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復讐は自分でやりなさい  作者: ティーケー
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追憶


 アム・セグラ人達が警戒(けいかい)している警官は、コンビニ袋をぶら下げて商店街を歩いていた。

 買い物を終えた警官は交番へ戻る途中であった。 商店街は多くの買い物客で賑わっていた。 警官は度々住民から声を掛けられては面倒くさそうに立ち止まり、中々交番へ帰ることが出来ない状況に内心嫌気(いやけ)がさしていた。

 

 「お巡りさん、アンタまたカップラーメンかい? 奥さんに言ってお弁当でも作って(もら)いなさいな」


 「あー、はい、はい。 アイツはそんな事するようなタマじゃないの。 残念ながら」


 商店街のオバちゃんに声を掛けられ、余計な忠告をされた警官は適当な返事をオバちゃんに返した。

 警官は自分の妻を貶すような文句をオバちゃんに言ったが、彼の妻はきちんと毎日弁当を作っていた。 ところが、警官が午前中にいつも弁当を食べてしまう為、昼はコンビニでカップラーメンを食べるしか無かったのである。 そして、表向きには文句ばかり言っている警官もそんな妻に感謝しており、彼女の事を愛していたのであった。

 警官に声をかけて来る住民は一様に笑顔を見せていた。 こんな適当な返事しかしない警官にもかかわらず、意外にも住民達は彼を(した)っているようだ。


 いかにも『うだつの上がらないお巡りさん』という様子でブラブラとやる気のなさそうに歩いている警官。


 「ん……? あ、あれは――!?」


 しかし、彼は人混みの向こうにチラッと見えた女の子に気が付くと、その緩慢(かんまん)な動きを稲妻(いなづま)のように変え、(のき)(つら)ねるお店の影に隠れた。 そして、人混みの中に現れた女の子の様子を(うかが)った。


 「あ……ガキは……まさか?」


 女の子は若い女性と一緒に饅頭(まんじゅう)を食べていた。 銀色に輝く彼女の瞳は(よろ)びに満ちている。 隣の女性は美しい栗色の瞳であり、女の子の楽しそうな様子に目を細めていた。

 

 「ありゃ、姉妹(しまい)ではねぇな。 いとこ同士か? それにしても、あのガキ……なかなか良いセンスしているな」


 女の子は黒いャップでキラキラした金髪を隠していた。 青いスタジャンに太めのカーゴパンツ、白いスニーカーを履いている出で立ちは警官の趣味に合うカジュアルな服装であった。

 一方、女の子の隣にいる若い女性は長く美しい黒髪を靡かせたブラウス姿の清楚な格好をしていた。

 髪の色も瞳の色も、服装も違う二人を見て、警官でなくとも二人が姉妹では無い事は一目瞭然(いちもくりょうぜん)であった。


 だが、警官が二人を見て気が付いた事はそれだけではなかった。 二人には他の人間とは違う違和感があり、特に女の子の身体は彼女の瞳の色と同じく、銀色の(おだ)やかな光を(たた)えていた。


 「――やっぱり、そうか! あのガキが“アイツ”の言っていた“月の子”だ! ……という事は、あれから二十年経ったという事か?」


 警官は不可解な言葉を(つぶや)くと、感慨深(かんがいぶか)そうに腕を組んだ。


 「そうか……やっと二十年……か……。 アイツの言う通り待ち続けていた甲斐(かい)があったってもんよ。 まあ、アイツの姉ちゃんが現れた時に『もう、ボチボチかな?』とは思っていたがな。


 ……それにしても、待っている時間っちゅうのは長く感じるもんだぜ。 そういや、カップラーメンが出来上がるのをジッと待ってると、三分どころじゃ無く五分ぐらいに感じるもんな、うん」


