表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/16

9 装飾の式

「薬の件はうまくいったよ、あとはペンタルア」


その言葉を聞いて、暖炉の灯りで本を読んでいた魔女は顔を上げる。

艶やかな髪がさらりと肩を撫で、それを暖炉の火が温かく照らす。


「いつの間に来たの? ちっとも気が付かなかった」


「ノックはしたよ、本に夢中になってたんでしょ」


本を読んでいた魔女は、自分の向かいのソファを勧める。

ドアのそばに立っていた小柄な魔女は、勧められるままにそのソファに腰掛けた。


「いつでも本を読むよね。夜は目が悪くなるよ」


「そうは言っても、良い作品には深い理解が必要、そのためには知識なんていくらあっても足りないから」


そう言って魔女はそっと本を閉じて、近くの机に積み上がった本の上に載せる。


「うまくいったって、どんな感じ? あなた、いつも言葉が足りないの。ねぇ?」


「そのままだよ。ペンタルアにもあなたにも目を向けないはず」


そう言ってふうと安堵のため息を溢す小柄な魔女を見て、もう一人の魔女は顔をわずかに曇らせる。


「そう、シアのことは本当に残念だった……あそこまでいい人は、今時なかなか居ないもの」


ぐっと小柄な魔女は唇を嚙みしめる。


「魔術と奇跡を履き違えてはいけないわ、覚えていてくれると信じているけれど」


ふっと微笑んだ蜂蜜の髪の女性は、ソファにもたれて足を組む。


「……ルペラだけど、フェフィと馬が合わなそうだったから、あっちをぶつけても良かったんじゃないの?」


「よく言うよ、あんまり暴れたら皆が動いちゃう。簡単に手を出すことはないと思うけど、何かあったら困るのはあなたもでしょ? こちらを疑わない腕の立つ緑の魔女なんて、そうそう居ないんだから……ルシアーナ、お酒は体に良くないよ」


白ワインを一口飲んだルシアーナは、ばつが悪そうに顔を(しか)める。


「医師みたいなこと言うんだから。ワインくらいは良いでしょう。ねぇ、ルーシーって呼んでくれてもいいんじゃない? 私とあなたの仲でしょ?」


今度は小柄な魔女が顔を(しか)める番だ。


「どんな仲? 別に原色の会は仲良しの会じゃないんだよ」


「ふふ、こうして夜更けに部屋を訪れる仲。そう、ペティのことが少し分かったよ、エリアCからエリアE辺りのバッファーゾーンにいるんじゃない?」


それを聞いた小柄な魔女はぱっと顔を明るくする。


「よかった、それだけ絞れればあとは時間の問題だよ」


「そうね、バッファーゾーンに入るなら適当な紫か幻を見繕わないとね」


バッファーゾーンには、人間がレジデンスエリアやセンターエリアへ入り込むことが無いように強い幻術が掛けられている。

たとえ腕の立つ魔術師であっても、紫の魔術師もしくは幻の魔術師達の手助けなしに入り込めば一生彷徨い続けることになるだろう。

たとえ紫の手助けがあったとしても、無事に出られるかは分からないが。

なにせ、バッファーゾーンは歴代の紫の原色と彩色が自身でも破れないような強力な幻術を掛けて回っているのだ。


「ちょうどいいのがいたらいいんだけど……」


ルシアーナはどこから取り出したのか、もう一つのワイングラスにワインを注いで、小柄な魔女のほうへ置く、そして自分はワイングラスを持ち上げた。


「まあそれは追い追いよ。それに明確な利さえ示せられたら、彼女もこっちに付いてくれる。彼女がいれば紫の件はどうにでもなるわ、でもいなくても代わりはいくらでもいる、計画に支障はないもの。じゃあかんぱーい」


小柄な魔女は少し迷って手元のワイングラスを手に取り、それを掲げる。

ルシアーナもにこりと笑ってワイングラスを掲げ、ふたりはくいと飲み干した。


「うえ、やっぱりお酒は好かないよ」


「そう? じゃあ次は美味しいジンジャーエールでも用意しておくね」


くすくすと笑うルシアーナをじろりと睨んで、小柄な魔女は席を立つ。


「じゃ、明日の装飾の式は任せたから。ルペラの魔石をうんと綺麗にしてあげて」


「それは任せて、私は黄の原色だもの。あぁそう、あの子には私がペティのことを伝えておくね」


小柄な魔女はひょいと肩をすくめて、暖炉のそばの花瓶を指さした。小柄な魔女の指先に暖炉の光を受けてゆらゆらとオレンジに染まった靄が集まりだし、花瓶の下に隠れていた蜘蛛はポトリと落ちるとさっと逃げていった。


