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復讐は自分でやりなさい  作者: ティーケー
茶の間のアイドル

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身辺調査

 

 愛する者を失った憎悪(ぞうお)の炎は、復讐(ふくしゅう)()げる事によって消し去る事が出来る。 しかし、心を焼き()がした憎悪は絶望という爪痕(つめあと)を心に残す。

 絶望とは孤独(こどく)である。 耐えがたい孤独に身を(ゆだ)ねた人間はその姿を鬼と変え、全て人間から幸福を奪おうとする。

 

 つまり、復讐を遂げても誰も救われる事は無いのである。 しかし、身を焦がす憎悪の苦しみから解放される為には、復讐を遂げるしかない……。


 森中伊奈(もりなかいな)はそんな痛ましい人間を救おうとする。 だが、伊奈は彼等(かれら)を救うために人道にもとる恐ろしい約束を交わすのだ。


 『お前が憎む者を愛する者達。 その者達も全て抹殺(まっさつ)しなさい』


 復讐を渇望(かつぼう)する者に、伊奈が何故そんな約束をさせるのか分からない。 この世から憎しみを消し去ろうとしている伊奈。 その伊奈に聞かなければ彼女の真意は分からないのである。



――



 『――復讐は自分でやりなさい――』


 伊奈が木佐貫蒼汰(きさぬきそうた)に告げた言葉。 それは復讐の実行だけでなく、その準備もたった一人で行わなければならない事を意味していた。


 蒼汰(そうた)には復讐する相手が二人いた。 両親と姉弟(してい)を殺した当時19歳の男、そして妻と娘を殺した39歳の男……。 まずはその二人が現在何処(どこ)で何をしているのか調査し、彼等に関係している者達から彼等を愛する者をピックアップしなければならなかった。

 

 蒼汰はまず妻と娘を殺した男の調査に乗り出した。 とはいえ、男とは何度も裁判の場で会っており、すでに素性(すじょう)や現在の所在は判明していた。


 男の名は『東郷司(とうごうつかさ)』と言った。 (つかさ)は『三星商事(みつぼししょうじ)』という大手商社の役員であった。 大物政治家である父親のコネで入った会社であり、司を採用した三星商事は何の役にも立たない司を仕方なく役員として受け入れていたという。

 父親は『東郷佐ノ吉(とうごうさのきち)』という御年91歳の老人であった。 高裁の裁判官を務めた弁護士という肩書きを持ち政治家歴は長く、派閥(はばつ)(おさ)として傲慢(ごうまん)の限りをつくしていた。

 左ノ吉は若い時からズル(がしこ)かった。 詐病(さびょう)(ろう)して徴兵(ちょうへい)を回避し、お国の為に散っていった戦死者達の土地を時効取得(じこうしゅとく)して財を()した。 何人もの女性と結婚を繰り返していたが子宝に恵まれず、うら若い女性と最後の結婚をした50歳の時に司を授かった。

 母親は当時21歳の女子大生であった(あおい)という女性であり、婚約していた男性を一方的に切り捨て、カネの為に左ノ吉と結婚した。 捨てられた男性は葵の事を深く恨んだそうで、その男性の生霊(いきりょう)による影響なのか、葵は司を生んですぐに亡くなってしまった。

 また、左ノ吉には一人の兄がいた。 かつて警察庁の次長を務めた『東郷吉住(とうごうよしずみ)』と言う人物である。 彼はカネ目当ての若い女と結婚した左ノ吉の事を良く思っていなかった。 とはいえ、彼自身にも浮気癖(うわきぐせ)があり、あろうことか人妻と不倫をしていた事が左ノ吉に知られてしまい、その悪行を材料に事件を起こした司の罪を少しでも軽くするよう(おど)されたのであった……。

 左ノ吉は可愛い一人息子が“運悪く”事故を起こした事に心を痛め、ありとあらゆる薄汚(うすぎたな)い手段を用いて司の罪を軽くしようと躍起(やっき)になった。 こうした父親の“甲斐甲斐(かいがい)しい”努力によって、息子は「懲役一年」という異例の判決を勝ち取る事が出来たのである。


