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復讐は自分でやりなさい  作者: ティーケー
心の声

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偽りの仮面


 「大輔(だいすけ)、教団本部を襲撃するまでの間、アナタは父親を殺した信者達に復讐(ふくしゅう)()げるのよ」


 伊奈(いな)はそう言って大輔の頭を優しく撫でた。


 「情けは無用よ。 もし、ヤツ等を愛する者達がいれば、その者達も必ず殺しなさい。 憎悪を生まない為に。


 分かった――?」


 伊奈に妥協は無い。 復讐によって憎悪を消した後、新たな憎悪を生み出さない為に復讐した相手を愛する者達も殺害させる。 復讐の輪廻(りんね)を繰り返さない為に。


 「はい!!」


 大輔は伊奈の言葉に力強く(うなず)いた。


 伊奈に力を与えられた者は“修羅(しゅら)”と呼ばれている。 もともとは榊原(さかきばら)が勝手に付けた呼び名であったが、今では伊奈もそう呼んでいた。

 修羅は全身から湧上がる峻烈(しゅんれつ)な憎悪を抱いている。 それもただの憎悪では無い。 耐え難い孤独と絶望を宿した身を焦がす漆黒(しっこく)の炎――人を鬼にならしめる女王の烙印(らくいん)である。 

 伊奈は修羅が鬼へと変化する事を防ぐ為、彼等に力を与えた。 その力で憎悪を消し去り、孤独と絶望を封じ込める為に。


 だが、大輔は孤独と絶望に侵されていなかった。 篠木希海(しのきのぞみ)への恋慕(れんぼ)が希望となって彼を”虚無(きょむ)”から護っていたから。

 したがって、大輔が大火傷を負っていなければ、伊奈は彼に力を貸すことなどなかった。 絶命する寸前であった大輔を救うために力を貸したのである。


 すなわち、大輔は鬼になる事が無かったにも(かか)わらず、伊奈から力を与えられた例外的な存在であった。 本来なら榊原の言う修羅では無いのだ。

 ところが、それでも大輔は自分の事を修羅だと言った。


 「この世から憎悪を失くそうとする伊奈様の為、ボクの身体を蝕んでいる憎悪を消滅させなければならないから」


 命を助けてくれた伊奈の恩義に報いる為に。 そして父親の無念を晴らす為に。 大輔はあえて修羅の炎に身を投じ、復讐という大罪を犯すのである。



  ――



 都心の一等地に建つ高級マンションの一室で『青葉久寿夫(あおばくすお)』は優雅な暮らしを満喫(まんきつ)していた。

 青葉は人当たりの良い“優しいお兄さん”であった。 白銀に染めた猫毛の髪で額を隠し、いつもニコニコと愛想の良い顔をしている細身の青年。 だが、花柄の黒いシャツと革パンツに浮き出る身体のラインから、細身の割には(たくま)しい肉体をしていると想像出来た。


 青葉は宗教法人『神光人(みかりびと)』の信者であった。 それも一般信者では無い。 “幹部”と呼ばれる程深く運営に関わりを持つ信者であった。


 青葉は“迷える子羊”を闇へ(いざな)う事が得意であった。

 

 『(つぼ)数珠(ずじゅ)合わせて350万円』


 教団に入信するとまず購入を勧められるのが、この如何(いかが)わしい“呪術セット”であった。 青葉は言葉巧みに老人や若者を教団に入信させ、片っ端からこの“ガラクタ”を信者に購入させた。

 お陰で教団は莫大(ばくだい)な利益を得た。 その資金で『マズかろう高かろう亭』という低俗な飲食店を始めたり『合同会社ルイネン』という資産隠しのダミー会社を立ち上げたりと多方面に経済活動を活発化させて行った。

 

 青葉はこうした悪の功績を教団に認められ、“月の子”へ転生した。 とどのつまり、虚飾(きょしょく)妄想(もうそう)(まみ)れた罪人となった。 真片薬大寺(まひらやくだいじ)破廉恥(はれんち)な洗礼を受け、目を疑う恥ずべき儀式を経て洗脳の高みへ上り詰めた狂信者となったのである。