「要らないと思う、ほら、彼女は全部聞いてたみたい」


「あら、聞かせて良かったの? 気が付いていたなら――」


「それも要らない、こちらは彼女を信頼してる。あとは向こうがどう動くか、ね?」


蜘蛛はちょうど、僅かに開いた窓から外へ出ていくところだった。




――――――




装飾の式は無色の館で行われる。

無色の一族が暮らす無色の館は、魔法族の王族が暮らすにふさわしい立派な宮殿だった。

虹の館もなかなか美しく立派なつくりだったが、この館はその何倍も大きく、施された装飾も繊細で美しい。

何より、手前に広がる広い庭園は丁寧に整えられ、ひときわ目を引く大きな噴水が圧巻だ。


装飾の式の後は無色の館の一室で新たな原色の歓迎会が開かれるらしい。

参加するのは貴族と彩色、原色、そして無色の一族。

当然相応の装いを求められるが、ルペラはそんなものなど持っていない。せいぜい魔法薬学学会へ出席する時の服くらいだ。

そのため今回は魔術で作り上げられたドレスを着ている。


魔術で加工されたものは手作業のものよりも価格が低くなりやすく無色の一族が参加する場にふさわしいものではないが、虹の館の使用人たち曰く今回は急だったから許される、だそうだ。

そしていくら魔術で加工されていても、袖や裾を飾るレースは繊細だし、使われている布も艶やかで美しいシルクだ。染色もムラなく美しい。


魔術師は自分の色を見に(まと)うのが正装のため、今日のルペラは緑のドレスを着ているし、髪飾りやアクセサリーも緑色が使われている。


ところで、他の原色たちは自分の色で刺繍が施されたローブを着るらしい。これが原色と彩色の正装だという。


ネロは銀糸が混ざった黒色の糸で繊細に刺繍が施された黒いローブを着ている。髪も黒色のため全身が真っ黒だ。しかし、銀糸のおかげでローブは星空のように美しい。


「ルペラ、緊張してない? 大丈夫?」


黒色の瞳がこちらを気遣うように見上げてくる。


「問題ありませんよ、お気遣い感謝します、ネロ様」


微笑んで見せたルペラに、ネロは安堵のため息を溢す。


「よかった、ネロはこういう場がそこまで好きじゃないから。式自体は無色の当主に頭下げて、ルシアーナが装飾した魔石を受け取るだけだから、すぐ終わるよ。歓迎会は長引くと思うけど、ネロは途中で帰っちゃうね。ルペラは主役だから大変と思うけど頑張って」


魔石は魔法族にとって特別なものだ、特に色付きのものは。

魔石は、魔力を固めて作られる。その魔石は、材料となった魔力と反応して魔術発動の媒体となるし、本人が死亡すると力と色を失い魔力貯蔵庫となる。新たに魔力を注ぎ込めばその色に染まるが、その魔石には魔術発動の媒体としての力はない。ただの魔力貯蔵庫のままだ。

魔法族は婚約のしるしに自分の魔力を固めた魔石を使ったアクセサリーを贈るし、四センチの大きさの魔石は色持ちである証。色持ちである証明以外の目的で3.5センチ以上の大きさの魔石を作るのは違法だ。

そして、原色と彩色だけはその四センチの魔石に装飾を施す。それを行うのが装飾の式だ。


ぐっと拳を握りしめて応援したネロは、ルペラとは別のほうへ向かう。ルペラは今日の主役なので会場へ入るのは最後だが、ネロたちは参政権はあっても爵位は無いので初めに入るからだ。こういうものは、爵位が高いほど後に入る。おそらくもう会場へ向かうのだろう。



装飾の式はネロの言う通りすぐに終わった。なんなら、参加者の入場の方が時間がかかったくらいだ。


名前を呼ばれて会場へ入り、そのまままっすぐ進んで1番奥に座っている女性に深く頭を下げる。

無色の当主になるのに性別は関係ない。当代は女性と聞いている。


許しを得て頭を上げる。空色と菫色がグラデーションになった瞳と目が合う。ほんのり青色に色付いた髪を頭の上でまとめ上げた妙齢の女性は、後ろに控えたルシアーナに手を挙げて合図を送る。

