6 旅立ち
眠っていた木々が目覚め、まばらに残った雪と緑が美しく映える頃、リラとアワは箱庭の入り口に来ていた。
小川の向こうはこちらと同じ景色が広がっているように見えるのに、渡ると見えるのは花が咲き誇り緑萌える春の暖かな景色。
箱庭の繋ぎ目は、何度見ても不思議だ。
「忘れ物はない? 用意したものは全部鞄にしまったわね?食料もちゃんと持った?路銀は足りるかしら…」
「忘れ物は忘れてるのでわかりません。でも全部しまいましたよ。食料も持ちました。路銀は、ルペラさんから渡された分もあるので大丈夫です」
心配そうにこちらを見つめる、空を思わせる薄い青の瞳。
「僕より不安そうじゃないですか」
にこりとアワが笑うと、リラもにこりと笑う。
「リラが先生に師事を受けに家を出た時も、リラの両親はこんな気持ちだったのかしらね」
リラが細長い、桐の木箱を差し出す。
「リラからの餞別よ。魔道具ではないけれど、リラによる魔法の特訓を無事終了した印。開けてみて」
そっと蓋を開けると、中には黒くて艶やかな細長い棒。
手に取ると、光の当たり加減で黒の中に赤っぽい色が見えるのが分かる。
「朱雀っていう魔法生物の嘴を削り出した杖よ。魔法に指向性を持たせて、操作しやすくする道具ね。訓練の時は無いほうが練度も上がるけれど、実際に使う時は操作しやすいほうがいいでしょう? 朱雀の嘴は、癖がなくて扱いやすいわ。魔力の通りもいいしね。何度か軽く魔力を流して慣らしたら、驚くほど手に馴染むはずよ」
「わぁ、ありがとうございます。大切にします」
「嬉しいわ」
しばしの間リラと雑談を楽しんで、アワは旅行鞄を持ち上げる。
「じゃあ、行きます。でも、また必ず帰ってきます」
「えぇ、達者でね。また帰ってきたら、ぜひ来てちょうだい。歓迎するわ。お土産話を楽しみにしておくわね」
リラは、姿が見えなくなるまで見送ってくれた。
心が温かくなるのを感じる。
吹き付ける風も心なしか暖かい。春の日差しも優しい。
旅立ちにはいい日だな、と贈られた杖を握りしめる。
つるりとひんやりとしているのに、その中に温かさもある。朱雀の嘴、不思議だ。
溶け始めた雪の隙間から芽吹く双葉。
未だ白いうさぎが遠くを跳ねる。
ふと、頬を撫でるひんやりとした風が賑やかな声を届けた。
顔を上げると、遠くに見えるたくさんの建物。
街に、着いたらしい。
「高いわねえ、もう少し何とかならないの?」
「そんなぁ、奥さん、もうこれ以上はうちが潰れますよぉ 」
「おーい! そこのお兄さん、緑でしょ? いい薬草入ったの、見てってよ!」
「それ見せて、あ、これ湿気ってる。やっぱり要らない」
街、というよりも市と言ったほうが正しかっただろうか。すごい活気だ。
「兄ちゃん、そこの兄ちゃん、そうお前さんだよ。うちの食べてかないか? 味は保証するよ」
声をかけたのは、大きな寸胴鍋をかき混ぜている屋台の店主。
白髪の混ざり始めた髪を短く切りそろえた、人のよさそうな笑みを浮かべた男性。
「スープ? 一つ貰うよ、いくら?」
「お、毎度あり! 一杯450ルビだよ。ララファを付けるなら500」
「ララファ?」
「おっと、兄ちゃんララファを知らんのか。シイモっつう芋を蒸して潰して干したやつだよ。焼いたら水で戻さないでも柔らかくて伸びるようになるんだ。シイモは保存も効くし育てやすいしいろいろ加工できる優れもんだよ。ララファはもっと保存効くしな」
店主が見せてくれたララファは、小さめの丸餅のような見た目だ。
「ララファも付けてほしい」
「あいよ! ちょいと待ってくれ」
店主は、3つほどのララファを炭火で焼き始める。
「ここは、なんて街か教えてくれる?」
「ん? そんなことも知らずに来たのか……あぁ、兄ちゃん旅のもんか。ここぁルラゾルブって言ってウェストサイド最大の商業都市だよ。街の外周は市が広がってて、中心部は商人たちで賑わってる。珍しいもんも高いもんも、ウェストサイドじゃ一番手に入るぜ。この道をまっすぐ進んでいくと大通りに着くんだが、そうすっとでっかい荷馬車が行ったり来たりしてるのが見れるさ」