 警官は納得したように「うん、うん」と頷くと、コンビニ袋をその場に残してあっという間に姿を消した。


 商店街から姿を消した警官は、いつの間にか繁華街の場末にある交番の前に姿を現していた。


 「ようやく、お前もこの世界へ戻って来れるのか……」


 警官は交番へ入らずに空を見上げていた。 青空を見つめるその悠久(ゆうきゅう)の瞳で何を見ているのかは分からない。


 (お前が帰って来たら、報告したいことが山ほどあるんだ。


 だから、早く帰って来い。 杏子もお前に会うことを楽しみにしてるぜ。


 それまでの間は“月の子”にも“お前の姉ちゃん”にも会わないようにするわ)

 

 警官はひとしきり過去を懐かしむと「ふふっ……」と微笑(びしょう)()らした。 そして、交番の引き戸に手をかけようとしたが、その手にコンビニ袋が無い事に気が付いて慌てて(きびす)を返した。


 「あっ、やっべ! カップラーメンとタバコ、忘れて来た!」


 警官は自分の失敗に「はぁ……。 俺って昔から変わんねぇよな」と残念そうな溜息(ためいき)()らすと、トボトボと商店街へ戻っていった。



 ――



 小百合(さゆり)希海(のぞみ)は町のビジネスホテルに滞在し、イグニスの行方(ゆくえ)捜索(そうさく)した。 昨日から、和菓子屋の店主が言ったように夜中に町へ繰り出してイグニスを探し歩いたが、結局、彼は見つからなかった。


 「もう! あのオッチャン嘘付いたわね!」


 薄暗い街灯の下で頬を膨らませてプンプン怒る仕草を見せる希海。 キャップを被っていない彼女の美しい髪が街灯に反射して(きら)めくと、夜遊びに(きょう)じていたアム・セグラ人のチンピラ共が二人の存在に気が付いて悪巧(わるだく)みを始めた。


 「おい、あの金髪のガキ見てみろよ。 隣にいるのは日本人か?」


 「ああ、ガキはともかくあの日本人の姉ちゃんは上玉だな」


 街灯(がいとう)の下で明日の予定を話している希海と小百合を遠目(とおめ)から見るチンピラ達。 二人の男は小百合を見つめてイヤらしい笑みを浮かべ、もう一人は希海の姿を見て鼻息を荒くしていた。


 「俺はあの金髪の子の方が好みだなぁ♡」


 スキンヘッドのアム・セグラ人がニタニタと(つぶや)くと、仲間達はまるで汚物(おぶつ)を見るような軽蔑(けいべつ)の目をスキンヘッドに向けた。

 

 「……お前、日本のロリコン文化に感化されたのか? あんなガキの何処(どこ)が良いんだ?」


 「うるせぇ! それより、人がいねぇ間にあの二人、(さら)っちまおうぜ!」


 スキンヘッドは二人の軽蔑の視線を(さえぎ)ると、卑劣(ひれつ)(たくら)みを二人に表明した。 もとより、二人もそのつもりであったようで「当たりめぇだろ、俺達の町で許可無くブラブラ出歩いてるのが悪ぃんだ」と彼の悪巧みに臆面(おくめん)も無く(うなず)いた。


 「おし、そうと決まれば速攻襲いかかって――!」


 スキンヘッドが希海の()()()()()()姿()を妄想して感極まったのか、仲間を尻目(しりめ)にイノシシのように駆け出した!


 希海と小百合は迫り来る悪党共に気付いている様子は無い。 あまりにも小物なので虫が近づいて来ているとしか思っていないのかも知れない……。

 どの道、三人の悪党の悪巧みが成就(じょうじゅ)するはずも無い。 そればかりか、彼等の悪事は希海と小百合に気付かれる事も無く、失敗に終わったのだった。


 「おい、何やってんだ! 早く付いて来い!」


 暗がりの中、息せき切って駆けだしたスキンヘッドが後ろを振り向いた。 彼の仲間はまだこちらへ向っている様子は無い。


 「……う、うぅ……」


 すると二人の仲間は(うめ)き声を上げたかと思うと、その場にバッタリと倒れてしまった。


 「――!? お、おい!? お前ら――!」


 異常事態に慌てたスキンヘッドはその場で立ち尽くし、月の光に浮かぶ仲間の昏倒(こんとう)する姿に目を白黒させた。


 「い、一体何が……?」


 すると次の瞬間、彼の背後に悪寒が走った!