 したがって、蒼汰の妻と娘を殺害した東郷司は刑務所に行けばいつでも連れ去ることが出来た。 また、父親も目赤区の高級住宅街に建てた大豪邸に在住しており、大物政治家という目立つ存在でもあったので、その気になればいつでも拉致(らち)する事が出来た。


 このように、司と父親の居場所は調べるまでもなかった。 ところが、司の家族の居場所を突き止めるのは少し手間取った。 司はこの事件の影響で妻と離婚をしており、妻は小学生の一人娘を連れて実家へ帰ったそうで行方が分からなくなっていたのである。 ネット上で一時、妻の住所が(さら)し上げられた事もあったようだが、すぐに消去されてしまっていた。

 

 「ヤツの奥さんと娘さんは、ヤツの事をどう思っているのだろうか?」


 もし、離婚が形だけのものであり、司の(もと)へ戻って来るつもりであるなら、司の事をまだ愛しているという事になる。

 一方、司に愛想を尽かして実家へ戻ったのであれば、司など忘れて二人で新たな人生を歩もうとしているのかも知れない……。


 蒼汰は司の妻と娘に会って、司を今も愛しているのかどうか調査しなければならなかった。 もし、二人が司の事を愛しているのであれば、伊奈との約束通り二人とも殺害しなければならない……。

 

 (……できればヤツをもう愛していないでいて欲しい……)


 蒼汰はなるべく家族を犠牲にしたくはなかった。 だが、伊奈との約束は復讐する為の力を得る条件である。 その約束を反故(ほご)にすればきっと恐ろしい事が起きるに違いなく、約束は必ず守らなければならない。 伊奈の妖艶(ようえん)な赤い瞳を見ると、蒼汰は何故かそう思わざるを得なかった。

 

 

 ――



 蒼汰はネットや新聞記事、テレビや聞き込みを用いて、(つかさ)の妻と娘の行方を調査した。 その過程で思い出したくも無い(おぞ)ましい光景を幾度となく思い出した。 途中、司に対する殺意(さつい)衝動(しょうどう)(おさ)えきれず、刑務所を襲撃して司を殺してしまおうかとも思ったが、伊奈との約束を思い出し、踏みとどまった。

 そんな苦悶(くもん)の努力を()て、蒼汰は司の妻と娘の消息(しょうそく)をようやく(つか)む事ができた。 しかも、調査の過程で司の叔父(おじ)は殺害の対象としなくて良いという確信を得ることも出来た。

 司の叔父である吉住(よしずみ)は、そもそも浮気をネタに脅された過去があるので左ノ吉に恨みを抱いており、司や左ノ吉が死んでも涙一つ流さないであろう。 司が軽微な罰で済んだ事に対する責任はあるにせよ、吉住は御年96歳の老人である。 復讐せずとも近いうちに天寿(てんじゅ)(まっと)うするだろう吉住を、蒼汰は対象から外したのであった。

 

 司の妻の名は『美雪(みゆき)』、娘の名は『つくし』といった。 母と娘は実家がある(ぼう)県の田舎(いなか)町に住んでいた。 町の住民は美雪が凄惨(せいさん)な事故を起こした東郷司の妻だという事を知っていたが、彼女の将来を(あん)じて誰もその事を口外(こうがい)する者はいなかった。

 美雪は何故、司と結婚したのだろうか? 左ノ吉の妻と同じくカネの為だったのだろうか? 蒼汰は疑問に思いつつ某県へ出向き、田舎町の古びた駅のホームへ降り立った。

 

 『遠方にいる者に対する感情を調べる為には、その者の写真を相手に見せれば分かります』


 某県へ向かう前、榊原(さかきばら)は蒼汰にそう助言を与えた。 榊原の話では、相手に写真を見せればその写真に向かって感情の光が照らされるそうだ。 蒼汰はできるだけ悪人面(あくにんづら)をした司の写真を複数枚入手して懐に入れ、美雪とつくしが住む実家へ向かった。