一瞬怪訝そうな顔を見せた店主だが、アワのいかにも旅人らしい格好を見て納得したらしい。
「ほらよ、お待たせ。熱いからゆっくり食えよ」
湯気をあげるスープがたっぷり入った大きな木の椀とスプーンを渡す店主。
どろりとした、かなり粘度が高く糸を引いている雑煮のようなスープにこんがり焼けたララファが載せられている。
「あぁ、ありがとう」
「ん? 兄ちゃん色持ちの関係者か? 魔術師なのか?」
ふうふうと息を吹きかけてスープを冷ましていたアワは、その声に顔を上げる。
「あぁ、その腕輪、色持ちが付けれる魔力の気配付けてあるんだよ。人によって違うらしいから、詳しいやつは誰の気配か分かるらしいがあいにく俺は分かんねぇ。まああれだ、色持ちはこの辺にゃ住んでねぇぞ。頭のおかしい奴だとか、偏屈な奴だとかばっかだからな、色持ちって。もっと郊外に行ったほうが会えるぞ」
「魔術師では、ない」
そろそろ良いかとひと掬い、口に含む。
野菜の甘みやうまみがしっかりスープに溶け込んで、程よい塩見がちょうどよい。
どろりと糸を引くスープに若干嫌悪を抱いていたが、これがなかなかおいしい。
「なあんだ、若いし、修行中か。頑張れよ。俺もむっかし紫のとこで修行したもんだが、ついに魔術師にもなれずに追い出されたよ。外世界に居たころは荷運びなんかやって細々やってたが、箱庭に住んでからはこうやって屋台やって細々だな。兄ちゃん、魔術師にはなったほうが良いぜ。高い給料もらえるとこに勤められるようになるからな。できるならそりゃ色持ちになれればいいが、あんなん頭のネジがひとつふたつ外れたような頭のおかしい天才しかなれないようなやつだ」
この店主はかなりお喋りだ。こちらが一言も話さずに食べていても構わず話し続ける。
「うまい」
「お。ありがとよ、そいつあメイヤっつう植物でとろみ付けをしてんだ。糸を引くから知らん奴は嫌がるが、メイヤは栄養も豊富で安くて腹にもたまる野菜だからな。入ってたほうが嬉しいってもんだろ」
「おいしかった。ありがとう」
「おう、気に入ったらまた来てくれ! それが一番うれしいってもんだ」
木の椀とスプーンを店主に返して、ふと思い出したようにアワは話す。
「あまり街に行かなかったもので、魔法族は皆魔女ないし魔術師は貰っていると思っていた。それが成人の目安とも聞いていたし。それ以外は皆人間だとてっきり」
店主は、わずかに顔を顰める。
「兄ちゃんに悪気が無いのが分かるからそこまで気にしないが、魔法族に人間だと思ったなんて言うもんじゃないぜ。そもそも人間はこの辺にゃ来れねぇよ。確かバッファーゾーンまでだったはずだ。雇われならたまーにいるが相当珍しいぜ。学園あたりはぼちぼちいるんだがな。あと、魔術師になってなくても1000超えたら成人には認められるさ。半人前っつうのはずっと言われるがな。半人前はかなり多いぜ。そもそも魔術師自体、なれるのは半分もいないさ」
「そうか、悪かった」
「知らんかったなら仕方ねぇよ」
「ところで、色持ちはどんくらいがなれるんだ?」
木の椀とスプーンを水球の中でこねくり回して洗っていた店主はその言葉を聞いてこちらを見やる。
「お? あぁ、えっとなぁ、たしか魔術師の1割もなかったはずだぜ。なんだ、兄ちゃん目指してんのか? じゃあいいこと教えてやるよ。魔術師貰ったら、今師事してる色持ちのとこを抜けて新しく師匠を付けられるんだ。あんま褒められたことじゃねぇが、やるやつはやる。元の師匠と馬が合わねぇ奴なんか迷わずやるぜ。色持ちになるためにって一生修行するやつもいるんだ、嫌いな奴の下に一生いれっかよってことだよな。あとは、色持ちの中には弟子が全員魔術師になった、すげぇ奴は全員色持ちって奴もいる。もちろん本人の力はでかいが、教え方も多少あるってもんだ。それを期待して師匠を変える奴もいるぜ。まあでも、たくさん弟子を抱える利点なんて無いから、そんなうまくいくわけでも無いけどよ」
「そんな方法があるのか。あ、ララファって別売りしてないか?」
洗い終わった食器をふきんで拭きながら店主はララファが入った布袋を見る。
