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3 魔女の語らい



石がを積み上げた塔に向かってルペラは歩いていた。

晩秋にも関わらず辺りは青々と草木が茂っていて、まるで春のような景色だ。


ルペラは、石の塔の扉を叩く。


「いらっしゃいルペラ! ついこの間ぶりね」


「邪魔するわ」


リラが扉を開けて迎え、ルペラはそのままソファに向かう。


リラがマグカップに入った温かいミルクをルペラに渡す。

自分はコーヒーを淹れたようだ。


「あぁ、ありがとう」


ルペラは湯気が立つそれを一口飲む。

リラはルペラの隣に腰を下ろした。


「この箱庭の外はもうだいぶ寒くなったでしょう?」


「もうすぐ冬だもの。私のとこもだいぶ寒くなって来たわ。ここは相変わらずね」


リラは辺りを見回す。

決して広くはないが、狭苦しくはない。

天井の高さに余裕があるためだろうか。


「だって石壁のここを冷やしたら相当寒くなっちゃう。寒いのは嫌よ」


ルペラは目を閉じてふふっと笑い、ミルクをもう一度飲む。


(つばめ)を飛ばしたけれど」


「読んだわ、あの子は? 今日は留守番?」


「あれ一人で家に居させるなんてできないわよ。近くの市場の果物屋に預けてきた。あそこの老人はいつも手が足りないって言っていたから大層喜んでいたわね」


リラはコーヒーにミルクを加えかき混ぜる。


「あら、リラはあの子をルペラがだいぶ気に入っているように思ったけど、まだ留守番できるだけの信用は勝ち取れていなかったのね」


ルペラはぴくりと眉を動かした。


「魔法族だったんでしょ、ルーチェに入れるの?」


ルペラは何かを言おうとしたのか口を開け、何も言わないままミルクを飲む。


「あら? 情が移っちゃった? やっぱりそのまま弟子にしたら良いじゃない」


「それは嫌」


リラは低いテーブルへ顔を支えるように肘をついて、ルペラの顔を見上げるような姿勢を取る。


「あの子を家においてどのくらい?」


「一か月くらい」


あら、とリラは嬉しそうに笑って姿勢を正す。


「一か月も暮らせたらあとはもう何年でもいけるわよ。アナシア様だって、あなたがリラとアナシア様くらいとしか親しくしていないのを気にしていらしたのよ。自分はもう歳だ、ともおっしゃっていたわ」


「……」


「まだまだお元気よ、大丈夫。でも、リラだってあなたの交友関係が広がるのは嬉しいの。あなたがなかなか人を信じられないのもわかっているけどね」


リラが黙ってしまえば、部屋には飲み物を啜る音しか聞こえない。


「まあ実際、魔力がないなら緑は厳しいでしょうね。青も無理だわ、できそうなのは……」


「黄とか?」


「あぁ、良いじゃない!あそこはどうせ魔石を使うもの、たいして変わらないわね」


「でも黄には信頼できる人がいない」


リラはふぅとため息を吐く。


「あなた、そんなこと言ったら青と緑以外に居ないじゃない」


ルペラは口をとがらせて反論する。


「黒にもいるわ、ほら、黒の原色様」


あぁ、とリラが相槌を打って、再びコーヒーを啜る。

外からけたたましい小鳥の鳴き声が聞こえる。ヒヨドリだろうか。


「この家の防音設備はどうなっているの?」


「あなたの家だって多少聞こえるわ。この箱庭にはリラ一人しか住まないから防音が甘かったって問題ないじゃない」


リラはもう一度短くため息を吐く。


「それにしても可哀そうよね、あの子ったら。魔力がない……よりにもよって嫌な予想が当たっちゃったか」


柔らかな沈黙があたりを包んで、遠くに小鳥の囀りが聞こえてくる。













ルペラがミルクのカップをテーブルに置く。


「あれのことだけど、やっぱり家には置いておけない。ずっと行き詰まっているやつを進めようと思っているの。だから、1人になりたい」


「行き詰まっているやつ……もしかして、魔力異常の治療薬?」


ルペラはこくんと頷いてマグカップに手を伸ばす。


「また相当難しいやつを持ち出してきたじゃない」


「私に治せないものなんてないわ、今までも、これからも。結晶病も寝たきり病も治してきたもの」


ふーんと返事をしてリラはコーヒーの中身がもうないことに気付く。


「コーヒーを取って来るわ。あなたのミルクも足す?」


「いえ、コーヒーをちょうだい。苦いものが飲みたい気分」


飲めるの? とリラがルペラのほうへ振り返って、ルペラが頷いたことを確認するとコーヒーを取りに向かう。


「あの子をどうするかが難しいわね……はいこれ、苦いわよ。うーん、本人がやりたいこととか何か分かる?」


ルペラはリラからコーヒーを受け取って、一口飲む。


「苦いわね」


「言ったじゃない。ミルクか砂糖を足して」


ルペラはコーヒーにミルクと砂糖を加えて混ぜながら、時折味を確認している。


「あれがやりたいこと……そういえば、図書館に連れて行ったとき喜んでいたわ。家に帰ってからもいろいろ知りたいって言っていたかしら」


「いろいろ知りたい、ねぇ」


ルペラが思い出したように、一枚の紙をカバンから取り出す。


「そう、それでこれ。図書館に連れて行けって言いだしたら面倒だから」


「通行許可書? あぁ、二人目のサインね。もちろんよ」


「ありがとう」


リラは、アワの通行許可書にサインをしながら、何かを思いついたのか顔を上げる。


「旅に出しちゃうのはどう? 箱庭もかなり広くなってきたし、中を見て回るだけでかなり時間が掛かりそうよ。いろいろ知りたいなら見て回るのが一番だし、うまくいけば元居た場所が分かるかも。名案じゃない?」


「旅……確かにいいかもしれないわ。そうしようかしら」


「えぇ、あの子に聞いてみたらいいわよ。案外行きたいって言うかもしれないわ」


ルペラは、リラのサインが書かれた通行許可書をカバンにしまい、カフェオレを一口飲む。


「あぁ、そういえばルペラ、あなた魔力異常の治療薬をまた研究するって言っていたけど、どのくらい進んでいるの?」


「ちっともよ。そもそも原因すら分かってないの。前も原因を70? いや100年くらいやったわ、100年調べたけど分からなかったの。そもそも、もともと少ないのに今生まれてくる子たちは皆持ってないもの。先天性か、後天性か、はたまたどちらもなのか、何も分からない。あぁ、第1級禁書庫に入りたいわ……」


「作れるの?」


「無理よ、今のままじゃ。お手上げ」


ルペラは、リラのほうを向いてにやりと笑う。


「でも、作って見せる。たとえ何百年かかっても、私に治せないものなんてないって絶対に証明して見せる」


リラはにっこり笑って、テーブルに置いてあるカップを手に取る。


「さすがよ、ルペラ。期待してる」


成功を願って、とリラはコーヒーが半分も入っていないカップを掲げた。

私用で、明日からしばらく更新の時間が大幅に遅れる可能性があります。

ご了承いただきたいです。

お恥ずかしい話ですが、昨日は昼寝していたら大寝坊して大慌てだったともここに記しておきます。


いいね等頂けますと作者が喜びます。

この度は私の作品をお読みくださりありがとうございます。

もしよろしければ、次の話もお読みいただけますと嬉しく思います。

分かりにくい部分が多いかと存じますので、質問などございましたら気軽にお願いいたします。

物語に大きくかかわらないものであれば、あとがきのスペースを借りてお答えいたします。

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