる。しかし、それ以上に私の心を占めているのは、マチルダのことだった。




彼女の助けがなければ、私は今ここにいなかっただろう。彼女の知恵と勇気が、私を救ってくれた。共に困難を乗り越える中で、私の彼女への想いは、もはや抑えきれないほどに膨らんでいた。彼女の美しい瞳、知的な言葉、そして、時折見せる憂いを帯びた表情の一つ一つが、私の心を捉えて離さない。




しかし、王である私と、奴隷である彼女。その身分の壁は、あまりにも高く、険しい。この想いを口にすれば、彼女を危険に晒してしまうかもしれない。家臣たちの猛反対は必至だろう。王国の安定を揺るがす事態にもなりかねない。そう考えると、私はただ、この熱い想いを胸の奥に押し殺すことしかできなかった。




そんな葛藤を抱えながら、私は何度も自問自答した。本当に、この気持ちを封じ込めて、何事もなかったかのように生きていくことができるのだろうか。彼女のいない世界で、私は本当に幸せになれるのだろうか。




その答えは、 否だった。




その夜、私は意を決して王宮に控えるようになったマチルダを呼び出した。月明かりの下、彼女はいつものように控えめな様子で私の前に現れた。しかし、その瞳には、かすかな不安の色が漂っているように見えた。




「マチルダ…」




私の声は、少し震えていたかもしれない。彼女は静かに私を見つめ返してくる。その視線が、私の胸を締め付けた。




「今宵、そなたに伝えたいことがある」




深呼吸を一つ。張り裂けそうな胸の鼓動を抑えながら、私は言葉を続けた。




「そなたと初めて会ったあの日から、そなたの奏でるハープの音色、そして、その美しい瞳に、私は心を奪われた。共に過ごす時間の中で、そなたの知性、勇気、そして何よりも、その優しい心に触れ、私の気持ちは、日ごとに強く、そして深く、そなたへと惹かれてきた」




言葉を選びながら、私は精一杯、自分の想いを伝えた。彼女は、私の言葉を静かに聞いていた。その表情は、驚きと戸惑いが入り混じっているようだった。




「マチルダ……私は、そなたを愛している。身分も年齢も全てを超えて、そなたのことを……」




言い終えると、私は彼女の目をじっと見つめた。月明かりの下、彼女の瞳が、わずかに潤んでいるように見えた。




沈黙が、私たち二人の間を流れる。それは、永遠にも感じられるほど長い時間だった。私は、不安と期待が入り混じった感情で、彼女の言葉を待った。




やがて、マチルダはゆっくりと口を開いた。その声は、微かに震えていた。




「陛下……そのようなお言葉を……わたくしのような身分の者に……」




彼女は、言葉に詰まり、俯いてしまった。その肩が、わずかに震えている。




「身分など、この真の愛において関係などない」




私は、力強く言った。




「私の心を満たすのは、そなたの存在だけだ。そなたがそばにいてくれるだけで、私はどんな困難にも立ち向かえる。そなたの笑顔を見るだけで、私の心は温かくなるのだ」




私は、そっと彼女の手に触れた。彼女は、驚いたように顔を上げた。その瞳には、溢れんばかりの涙が溜まっていた。




「わたくし……わたくしも……」




マチルダは、震える声でそう言うと、私の手をそっと握り返してくれた。その小さな手の温かさが、私の全身にじんわりと広がっていくのを感じた。




「陛下……わたくしも、あなた様の優しさ、お人柄に、心惹かれておりました。しかし……わたくしのような身分の者が、王であるあなた様を……そのような不敬な……」




彼女の言葉は、途切れ途切れだった。しかし、その瞳に宿る光は、私の告白を受け入れてくれたことを物語っていた。




「不敬などではない」




私は、優しく微笑みかけた。




「私の心は、今、そなたで満たされている。それこそが、真実なのだ」




月明かりの下、私たちは互いの手を握りしめ、見つめ合った。言葉はなくても、私たちの心は深く通じ合っていた。身分という巨大な壁は、まだ私たちの前に立ちはだかっている。これから、多くの困難や葛藤が待ち受けているだろう。それでも、私たちは、この抑えきれない愛の告白を胸に、共に未来を切り開いていくことを誓い合ったのだ。




今宵の告白は、私たち二人の関係にとって、間違いなく大きな転換点となるだろう。これから、周囲との激しい対立や葛藤が始まるかもしれない。しかし、私たちはもう一人ではない。互いを想う強い気持ちを胸に、困難に立ち向かっていくことができると、私は信じている。そして、この愛が、いつか必ず、身分の壁を超えて結ばれる日が来ると、私は心から願っているのだ。







お読みくださりありがとうございます。


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