 「神光人こそ世界の救世主なのです」


 青葉の虚栄心(きょえいしん)は彼の優生思想を確固たるものとした。


 そんな邪悪な思想に支配されている青葉であったが、一見すると優しく穏やかな印象を抱く青年である。 老若男女(ろうにゃくなんにょ)は彼の柔らかい口調(くちょう)(なご)やかな笑顔に(ほだ)され、特に若い女性に好感を持たれる事が多かった。


 青葉の自宅には毎日のように若い女性が訪れた。 全員SNSで知り合った女性である。 彼女達は孤独に怯え、人との繋がりを求める寂しがり屋であった。


 青葉には誰もが戦慄(せんりつ)する恐るべき性癖があった。


 青葉は女性達を言葉巧みに誘い出し、その()まわしい性癖を満たしていたのである。



 ――



 「孤独に怯える子羊よ。 肉体から離れ、神光人として祝福されれば愛する者と魂が繋がります。 もう(さび)しがる事などないのです。 魂は祝福の光によって幸福に満たされるでしょう。

 

 さあ、迷うことはありません! 物質世界から解放され、月の子となって共に宇宙の救世主となりましょう!」


 床に描いた怪しい五芒星(ごぼうせい)を前に、胡座(あぐら)をかいた青葉が得意げな顔をして叫んでいる。 向かいには異様な雰囲気を(かも)し出す少女が正座をしていた。

 少女の両手には穢れたナイフが握られていた。 彼女は目を見開きながらその恐ろしいナイフを喉に突き立てている。

 瞳は泥のように(よど)んでいた。 目の焦点は合っておらず、小さな口からは薄らとヨダレが垂れている……。


 その尋常では無い様子から見るに、どうやら彼女は青葉によって薬物を投与されたようだ。 夢か(うつつ)か分からないまま、幻想の海を(ただ)っていると思われた。


 少女は青葉の言葉にゆっくりと頷いた。

 すると、彼女が握っているナイフの切っ先が細い首に深く突き刺さり、辺り一面血飛沫(ちしぶき)が舞い散った……。


 この残酷な儀式こそ、青葉の(おぞ)ましい性癖であった。

 青葉はSNSで勧誘した少女に薬物を投与し、彼女達を洗脳して自殺を(うなが)した。 青葉に(そそのか)されてその場で自死を遂げた少女は死して尚、青葉に陵辱(りょうじょく)された。

 青葉は血塗れになった少女を屍姦(しかん)し、常軌を逸した醜悪な欲望を満足させたのである。

 

 「アァァァ――!!」


 歓喜の雄叫びを放ち、冷たくなった亡骸(なきがら)に欲望を打つける忌まわしい(けもの)。 今日の儀式は先日行なった“病院での大義”のせいか、青葉を激しく興奮させた。


 「――ふぅぅ♡ やっぱり、人間のクズは慰み者となるのが一番似合ってますね♪」


 恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべ、快楽の余韻を楽しむ鬼畜。 ガウンを着た偽物の人間は背後に見える大型の冷蔵庫へと歩み寄る。

 飲み物でも飲もうというつもりなのか? 青葉は冷蔵庫を開けると、ニンマリと醜怪(しゅうかい)微笑(ほほえ)みを見せた。


 「コレクションもそろそろ選別しないといけませんね……」


 そうぼやく青葉の視線の先には、細切(こまぎ)れにされた少女達の遺体が(あふ)れていた。

 ビニールに包まれた悲惨な肉塊(にっかい)から魂の叫びが聞こえる。 少女達の後悔の涙が血となって冷蔵庫から(したた)り落ちた。

 

 この男は死刑になるべきであった。 いや、死刑にしなければならなかった。 多くの少女が青葉の毒牙に掛り、若い命を失った。 老人は信者となって洗脳され、老後の資金を食い(つぶ)された。

 人間のクズとはまさに青葉の事を指す言葉である。 両親を殺し、少女達を殺し、精神病院に放火し、結城大輔の父を焼き殺した。

 

 数々の悪行は矯正(きょうせい)(あた)わぬ魔物の本能。 彼は生まれた時から悪魔であった。

 悪魔は宗教によって(いつわ)りの仮面――正義の仮面――を(かぶ)った。 信者達に賞賛され“月の子”と(あが)められる救世主となった。

 真実の素顔に偽りの仮面を被った救世主。 その素顔が絶対的な復讐の炎で恐怖に歪む事など露知らず、悪魔は腐敗した少女の首を眺めながら優雅にワインを(たしな)んでいた。


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