「なんだ? 兄ちゃんララファ気に入ったのか? 別売りなぁ、1個60でどうだ?味は塩しかねぇが。その辺の露店でも1キロ1000はしねぇから自分で買ったらどうだ?焼くだけで食えるぜ。そうだなぁ、1キロなら20個くらい入ってると思うぞ」
「探してみる。3つくれ」
「あいよ。焼くにも時間かかるし、なんか聞きたいことあったら、わかることなら教えてやるぞ。兄ちゃんが俺の若い頃に見えてきたんだよ。魔力も多くねぇ、師匠には旅に出されるくらいの出来の悪さ。俺みたいになんなよぉ、苦労するぜ。俺はこの年になっても子供はおろか嫁さんもいねぇ。まあ、屋台で日銭を稼ぐような男に嫁入りする物好きもいないよな」
ララファを網に並べながら話す店主。憐みのような雰囲気が感じ取れなくもない言葉に少しムッとしたアワだが、本人の自虐も感じ取れたため表には出さない。
「特にはない……いや、弟子が全員色持ちって人を教えてくれ。単純に、そんなすごい人なら興味も湧く」
「あぁ、もっといるかもしれねぇが、俺が知ってるのは緑の原色様だな。あのひとぁすげぇ人だよ。あぁ、先代の黒の彩色様もいたか」
「原色様? あぁいや、原色の会と彩色の会はさすがに知ってる。魔女と魔術師の特に優秀な色持ちが1人ずつ選ばれた組織だろ?政治に介入する権利も持ってる」
「あぁ、その原色様と彩色様だよ。緑の原色様はアナシア様だな、特に有名な弟子はルペラっつったか。あげた手柄は緑の話に明るくねぇ俺でも舌を巻くようなもんばっかだが、世間の評価はあんま良くねぇな。偏屈で無愛想でいつも人を見下してる魔法なしってな。一度見たことあったが、人間どころか魔法族のことも道端の石ころ見るみたいな目でよ、あの人の目にぁ魔術師も名乗れないようなやつはその辺の石ころと同じなんだろうな。さすが悪評つくだけあるなとは思ったよ。黒の彩色様はガルーダ様だ。あの人は最後の大戦の終戦間際に亡くなってる。弟子も、すごいやつばかりだったらしいが、俺が生まれる前にみんな戦争で亡くなったらしい。俺はこう見てまだ4000くらいなんだよ。魔力が少ねぇから短命なんだ」
「ルペラ……」
「なんだ、あのルペラのこと知ってたのか。……まあ、性格には難ありかもしれねぇが、常人離れした才能があれば性格もひねくれたって仕方ねぇよな。なんてったって、アナシア様んとこに弟子入りしてから色持ちになるまで40年もかかっちゃいねぇばけもんだ。魔術師になるんだって、500年超える人はざらにいるんだ。俺たちぁ凡人の物差しで測っちゃいけねぇ人だよ。師匠が自分の名のために弟子の実力を甘く見たってことも無くはないが、あのアナシア様だ、そんなことするわけねぇよ。――ほら、焼きララファだ。冷めたら硬くなるから早めに食っちまえ」
「あぁ、ありがとう。面白い話もありがとう」
アワは、ララファを受け取ると店主に軽く手を挙げて大通りのほうへ歩き出した。
ふらふらと、露店や屋台、ショーウィンドウに並べられた商品を見ながら大通りを目指して歩くアワ。
ルペラやリラの家で見たことのある道具や食べ物もあれば、使い方が検討も付かないような奇抜な形の古めかしい道具だったり、毒でも持っていそうな禍々しい見た目の植物だったり。目に映るものがどれも新鮮で面白い。
そうこうしているうちにたどり着いた大通りは、先ほど店主が言っていたように荷車が行きかうとても広い道だった。
一頭引きの台車だけの小さな馬車もあれば、四頭引きの立派な幌付きもある。
そして、決して速いとは言えない馬車でも途切れなく行ったり来たりしているのを見ると、大通りを歩くのは躊躇してしまう。
何より、馬が突然暴れだして踏まれでもしたとき、怪我で済めば御の字といったところだという。
それを教えられてからは、アワはどうも馬が怖い。
結局、大通りから一本入った道を歩き出す。
一本入っていても、この街は道のわきには露店や屋台が並んでおり、買い物客も多い。
時刻は昼下がり、いや、それより少し過ぎた頃だろうか。
アワは賑わう市をあっちへふらり、こっちへふらりと寄り道しながらゆっくりと歩く。
『一泊 素泊まり 一人1500ルビ』
そんな看板が掲げられたお世辞にも綺麗とは言い難い宿屋。