あとはルシアーナがあらかじめ預かっていたルペラの魔石を銀細工で美しく飾り立てるだけだ。


ルシアーナがルペラの魔石を両手の間に浮かべて、その周りが段々と黄色の靄で覆われていく。

いよいよ魔石が見えなくなるのではと思うくらいで、その靄の中を魔術文字が渦巻き出す。

使用人らしき人が(うやうや)しくルシアーナに差し出した銀塊をルシアーナが片手で受け取るや否や、魔石の周りに銀がするすると集まっていく。

ルシアーナは涼しい顔をして渦巻く文字を操っているが、その額には脂汗が浮かんでいる。

靄が晴れた時には、ルシアーナの手には周りを銀細工で覆われた魔石があった。


ルシアーナはそれを、先ほど銀塊を持っていた使用人へ渡す。

使用人は赤いベルベットが敷かれた箱でそれを受け取り、そのまま無色の当主へ渡す。

無色の当主は、それを片手で受け取り、ルペラの手にそっと渡す。


ルペラは礼を言って再び頭を深く下げ、無色の当主が退場すれば装飾の式は終わりだ。


言われていた通り、無色の当主が退場したことを確認して頭を上げ、ルペラも退場しようとする。


視界の端でルシアーナがふらりとよろめき、傍にいた数人に支えられているのが見えた。










歓迎会は、立食パーティーの形式で開催された。

初めはルペラも参加者たちと挨拶や談笑をしていたが、次第に面倒になったのか、会場の端で料理をつまみながら賑わう様子を眺めていた。


この料理がまた美味しいのだ。

まずつまんだのは一口サイズのサンドイッチ。

いくつか種類があるように見えるが、これは軽く燻製された魚が挟まれているらしい。

ふわりと鼻を抜ける煙の香ばしい香りと滑らかで酸味が爽やかなサワークリーム、そしてオニオンスライスがピリリと良いアクセントになっている。

魚が鮮やかな紅色なのが、見た目にも美しい。

見たことのない魚だが、なんという魚だろうか。


次は生ハムを使ったもの。

細く切られたきゅうりのような味の野菜が巻かれていて、生ハムの塩味を程よく中和してくれる。

振りかけられたハーブの香りがまた鼻に抜けて爽やかだ。

この野菜はなんという野菜だろうか。

味はきゅうりのようだが、食感はもう少し歯応えがある。

それから種もない。


こちらは果物のコンポートとチーズのカナッペか。

桃だろうかと思っていたら違うらしい。コンポートにしてもなおわずかに残る酸味がチーズの塩気によくマッチしている。


こちらは――


「そちらの麗しいレディ、一曲踊っていただけませんか?」


一口サイズの料理を楽しんでいると、ルペラの背後から声が掛けられる。

白い手袋を付けた右手を差し出したのは、華やかな礼服に身を包んだ碧眼に銀髪の見目麗しい男性。


「あら、歓迎会では舞踏会の真似事のようなこともなさるの?」


次に食べようと思っていたローストビーフをつまんだまま、ルペラはその右手を冷ややかに見つめる。


「えぇ、あちらにダンスをするスペースが設けられています。今日一番の華の貴女がひとり寂し気にフィンガーフードを摘まんでいるものですから、これを放っておくなど貴族男子あるまじき行為です」


放っておいてもらえたほうが助かるのですけれど? という言葉が喉元まで出かかったがなんとか飲み込んで、摘まんだままのローストビーフをぱくりと頬張る。

胡椒の香りがとても強い、が肉の味も負けていない。

使われているのは生胡椒ではなかろうか、噛みしめるたびに感じる肉の旨味と香るハーブ。

これは一人の時に楽しみたかった。


「あいにくですが、名も知らぬ殿方とダンスを楽しめるような度胸は私、持ち合わせておりませんの」


目の前の男性は笑みを崩さぬまま申し訳なさそうに口を開く。


「これは失礼しました、ユーリス・イエローレインです。レディのお名前を伺っても?」


イエローレイン、随分と古めかしい慣習を持ち出したものだ。


魔法族はファミリーネームを持っていない。

なぜなら、それぞれの色にファミリーネームに準じたものがあり、魔術師たちはそれをファミリーネームのように使っていたからだ。

白ならばライトウァイト、黒ならばブラックウォール、赤はレッドブレッド、青はウォルトブルー、黄はイエローレイン、緑はグリーンフラッシュ、紫はヴァイオレットストーンだ。

