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復讐は自分でやりなさい  作者: ティーケー
心の声

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慰問


 多くの患者、医師、職員が犠牲(ぎせい)となった精神病院への無差別テロ事件から二日経っていた。

 生存者はたまたま建物の外に出ていた者達のみであり、建物の中に居た者は一人の少年だけしか生存者がいなかった。 しかし、その少年も全身に大火傷(おおやけど)を負い、いつ死亡してもおかしく無い予断を許さない状況であった。


 この酸鼻(さんび)を極める大量殺人事件を起こしたのは宗教法人『神光人(みかりびと)』の信者達であった。

 事件当初、彼等は事件への関与を真っ向から否定したが、屋上で首を()ねられた三人の信者達が発見された後、急に(てのひら)を返して開き直った。


 「障害者は何の役にも立たない社会のゴミだ! そのゴミを焼却して何が悪い!」


 この発言をマスコミの前でした瞬間、神光人は宗教法人では無くなった。 彼等は社会に害を成す凶悪な“テロ組織”となったのである。

 警察はこの宗教法人の皮を(かぶ)った犯罪者集団に敢然(かんぜん)と立ち向かった。 全国の神光人のあらゆる施設に対する強制捜査に踏み切ろうとしていた。

 ところが、国は何故か及び腰であった。 宗教法人としての許可を取り消されて当然である神光人を擁護する発言さえした。

 何故、国はこんな邪悪な組織を擁護しようとするのか? その理由は神光人の(おろ)かな主張に賛同する政治家が少なからず存在していたからである。


 神光人は日本に難民として流入して来た“アム・セグラの民”と手を組んでいた。

 始め、神光人は人種差別に苦しんでいたアム・セグラ人に手を差し伸べるフリをした。 差別の対象を人種では無く、障害の有無に変える事でアム・セグラ人を取り込もうとしたのである。


 「我々は人間が決めた“日本人”だの“アム・セグラ人”なんかでは無い。 神によって選ばれた民『神光人』なのである。

 神に選ばれた民は健常者(けんじょうしゃ)である。 障害者は悪魔によって魂を奪われた劣悪(れつあく)な人形である。

 したがって、障害者を排除する事は正義。 この混沌(こんとん)たる世界を光へ導く正義なのだ」


 反吐(へど)が出るほど醜悪(しゅうあく)妄言(もうげん)である。

 だが、人種差別に苦しんでいたアム・セグラ人にとって、人種から視点を()らす論理は都合が良かった。 アム・セグラ人は彼等の主張に乗っかり障害者を差別する事で、自分達が差別されていた事への溜飲(りゅういん)を下げた。


 弱い立場の者はさらに弱い立場の者を求め、自分達の存在を誇示しようとする。


 神光人はそんな人間のココロの弱さにつけ込んで、アム・セグラ人の支持を得る事に成功したのである。


 アム・セグラと手を組んだ神光人は、警察の捜査に抵抗した。 警察も神光人だけならまだしも、アム・セグラ人もしゃしゃり出て来るとそう簡単に強制捜査までする事が出来なかった。

 日本の腹黒い政治家達の中に、アム・セグラ人や神光人からタップリとワイロを受け取っていた者達が多く存在していたからである。 彼等の反発により、警察はなかなか強制捜査に踏み切ることが出来ずに地団駄を踏んでいた。


 だが、そんな警察を世間が味方した。 廃墟となった病院から救出された大やけどを負った少年が世間にとって“悲劇のヒロイン”となった。

 マスコミはこぞってこの少年『結城大輔(ゆうきだいすけ)』を取り上げた。 カルト教団『神光人(みかりびと)』が行なった数々の残虐非道な犯罪を添えて。

 その結果、世間は神光人の信者達に怒りを向けた。 警察はそのお陰で首尾良く神光人の教団施設の強制捜査に踏み切ることが出来たが、マスコミによる過度の(あお)りによって社会全体が混乱する副作用をもたらした。