そろそろ陽も沈みだした頃、アワはその宿屋の前に立ってた。
このあたりを見て回って、この宿屋が一番安かった。
一文無しではないにしろ、稼ぐ手段を持ち合わせていないアワにとって、渡された路銀は節約したいところだ。
それにしては先ほど屋台で買い食いをしたり、物珍しい気に入ったものを購入したりしていたが。
「一人、一泊したいんだ。空いてる?」
看板に書かれていた通り、1500ルビをカウンターに置きながら声をかけたアワに、手元の帳簿に何か書きつけていた無愛想な男はこちらをちらと見やる。
ルペラにも負けず劣らずの表情の乏しさだ。
「手前から二番目の大部屋。空いてるベッドを使ってくれ。揉め事は起こすなよ、放り出す」
値段に見合った無愛想さだ、とアワは大部屋の扉を開ける。
思っていたよりは混んでいない。
しかし隅はすでに埋まっている。ならば、と両側がまだ埋まっていないベッドのわきに旅行鞄を下ろして腰かける。
着たまま寝転ぶとゴワゴワする厚手の外套を枕元の小さなフックに引っかけて、ごろりと寝転ぶ。
市をぶらぶらしている間に、細かく刻んだ肉と野菜が餡の、ピリッと辛みが効いたおやきのようなものや、ハーブが爽やかな少し筋張った肉と野菜の焼き物をつまんだためお腹は減っていない。
何より最初のどろりとしたスープとララファが、思った以上に腹持ちがいい。
しかし、あのおやきはなかなかおいしかった。
明日の朝、また見つけたら買ってもいいかもしれない。
陽も沈んでしまえば、安宿の大部屋はちらちらと揺れるろうそくやランタンのほのかな明かりだけ。
その柔らかな明かりに誘われるように微睡んでいると、空いていた隣のベッドから物音が聞こえる。
「あ、起こしてしまったか、悪い。気を付けてはいたんだが……」
隣のベッドのそばに荷物を下ろしていたその男、アワより幾ばくか年上に見える青年は少し申し訳なさそうに軽く頭を下げる。
アワも、まだ寝るにはいささか早いと理解しているため、特に何を言うでもなく軽く頭を下げる。
「君は、何をしているんだい?」
何を話すでもなく、ただ荷物を確認したり、ぼんやりとしたりしていたところに急にかけられた声。
「え、荷物整理……あぁいや、旅を」
「旅、へぇ。僕は旅商人をしているよ。駆け出しだけど、元師匠の恩情で小さな馬を贈って貰って、それを足にしてる」
にこりと愛想よく笑う青年。この宿屋の店主とは正反対の人物とみてもいいかもしれない。
ならばリラに近いだろうか、どちらにせよルペラとはほど遠い種類の人だ。
「あなたも、破門されたのですか?」
「僕は別に偉い人でもないしため口で構わないよ。……ということは、君もかい?」
「え? いや、僕は違う」
「師匠に旅に出された感じ?」
ルペラとリラ、どちらも師匠ではないが、まあ間違いでもないかと頷く。
「へぇ、どこかアテはあるの?」
「いや全く。いろいろ自分の目で見たら面白いんじゃないの?って言われただけ」
ふぅん、と憐み半分仲間を見るような親しさ半分でこちらを見る青年。
「バッファーゾーンより内側のレジデンスエリアとセンターエリアはどこも変わり映えしないし、面白いものが見たいなら人間が住んでるカントリーサイドまで足を延ばしていいんじゃない?」
「手続きがまどろっこしいのは嫌いなんだ」
山羊の胃で作ったと言っていた水筒から水を一口飲んで喉を潤す。
リラが物置から引っ張り出してきた古い品なのでどうか分からないが、これにミルクを入れておけばチーズができるかもしれない。
「止められる時はセントラルエリアで呼び止められはするだろうが、魔法族って証明ができるならすぐ抜けられるよ。石板にはまったガラス玉に魔力を流すだけでいいさ」
ルペラと初めて会った時に使った水晶玉を思い出して、苦い顔をするアワ。
「魔力が少なすぎて人間と思われそうだ」
「へぇ、魔力なしか、珍しいね。あ、いや、別に蔑称で使ったわけじゃ無いから、他の呼び方を知らないだけだから」
こちらが何も言わずとも1人で慌てだす青年はなんというか、少し滑稽だ。
「なにか身分の証明できそうなものは持ってる? ほら、魔術師と師弟関係にあるって分かる物があれば人間とは間違えようが無いから」
