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1.楽しい船出に海賊現る



青く美しい海を、白い帆を大きく広げた船が進む。

船首で風になびく栗色の髪、潮風を浴びる美しい少女マチルダだ。

14歳のある日、故郷エトトス島を離れ、姉が嫁いだテウデリク王国へ遊びに向かう船旅に、彼女の胸は希望でいっぱいに膨らんでいた。

姉が住む国での楽しい時間を想像し、マチルダの頬は自然と紅潮する。




「お嬢様、お風邪を召されますよ。」




優しい声が背後から聞こえ、振り返ると、年老いた乳母が心配そうな眼差しで見守っていた。

マチルダはにっこりと微笑み、



「大丈夫よ、グラニー。こんなに素晴らしい景色を見ていると、わくわくして眠気も寒さも吹っ飛んでしまうわ。」






水平線には、青い海が広がり、時折、陽光を浴びてきらめく。海鳥の鳴き声が心地よく響き、船はまるで空を飛ぶ鳥のように軽やかに波を切っていく。マチルダは、この穏やかな時間がいつまでも続くと思っていた。




その静寂を切り裂くように、けたたましい叫び声が響き渡ったのは、正午を少し回った頃だった。




「敵襲だ!海賊だ!」




甲板を駆け抜ける船員たちの慌てふためく声。

マチルダは、何が起こったのか理解できず、立ち尽くした。

遠くの水平線に、黒い影がいくつか現れた。それはみるみるうちに大きくなり、恐ろしい形相を露わにしていく。





海賊船だ。





黒い帆を掲げた船は、まるで獲物を狙う獰猛な獣のように、こちらへ迫ってくる。

マチルダの顔から、先ほどの笑顔は消え失せ、恐怖で蒼白になった。





「お嬢様、早く船室へ!」





乳母のグラニーが必死の形相でマチルダの手を引き、船室へと急ぐ。

しかし、すでに遅かった。


海賊船は、信じられない速さでこちらの船に横付けし、屈強な男たちが剣や斧を手に、次々と乗り込んできたのだ。




「うわあああ!」




水夫たちの悲鳴、ぶつかり合う武器の音、怒号。穏やかだった船上は、瞬く間に血と硝煙の匂いが立ち込める戦場と化した。

マチルダは、恐怖で足がすくみ、その場に立ち尽くすことしかできない。




海賊たちは、顔に傷跡を持つ、屈強な男たちばかりだ。ギラギラとした眼光は獲物を狩る獣そのもので、彼らが近づくたびに、マチルダの心臓は激しく脈打った。




「金目の物を全て出せ!抵抗する者は容赦しない!」




野太い声が響き渡り、海賊たちは手当たり次第に船員たちを斬りつけ、積み荷を奪っていく。


抵抗しようとした船員は容赦なく鋭利な剣で切り捨てられる。



「ぎゃぁぁ!」



と悲鳴が響き渡る。



乳母のグラニーは、マチルダを庇うように前に立ち塞がったが、海賊の一人が突き飛ばし、床に倒れ込んだ。




「グラニー!」




マチルダは叫び、倒れた乳母に駆け寄ろうとした。その時、背後から乱暴に腕を掴まれた。




「おとなしくしろ、娘!」




粗野な言葉と共に、鋭い痛みが腕に走る。

振り返ると、汚れた顔をした巨漢の海賊が、ニヤリと笑っていた。彼の目は、獲物を見つけた肉食獣のように、マチルダを値踏みするように見つめている。




「ひっっ!」




恐怖で声も出ないマチルダは、ただ震えることしかできない。周囲では、まだ激しい戦闘が繰り広げられているが、彼女にはもう何も見えなかった。ただ、海賊の強靭な腕が、彼女を暗闇へと引きずり込んでいくのを感じるだけだった。



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