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4 新しい家

すっかり日が暮れ、薄暗い小道をアワは早足で歩いていた。

今日は日が暮れる前に帰るつもりだったのでランタンを持っていない。


人が居なくなるからと閉じていたルペラの箱庭へ続く入り口はやはりもう開いている。ルペラはもう帰っているらしい。

そのまま雑木林の暗い小道を進んでいく。

林から出てしまえばもうそこはルペラの箱庭だ。

家には明かりが灯っている。


アワは、その明かりを目指し歩いていく。










「ただいま戻りました。遅くなってすみません」


キッチンで小鍋を見ていたルペラが顔だけアワの方に向ける。


「あらまあ、ずいぶんと遅くなったわね。外はそんなに楽しかったかしら。私は箱庭の入り口で待っているように言っていたと思うのだけれど」


嫌みったらしいルペラの声に、不快感が少し湧く。


「果物屋のおじいさんが転んでしまったんです。念のため娘さんが着くまで一緒に居たら遅くなってしまいました」


「てっきりもう帰らないつもりかと思ったわ、残念」


アワは少しムッとしながらルペラの横を通り過ぎる。


「手を洗って来ます」


「えぇどうぞ、行ってらっしゃい」










夕食を食べていた時、ルペラが何も言わずに渡してきた紙をアワは戸惑いながら受け取る。


「通行許可証よ。おまえ、図書館に行きたいってずっとうるさいんですもの。少し前まではあんなに静かだったのに」


ぱっと顔を明るくして、アワは通行許可証を部屋に持っていく。


「ありがとうございます、1人で図書館まで行けるようになったってことですよね」


「えぇ、でもほどほどになさい」


嬉しそうににこにこしながら何度も頷くアワに、ルペラはそっぽをむいてふんと鼻を鳴らす。


「それで、ここからが真面目な話よ。おまえ、旅に出ない?」


「邪魔になりましたか?」


「端的に言うとそうよ」


ルペラはひとくち水を飲む。


「ずっと止めてた研究を再開するの。1人のほうが何かと良いから。それからおまえも、自分の目で見て回るほうが本を読むだけよりもずっと良いんじゃないの?」


アワが止めていた食事の手を、ルペラが食べなさいと手で促す。


「もともとすぐに追い出されるだろうなと思っていました。今までありがとうございます」


ルペラは表情を変えないまま、今度は透明の石と彫刻で飾られた銀の腕輪をテーブルに置く。


「新しく歩みだす人には物を贈るのが慣わしよ。おまえ、魔法は使えるけれど、魔石から取り出した魔力は一度自分の魔力と混ぜないと使えないから。おまえが垂れ流してる魔力を一時的に貯めておく魔道具。魔法の使い方はリラが教えるわ、近いうちにリラの箱庭に行きなさい」


アワは、そっと腕輪を手に取る。

思ったよりも軽い。ずっと付けていてもそこまで違和感はなさそうだ。


「こんな高そうなもの、良いんですか?」


「おさがりだもの、気にしないで」









ルペラの家を出発した日は、雪がとめどなく降っていた。


刺すような寒さの中を、地図を頼りに進んでいると、小川に掛かった橋を渡ったところで柔らかく温かい風に包まれた。


初めて訪れたリラの箱庭は、真冬だというのにまるで春のように花が咲き乱れ、木々は萌え、小鳥が(さえず)っている。


「いっらしゃい、待っていたわよ」


石が積み上げられて作られた塔からにこやかに出迎えたリラは、そのままドアのすぐ近くのソファにアワを案内する。


「コーヒーは飲める? 苦手ならホットミルクがあるわ」


「あ、ミルクをお願いします。あの、ここ、まるで春みたい…」


ふふっとリラが笑ってウインクをひとつ。


「石壁だけのここに冬が訪れたら寒いじゃない。気候のシステムをいじったの」


リラがホットミルクとコーヒーの入ったマグカップを持ってアワの向かいに座る。

ことり、と低いテーブルにマグカップが置かれる。


「ここ、一階はリビングとキッチン、2階はリラの仕事部屋、3階はリラの部屋なの。3階建てよ。だから、君はこの塔の裏にある来客用の離れに泊まってね、後で案内するわ」


ルペラ、寂しがっていたんじゃない?と微笑みながらコーヒーを味わっている。


「ようやく静かになるって一言だけ言って、目も合わせずに出発しました」


「それ、寂しがっているわ」


カップの中で揺れるコーヒーを見つめたままリラは嬉しそうに微笑んだ。


「あぁ、魔法の練習は明日から始めるわ、今日は疲れたでしょ。ルペラは、旅の準備はどのくらい用意してくれたの?」


「旅行鞄と、寝袋と調理器具と火おこしの道具です」


アワは脇に置いていた旅行鞄をリラにも見えるように持ち上げる。


「あら、第II級拡張魔法仕上げね、良い物用意してもらったじゃない。他の足りない分はリラが揃えてあげる、ルペラみたいに良い物ばかりってわけにはいかないけれどね」


「ただものがたくさん入る鞄だとしか言っていませんでした……第II級……?」


「一般階級の人間なら、その鞄ひとつで1ヶ月は暮らせちゃうわ。随分気に入ってたのよ、あなたのこと」


アワは壊れ物を扱うようにそっと鞄を下ろすと、マグカップを持ち上げた。

震えた手が、ミルクを波立たせている。


「ぼ、僕が持っていていいんでしょうか……盗まれたり、とか……」


「あはは、大丈夫よ! あなただって、最初はぼろぼろの鞄だなくらいにしか思っていなかったでしょう? それが魔法仕上げって分かる人は、あなたの腕輪にも気が付くもの。色持ちの庇護下にある人物を害そうなんて、普通は思わないわ。夜に大通りを外れて堂々と歩き回らない限り平気よ」


唐突にぱちん、とリラが指を鳴らすと、ビスケットの入ったバスケットがテーブルに現れる。


「持ってくるのを忘れちゃった。しっかり甘いやつだからホットミルクに合わなかったらごめんなさいね」


サクサクとビスケットを齧りながらアワは、これが魔法かとリラを見上げる。

甘いバニラの香りが鼻を抜けて、表面に振りかけられた砂糖が甘ったるい。


なるほど確かに、苦いコーヒーには合うかもしれない。


リラは少しミルクを混ぜたコーヒーを飲みながら、アワの視線に気が付くとぱちんとウインクして見せた。


魔法仕上げというのは、魔術で補強、空間拡張などを施すことです。

それ以外は魔術付与と呼びます。魔法仕上げは非常によく使われますね。

正確には魔術仕上げですが、語呂が良いので魔法仕上げです。


魔術と魔法の違いは、感覚で扱えるか、綿密な計算と努力の上で扱えるかです。

魔法は、ほとんどの場合は幼子でも扱えますが、魔術はしっかり修行を積み上げた魔術師にしか扱えません。


魔女も魔術師です。

魔術師は、単に魔術を扱える男性を指す場合もあれば、魔術を扱える男女を指す場合もあります。

魔女は、女性だけです。


いいね等頂けますと作者が喜びます。

この度は私の作品をお読みくださりありがとうございます。

もしよろしければ、次の話もお読みいただけますと嬉しく思います。

分かりにくい部分が多いかと存じますので、質問などございましたら気軽にお願いいたします。

物語に大きくかかわらないものであれば、あとがきのスペースを借りてお答えいたします。

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