軽く頭を傾げながらルペラがくれた通行許可書を思い出す。あれならば使えはするだろう。
「それなら大事なさそう」
良かった、と笑みを浮かべる青年。商人はどういうものか知らないが、ここまでのお人よしがなっていい職業なのか。
「僕はカントリーサイドに足を延ばすようになって初めて、見渡す限りの小麦畑とか、山の斜面に広がる果樹園とか、青々と茂ったとてつもなく広い牧場とか、端が見えないほど広くてしょっぱい水でできた湖みたいな海って場所とかを見たんだ。あとはレジデンスエリアじゃお目にかかれないような珍しい花とか、生き物とか。カントリーサイドは面白いよ。人間たちがそこを箱庭の中だと知らないのが納得できるくらい、一つ一つの箱庭が広いんだ」
きらきらと子供用に目を輝かせて語る青年がとても楽しそうで、カントリーサイドという場所に行ってみたい気持ちが少しずつ湧き上がってくる。
「ちなみに、あなたの勧める場所は?」
「僕?うぅぅぅん、どれも甲乙つけがたい、カントリーサイドには、可能なら一度は足を運んでほしい場所ばかりだよ。レジデンスエリアじゃ、せいぜい山と草原と森と川と小さな湖とくらいしかないし、センターエリアはどこもかしこも石造りの建物ばかり。だからこそどこも目新しくて楽しいんだ。でも、そうだなぁ、うぅん、海もなかなか珍しくて面白かったが、青が深すぎて飲み込まれそうで怖かったんだ。どこもかしこも小麦畑の箱庭が一番おすすめかな。黄金色の穂がどこまでも広がる様子は絵に描きたいくらい綺麗だし、パンや麺がおいしかった。夏は夏で、青々とした麦の穂が風になびく様と、空の青さとの色の対比が魅了して止まないし、春先は伸びだした若葉が畑を覆いだす頃で、これがなかなか美しい。畔に咲く春の小花がそこにいい味を加えているよ。冬は小さい麦の芽が雪の間に見え隠れして、その様子がとてもいじらしいんだ」
「あなた、旅商人より詩人にでもなったら?そこまで景色に語れる人はなかなかいないと思うけど」
「そうかい? はは、幼いころから本が好きだったんだ。なら、詩人よりも、商人をしながら旅日記でもつけてみたら面白いかもなぁ。小さい頃はそういう本を読んでは旅をしてるところを妄想したもんだ」
ひとつひとつとわずかな明かりが消されていく。
思ったよりも長い時間話し込んでいたらしい。
「ありがとう、面白かった。その麦畑、目指してみる。その次は海ってとこにも行ってみる」
「あぁ、大したことはしてないよ。ぜひあの素晴らしい景色に見惚れてくれ」
お互い、にやりと笑いあってろうそくを吹く。
名前すら知らない通りすがりの人だけれども、意外と話が進むものだ。
名前は知らないままでもいい。旅での出会いとはそういうものなんだろう。
魔術師というものは、そう簡単になれるようなものではなかったということです。
色持ちのルペラは言わずもがな、色なしでも魔術師のリラもかなりのエリートだったというわけです。
そもそも、魔術師のなりやすさは色によって変わります。
色は7色、赤(戦闘)青(未来視、過去視)緑(薬学)黄(建築、鍛造、細工)紫(幻術、呪術)黒(魂や死、時間、空間)白(浄化、治療、精神)があります。白と黒は特にできることの解釈が曖昧なので、端的に表すことが難しいです。
魔術師になりやすいのは緑と黄です。
この二つは、ある程度までは才能よりも努力です。頑張ればどうにでもなります。
逆に、黒と白はなろうと思ってなれるものではないため除くと(生まれ持った色が黒ないし白でないといけない)青が魔術師になりづらいです。
色持ちのなりやすさは逆で、魔術師になる段階で才能がないと振るい落とされる青はなりやすく、努力で誤魔化せる緑と黄はなりづらいです。
いいね等頂けますと作者が喜びます。
この度は私の作品をお読みくださりありがとうございます。
もしよろしければ、次の話もお読みいただけますと嬉しく思います。
分かりにくい部分が多いかと存じますので、質問などございましたら気軽にお願いいたします。
物語に大きくかかわらないものであれば、あとがきのスペースを借りてお答えいたします。