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7.少年王は心を寄せる

少年王視点になります


マチルダとの交流が深まるにつれて、私は彼女への想いを募らせていった。彼女の聡明さ、物事の本質を見抜く力、そして何よりも、逆境に負けない凛とした強さに、私は心底惹かれていた。共に音楽や書物を語り合う時間は、私にとって何よりもかけがえのないものだった。




しかし、私たちの間には、決して越えられない壁が存在していた。奴隷と国王。その絶対的な身分差は、常に私たちを隔て、私の胸に重くのしかかった。彼女が私を見る瞳には、常に一抹の悲しみと諦めが宿っているように見えた。それは、彼女が自分の立場を誰よりも理解している証拠だった。




さらに、七歳という年齢差も、私を不安にさせた。彼女は私よりも長く生きており、様々な経験を積んでいる。未熟な私を、彼女はどのように見ているのだろうか。ただの子供としてしか見ていないのではないか。そんな疑念が、時折、私の心を蝕んだ。




そして何よりも、家臣たちの反対は火を見るよりも明らかだった。私が奴隷の身分の女性に心を寄せているなどと知られれば、彼らは激しく反発するだろう。

王としての私の立場も危うくなるかもしれない。王国の安定を考えれば、個人的な感情に溺れることは許されない。私は、王としての責任と、マチルダへの抑えきれない想いの間で、深く葛藤していた。




マチルダもまた、苦悩を抱えていることは明らかだった。彼女が時折見せる憂いを帯びた表情や、ふとした瞬間にこぼれるため息が、それを物語っていた。

故郷の家族を恋い慕う気持ち、そして、奴隷という身分から抜け出せない絶望感。

そんな彼女の心の奥底には、私と同じように、決して口に出せない感情が渦巻いているのだろうか。

年下の私に惹かれるなど、彼女にとってどれほどの葛藤があるだろうか。想像するだけで、胸が締め付けられた。




そんなある日、王宮内に不穏な空気が流れ始めた。宮宰と敵対する財務大臣中心とした一派が、密かに何かを企んでいるらしいという噂が、私の耳にも届くようになった。彼らは、私が若く、実権を握れないことをいいことに、国政を壟断し、自分達が新たに私を傀儡として操ろうとしているのだ。




私は、警戒を強めたものの、彼らの動きを掴むことは容易ではなかった。周囲の人間は皆、財務大臣の息がかかっており、頼れる者は誰もいない。孤独と不安が、私の心を深く覆っていた。




そんな中、マチルダがそっと私の元に現れた。いつものように控えめな態度ではあったが、その瞳には、強い決意のような光が宿っていた。




「陛下、ご用心くださいませ」




彼女は、周囲に誰もいないことを確認すると、低い声でそう言った。そして、私が耳にした噂よりも、さらに具体的な陰謀の内容を教えてくれたのだ。財務大臣一派は、私の暗殺を企て、新たな王を擁立しようとしているという。




私は、マチルダの言葉に衝撃を受けると同時に、彼女の聡明さに改めて驚かされた。一体、彼女はどのようにしてそのような情報を手に入れたのだろうか。




「どうして、それを…?」




私の問いかけに、マチルダは静かに答えた。




「微力ながら、私なりに情報を集めておりました。陛下が危ない、と感じたからです」




その言葉を聞いた時、私の胸に熱いものが込み上げてきた。身分も立場も違う彼女が、危険を冒してまで私を助けようとしてくれている。その事実に、私は深い感動を覚えた。




その後、マチルダは、財務大臣一派の計画の弱点や、彼らの動きを探るための具体的な方法を、私に密かに教えてくれた。彼女の指示は的確で、冷静沈着だった。私は、彼女の知恵と勇気に、ただただ感服するばかりだった。




マチルダの助けを得て、私は慎重に反撃の準備を進めた。そしてついに、奴らが計画を実行に移そうとしたその時、私は彼らを宮宰と相談のうえ一網打尽にすることができたのだ。




この一連の出来事を通じて、私はマチルダに対する信頼感を、より一層深めた。彼女は、ただ美しいだけの存在ではなかった。困難な状況においても、冷静に状況を分析し、的確な判断を下すことができる、頼りになる存在だった。




一方、マチルダもまた、私の変化を感じ取っていたのかもしれない。陰謀を阻止するために奔走する私の姿を見て、彼女は、私がただの傀儡の王ではないことを理解したのだろう。彼女の瞳から、以前のような諦めにも似た憂いは消え、代わりに、ほんのわずかな希望のような光が宿るようになったように感じた。




困難な状況を共に乗り越える中で、私たちの間には、言葉では言い表せない特別な絆が生まれた。それは、単なる主従関係や、友情とも違う、もっと深く、もっと強い繋がりだった。互いの弱さも強さも知り、支え合う中で、私たちは、お互いにとってかけがえのない存在になりつつあった。




そして、私は確信した。私がマチルダに抱いている感情は、単なる憧憬や興味ではない。それは、彼女の魂に触れ、彼女と共に生きたいと願う、紛れもない 愛なのだと。しかし、この想いを成就させるためには、あまりにも多くの障害を乗り越えなければならない。それでも、私は諦めたくなかった。彼女と共に歩む未来を、私は心から願っていた。






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