 「ヒッ――!!」


 まるで幽霊のような不気味な気配……。 全身の肌が寒気で泡だったスキンヘットは慌てて後ろを振り向いた。


 「あ、あぁ……」


 彼は後ろの幽霊を見る事が出来ず、その場でバッタリと倒れてしまった。 茶瓶(ちゃびん)のようなスキンヘッドに巨大なタンコブを作って……。


 昏倒しているスキンヘッドの前には人のような影が見えた。 影は奥で倒れる二人のアム・セグラ人とスキンヘッドが死んでいないか確認し、希海と小百合がいる街灯の方へ目を()った。


 先ほどまでプンプン怒っていた希海は、小百合と何やら楽しそうにお(しゃべ)りをしており、銀色の瞳を細めて(まばゆ)い笑顔を見せていた。


 「の、希海さん……美しい……」


 影はそう呟くと、何かを妄想(もうそう)したのか首をプルプルと振る仕草(しぐさ)を見せた。 そして、名残惜(なごりお)しそうに希海の姿を見守った後、(きびす)を返して夜の闇へと(まぎ)れていった。



 ――



 翌日、希海と小百合はホテルのチェックアウト時間ギリギリで追い出されるようにホテルを出た。 小百合は昨日、アム・セグラ人の友人に連絡して昼頃に駅前の喫茶店で会う約束をしていた。

 遅くまで夜更(よふ)かしをした二人は眠い目を(こす)りながら駅前の喫茶店へ向かっていた。 ボーッとした様子の小百合の横では、希海が大きく欠伸(あくび)をしながら自分と同じ年頃の制服姿の女の子を見ている。


 「ふわぁ……。 そういえば、もう登校する時間ね。 真裕(まひろ)はちゃんと学校へ行ってるのかしら?」


 まるで人ごとのように言い放つ希海に、小百合はあきれ顔で「希海ちゃん、最近学校サボり過ぎじゃない?」と(たしな)めた。


 「そんな事ないわ。 ちゃんと一週間に三回は出ているわよ。 テストだって赤点取った事無いんだし、大丈夫!」


 希海はそう言って自慢げに鼻を鳴らすが、それもこれも希海のファンを公言する男子達と友人である大城(おおしろ)真裕が、彼女にテスト対策を指南してくれるお陰である。 小百合もそんな希海の恵まれた環境を知っており「お友達に感謝しなきゃね♪」と、まるで自分の地頭(じあたま)が良いかのように余裕を見せている希海をやんわりと(さと)した。

 

 「そういえば、小百合お姉ちゃんにお友達がいたなんて私知らなかったなぁ」


 小百合の注意を聞き流した希海が、何気なく疑問を口にした。

 小百合は高校卒業後、一年の間父親に監禁(かんきん)されていた。 希海に救出された後、すぐに喫茶店を開いて育児と仕事に追われていたはずなので、友人なんて作る時間は無かったはずだ。


 小百合は希海の疑問に少し恥ずかしそうに顔を(うつむ)かせると「高校の時の友人だったの」と(つぶや)いた。


 「えっ! ……そ、そうなんだ……」


 希海は高校時代の小百合の生活を知っていた。 自宅に帰れば地獄のような責め苦が待ち受け、毎日夜が来る恐怖に怯える絶望に満ちた生活……。

 希海はそんな小百合の辛い高校時代を知っていたからこそ小百合の発言に驚き、これ以上彼女に辛い過去を思い出させないように話しを止めてしまった。

 

 小百合は急に口を(つぐ)んだ希海を見て、彼女の心遣いに気が付いた。 そして、これから会おうとする友人について希海に語り出した。


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