 美雪の実家には両親が健在であった。 両親は刑事を(よそお)った蒼汰に対して(おび)えながら応対した。 両親の話では、美雪は事件のショックから部屋に引き()もっているという……。

 両親の気遣いで居間に上がった蒼汰。 お茶を(すす)りながら美雪が自室から出てくるのを待っていると、美雪が現れた。 彼女はヨレヨレのブラウスの着ているだけのあられのない姿であった。 常に何かブツブツと独り言を(つぶや)いており、座布団に座っている蒼汰に目もくれず、(うつろ)ろな目で畳を見つめている……。 

 両親の話によると、美雪は事件の後、ネットで事実無根の誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)(さら)され“うつ病”を発症してしまったとの事であった。


 「それもこれも全て東郷家(とうごうけ)が悪いんです!」


 美雪の両親はフラフラ佇む娘を横目に涙ながら(うった)えた。 この二人には司の写真を見せるまでもないだろう。 だが、美雪には念の為、見せておかなければならない。

 長い黒髪を畳に向かって()らしながら肩を丸めて突っ立っている美雪……。 両腕をだらりと下げた風貌(ふうぼう)は、まるで井戸から()い出てきた幽霊のようであった。 蒼汰はそんな美雪に気味悪さを感じつつ、かつて夫だった男の写真を見せた。

 すると、写真を見せた瞬間に美雪の全身から真っ赤な閃光(せんこう)が走った。 かと思うと、彼女は蒼汰が差し出した司の写真を奪い取り、あっという間にビリビリに破いた。 そして言葉にならない怒声を上げながら、畳に散らばった写真の欠片(かけら)幾度(いくど)となく足で踏みつけた。

 彼女は(たま)り兼ねた両親によって羽交(はが)()めにされながら、呆気(あっけ)に取られる蒼汰を尻目(しりめ)に再び自室へと引きずり込まれて行った……。 


 誰もいなくなった居間の棚には、可愛らしいおかっぱ頭の女の子の写真が飾ってあった。 恐らくこの写真の女の子がつくしだろう。 狭い田舎町なので小学校など一校しかない。 このまま両親が戻って来るのを待つ(いとま)もないので、蒼汰は棚に飾られている写真を記憶し美雪の実家を後にした。

 つくしが通う小学校へ続く道は一本道である。 現在は下校の時間、学校まで歩いていればつくしと出会うだろうと思った蒼汰は、憂鬱(ゆううつ)な気持ちでブラブラ学校へ向かっていた。 すると、正面から先ほど記憶した写真に映っていた女の子がトボトボ歩いて来る姿が見えた。


 つくしは一人で歩いていた……。 彼女の(はる)か後方には同じ学校の生徒であろう子供達の笑い声が聞こえていた。


 「こんにちは……」


 つくしの前に立った蒼汰が腰を(かが)ませて話しかけると、驚いた様子のつくしは「こ、こんちわ」とたどたどしい返事を蒼汰に返した。


 「おじさん、警察の人なんだけど、この人の事知ってるかな?」


 蒼汰はそう言って(ふところ)から司の写真を取り出し、つくしに見せた。 蒼汰は紛失した時の事を考えて司の写真を複数枚懐に忍ばせていたのである。


 すると、父親の写真を見たつくしは怯えたように顔を(ゆが)ませて写真から目を(そむ)けた。 そして身体から悲しみの光を放ち、一本の光の筋で父親が映っている写真を穿(うが)った。


 「こんな人、知らない!」


 つくしはそう吐き捨てると、(うつむ)いたまま逃げるように自宅へ向かって走り去った。


 赤いランドセルを背負う少女の背後から放たれる悲しい光……その光は暗くて深い藍色(あいいろ)の光であった。


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