しかし、かつて魔術師の中で色持ちと色なしが区別された時にそれは廃れていった。

色持ちなのか色なしなのかの判別がつかないからだ。そうやって代わりに、名前の前に肩書きを名乗るようになったのだ。

そしてその名残で、今でも魔法族はファミリーネームを持っていない。


彼は黄の下で修行したのだろう。

魔術師の肩書だけが欲しいのなら黄は妥当な判断だ。というのも、黄と緑は魔術師までならば努力でどうにでもなる。


逆に才能がものを言うのは青、黒、白あたりだろうか。

青は全知の目という存在を知覚できなければ話にならないし、それができても全知の目が送り込んでくる映像を処理できるだけの頭脳が求められる。

黒と白は言わずもがなだ。生まれ持った魔力の色が黒ないし白でないと門戸を叩く権利すらない。


「緑の原色ルペラです、イエローレインだなんて、随分と古風な慣習を使いますのね」


「えぇ、私共は古い慣習を好みますから」


魔法族の貴族は最後の大戦後、つまりたったの3000年前に人間の階級制度を手本に作られたものだ。

歴史もへったくれもない貴族たちが、古い慣習を好むのか、とルペラは心の内でせせら笑った。


「私、ダンスはあまり得意ではありませんから、私と踊ってはユーリス殿も恥をかいてしまいます」


ユーリスは笑みを崩さない。


「では私に貴女をエスコートする名誉をくださいませんか? 美しいレディと踊れるならば恥など軽いものです」


口だけは達者なものだ。

ルペラは差し出された右手を扇子でぴしりと打って、ユーリスの後ろからこちらへ来ていたルシアーナその扇子で指す。


「あら、ユーリス殿とダンスを踊りたくてたまらないと言った様子のご婦人がそちらにおりましてよ。踊って差し上げては? 私は後でいいですから、ね?」


ユーリスはなおも微笑みながら、ではまた後で、とルシアーナをダンスに誘う。

ルペラとルシアーナの目がぶつかる。顔は微笑んでいるが恨むわよ、と副音声が聞こえてきそうな目だ。


ルシアーナはその手を取ってダンスを踊る人々の中に消えていった。










「やってくれるじゃないの、子猫ちゃん」


声のほうを振り向くと、ルシアーナが頬を引きつらせながら笑っている。


「子猫? 誰がでしょう?」


「あなたよ、子猫ちゃん。別の呼び名をお望み?」


先ほどの装飾の式の最後に見かけた時、ルシアーナは青白い顔色だったが、今は血色も良く不調そうには見えない。


「えぇ、ぜひ。その節はどうもありがとうございます。とても助かりましたので」


「ふふ、後輩に頼られるのは存外気分がいいものね。いいわ、レインズリー卿とのダンスもなかなか目の保養だったし。ルペラでいい?」


「はい、ところでユーリス殿はレインズリー卿というのですね。」


ルシアーナは遠くのほうで赤いローブを着た男性、赤の彩色と話をしている白髪の男性を指さした。


「えぇ、あそこのレインズリー卿のご令息。伯爵家の嫡子よ。それから私たちの間に敬語も敬称もなし。あなたももう私たちと同じ原色だもの」


そう言ってルシアーナは手に持っていたシャンパンをぐいっとあおった。

やっぱり美味しいわね、なんて言いながらそばのフィンガーフードを物色している。


「分かったわ、ところでルシアーナ、体調はもういいの?」


「あら、不調を知っていてダンスを押し付けたの? なかなかひどいじゃない」


ルシアーナがにやっと笑って、わざとらしく額に手を当てよろける。

ルペラが何の反応も示さないのを見て、ルシアーナは背筋をぴんと伸ばして、近くを通ったウェイターから新しいシャンパンを受け取る。


「さっきの、あの魔石に細工を施した魔術、地味だけど一応大魔術なのよ」


大魔術とは、発動が酷く難しかったり、その代償としてときに術者の命を奪いかねない魔術のことだ。色なしには扱えず、色持ちでも簡単には扱えるものではない。

代償に命を要求する大魔術で有名なものは、黒の死体操術や、赤の広範囲殲滅系魔術、白の身代わりの魔術辺りだろうか。

無論、大魔術は無数に存在するが、この三つは最後の大戦で頻繁に用いられたこともあって知名度が高いのだ。



「大魔術?! 平気なの?」


「もちろんよ、黄の大魔術に命にかかわるものは無いから。でも、私って魔力量が少なめだからなかなか大変なのよ。魔力操作でカバーしてるけど、そこにオリジナルを加えたらもう脳みそが爆発しそう! ね?」