 神光人の教団支部は民衆による闇討ちに合い、至る所から不審火が発生した。

 信者は信者というだけで暴力の対象となった。 中には凄惨なリンチを受けて殺される者まで現れた。

 信者では無い者でも「アイツは信者かもしれない」とウワサが立つと事実の無根の中傷を浴びた。 会社を解雇され、家族は離散し、子供達は(いじ)めに()った。

 ネット右翼は「神光人はアム・セグラ人が立ち上げた教団だ」と煽り、日本人の結束を訴えた。 どさくさに紛れて外国人を排斥(はいせき)しようと企む極右派が台頭(たいとう)し、神光人とは全く関係無い外国人までもが暴力の犠牲となった。

 

 そんな中、アイドルの森中伊奈(もりなかいな)が世間に向けて友愛を訴えた。 彼女はこれ以上民衆が疑心暗鬼に陥らぬようメディアを通じて訴えると、死の淵に立たされている少年を慰問(いもん)する意向を表明した。

 

 「何故、伊奈がしゃしゃり出てくるんだ!」


 世間は伊奈が『悲劇に乗じて知名度を上げようとしているのではないか?』と(いぶか)しみ、(さか)しい伊奈を批判する者も現れた。

 ところが、伊奈は放火に遭った病院と深い関係があった。 その事を世間が知ると伊奈に対する批判は一転して賞賛に変わり、伊奈は図らずも再び民衆の支持を集める事となった。



 ――



 大輔は火傷による痛みと、悪夢による苦しみでのたうち回っていた。


 「もう、鎮静剤は打てない! とにかく落ち着かせないと!」


 医師と複数の看護婦達がベッドで暴れ狂う大輔を必死に抑えている。 これ以上鎮静剤を打つと心臓に多大な負担がかかるという医師の判断でどうにかして大輔を落ち着かせるしかなかった。


 緊迫した状況の中、集中治療室の外では男性職員と何者かが押し問答をしていた。


 「ちょっと、勝手に入ってこないで下さい! 警察呼びますよ!」


 なんと、こんな時にマスコミが勝手に集中治療室へ入ろうとしていたのである。

 マスコミは男性職員を押し倒すと『ドカ、ドカ』と汚い足を踏みならし、消毒室の前までやって来た。 すると、あろうことか消毒室をそのまま突破し、雑菌だらけの身体で集中治療室へ侵入しようという暴挙に出た。


 ところが、彼等は集中治療室のドアの前に立つ小型ロボットに行く手を阻まれた。


 「ナンカ用カ?」


 ツルツル頭をした金属製のロボットはマスコミ達に向かって不躾(ぶしつけ)な態度を見せた。 すると、新聞記者が「森中伊奈がこの中にいるはずだろ!」とロボットに問い詰めた。


 「イルケド、ココニハイナイ」


 「ええっ!? じゃあ何処(どこ)にいるんだ!?」


 「コノ広イ宇宙ノドコカニ」


 「……」


 完全にマスコミをおちょくった対応をするロボット。


 「このガラクタが、()めやがって!」


 怒ったマスコミ達はロボットを取り囲み、寄って(たか)って卑劣(ひれつ)な暴力に訴えた。


 「――ぶっ壊してやる――!」



 ――



 ……集中治療室へ押しかけようとしたマスコミ達はロボットに返り討ちにされ、全員廊下へ放り出された。 外が静かになったと同時に大輔もようやく大人しくなったが、鎮静剤の影響で呼吸困難に陥った。