ぱちんとウインクをしてここに来て二杯目のシャンパンを飲み干したルシアーナは、空になったシャンパングラスで遊んでいる。


いくら自前の魔力が少なくてよい黄といえど、大魔術ともなればそうもいかないのだろう。


ルペラはまだ一度もゆっくり眺めていなかった自分の魔石を取り出して、じっと眺める。


周りに施された銀細工のモチーフは小花や木の葉だが、その間に崩された魔術文字も見える。

なんて書かれているのかよく見ようと目に魔力を集めると不意に、周囲に蝶が舞い小鳥がさえずる花畑が広がった。

驚いて目に集めた魔力を霧散させると、元のパーティー会場に戻る。


ルペラが驚いてルシアーナのほうを見ると、ルシアーナはいたずらが成功した子供のように嬉しそうに笑みを浮かべる。


「幻術の付与魔術よ、私のオリジナル。気に入った? もちろん魔術発動の邪魔はしないから安心してね」


「でも、幻術って……」


幻術は紫の魔力を持った紫と幻の魔術師にしか扱えない。赤子でも知っているような常識だ。


「私って付与魔術が得意なのよ、すごいでしょう? ルーシーお姉さまと呼んでもいいのよ?」


なるほど、この付与魔術こそが彼女を原色たらしめたのだろう。


「寝言は寝て言うといいわ、酔っぱらいの妄言なんてまっぴらごめんよ」


ルシアーナは気にしていなさげにひょいと肩をすくめて、どこからか持ってきた三杯目のシャンパンを一口飲む。


「そういえば、ネロからルペラは警戒心が強くて懐きにくい子猫って聞いていたのだけれど、随分と人懐っこい子猫だったわね」


ルペラは猫と呼ばれたことに顔を(しか)めたが、いちいち訂正するのも面倒だと思い至り無視することにする。


「ネロ様が? まあ、ルシアーナは嫌な目で見てこないから良いかなと。ネロ様も警戒すべき人を教えてくれた時にルシアーナについて何も言わなかったから」


そう、とルシアーナは嬉しさを嚙みしめるように笑って、きゅっと顔を引き締める。


「ルペラ、あなた挨拶を途中で投げ出したでしょう? 残りの挨拶まわり、一緒に行ったげるから来て? それにあなた、まだ彩色にも挨拶していないんだから。誰までやったの?」


ルシアーナの顔が少し怖い。


「シャンパーニュ卿まで……」


「まだまだ最初のほうじゃないの。じゃあ次はルートーン卿ね? ちょうどそこにいるから、付いてきて? ルートーン卿! ルートーン卿!」


ルペラはルシアーナに半ば引きずられるようにして途中で放り出した退屈な挨拶をして回ることになった。

その時のルペラの表情が今日一番の引きつった顔だったのはご愛敬だ。


ユーリス殿(あそこのご令嬢がずっと1人でいる、変な噂話でも立てられたら可哀想だ。私が相手をすれば変な噂は立たないだろう。)

ただのいい人です。それから今回で1番可哀想な人です。


話は変わりますが、紫が幻術を使うと、触れても実体があると錯覚したり、空間そのものを捻じ曲げてしまったり、幻に触れても解けなかったり、記憶や精神に干渉したりと、いろいろと大変なことになります。

(ただし、記憶や精神に干渉する幻術は呪術との複合魔術です。複合魔術は複数の魔術を一つの魔術として発動させるものです。)


映像だけを見せるルシアーナの幻術は、紫からすると初歩の初歩の幻術です。




いいね等頂けますと作者が喜びます。

この度は私の作品をお読みくださりありがとうございます。

もしよろしければ、次の話もお読みいただけますと嬉しく思います。

分かりにくい部分が多いかと存じますので、質問などございましたら気軽にお願いいたします。

物語に大きくかかわらないものであれば、あとがきのスペースを借りてお答えいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