 人工呼吸器を装着されグッタリしている大輔の腕に何種もの薬剤が注射される。 ポニーテールの看護婦は涙ながらに「頑張って!」と大輔を励ましていた。


 予断はまだ許さない。 少しでも気を抜くと、ベッドの傍にある心電図の波が直線となり、大輔の心臓は永遠に停止するかも知れない。


 緊迫した状況が続いている中、今度はマスコミに替わって細木がやって来た。


 「ちょっと、通してくれねぇか?」


 集中治療室のドアを護っていたロボットは先ほどのマスコミ達への対応とは打って変わって「アイ、承知シマシタ」とドアを開け、細木を中へ案内した。


 「ちょっと、勝手に入って来ないで!」


 勝手に入ってきた細木に驚いた看護婦達は、細木に部屋から出るよう警告する。

 ところが、細木の背後から付いてきた赤い瞳の女性に気付くと、同僚の看護婦達と互いに目を見合わせて困惑した。


 「もしかして、森中伊奈……ちゃん?」


 テレビで見るアイドルとは明らかに違う雰囲気……。 その(りん)とした(たたず)まいに看護婦達が一様に目を見張る中、伊奈はロボットに手を引かれ泰然とした様子でベッドへ近づいて行った。


 「コラ、ヨシオ! 勝手に部外者を連れて来るな!」


 医師は許可無く部外者を連れて来たロボットを(しか)りつける。 ところが、ロボットは医師の言葉を無視しベッドの前に立つと、伊奈に向かって丁寧に頭を垂れた。


 「オ嬢サマ、オ帰リナサイマシ」


 意味の分からない事を口走り、伊奈に向かって(かしこ)まるロボット。


 「な、何だ? ヨシオ、お前、どうしたんだ……?」」


 もしかして、こんな緊急事態にロボットは故障してしまったのか?

 医師と看護婦達がロボットの様子を唖然(あぜん)として見つめる中、伊奈はベッドの上で苦しそうに息をする大輔の額に手の平をそっと当てた。


 「……可哀想な子」


 伊奈は赤い目を(うる)ませながら(つぶや)いた。


 すると、信じられない事に大輔の呼吸が落ち着いて来た。


 「――!? こ、これは!?」


 吃驚(きっきょう)し目を見張(みは)る周りをよそに、穏やかな呼吸を繰り返す大輔。 包帯に巻かれた口から『スゥ、スゥ』と安らかな寝息まで漏らしている。


 「よ、容態が……落ち着いた……?」


 医師はベッドの(そば)に設置されている心電図を凝視(ぎょうし)した。 先ほどまで激しく波打っていたグラフはゆっくりとした波形に変わっている。


 「推しのアイドルに会うことが出来て、落ち着いたんでしょう」


 患者の変化に戸惑(とまど)う医師に、細木が背後から恬然(かつぜん)と声を掛けた。


 (そんな馬鹿な……)


 細木は動揺を隠せない医師に近づくと、医師の肩を優しく叩いて言葉を続けた。


 「先生、もう()()になるかも知れません。 この子の夢を叶える為、少しの間二人きりにさせて上げませんか?」


 細木の言葉に医師は悩んだ。


 (出来るだけの治療は行なった。 培養(ばいよう)皮膚、人工皮膚、あらゆる治療を(ほどこ)した。

 ……しかし、いくら皮膚を移植しても移植した皮膚は次から次へと脱落して行った。 止めどなく体液が漏れ出し、点滴も間に合わない。 拒絶反応も起こり、耐えがたい痛みが患者を苦しめている。


 ……残念ながらもう手の施しようが無い。 彼の言う通り患者は長くもたないだろう。 ならば、患者が生きている間に夢を叶えてあげる事が患者にとって良い事なのかも知れない)


 そう考えた医師は細木の願いに首肯(しゅこう)した。

 

 「……分かりました。 私達は一旦部屋を出て様子を見ましょう」


 こうして、医師と看護婦達は細木に連れられて集中治療室を後にした。

 ロボットはポニーテールの看護婦の後ろを『ピコ、ピコ』と音を鳴らして付いて来ていたが、ドアの前で立ち止まると名残惜(なごりお)しそうに伊奈の後ろ姿を見た。


 「ほら、ヨシオ! 早くいらっしゃい!」


 ロボットは看護婦に催促されると、伊奈の背中に会釈(えしゃく)してドアの向こうへと消えて行った。


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