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復讐は自分でやりなさい  作者: ティーケー
漆黒のユリ

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31/186

残虐の決意

 

 小百合(さゆり)が目を覚ました翌日、希海(のぞみ)は赤いランドセルを背負って学校へ行ってしまった。

 

 「夕方には伊奈(いな)様が帰って来るから! それまでの間、ゆっくりしててね♪」


 希海は『伊奈』という“屋敷(やしき)(ぬし)”について、何も語らなかった。 イタズラっぽい笑顔を見せて「会ってみれば分かるわ!」と言うので、小百合もそれ以上聞かなかった。


 希海が学校へ行ってしまうと、小百合はにわかに(さび)しさを感じた。

 屋敷は気味が悪いほど古めかしかった。 柱や屋根は所々真っ黒に焦げており、まるで大火事に遭った後のような、不気味な外観であった。


 希海の話しでは、屋敷には希海の他に『榊原(さかきばら)』『島田』が住んでおり、まだ小百合が会ったことのない『細木(ほそき)』という若い男も入り(びた)っているとの事であった。 その他、メイド服を着たツルツル頭のロボットや、四角い箱のようなロボットが忙しく屋敷内を動き回っており、初めて見る人型の機械に小百合は目を白黒させた。

 榊原は今朝会って挨拶(あいさつ)を交わした。 初めは緊張したが、やはり小百合が思った通りの老紳士であった。 穏やかな笑顔で小百合に挨拶をする姿は、彼女を安心させた。

 細木という者は「病院に行っている」との事で不在であった。 榊原の話しでは大柄で筋肉質の男のようで、小百合は猛獣のような凶暴な男を想像して背筋が寒くなった。 彼女はその男とはなるべく会いたくないと願った。


 希海が学校へ行ってしまった事で話し相手がいなくなり、手持ち無沙汰になった小百合。 このまま部屋の中でロボットを眺めていても(さび)しいだけなので、久しぶりに散歩をしようと屋敷の外へ出た。



 ――



 屋敷を取り巻く広い焼け野原のような荒地を抜けると、打って変わって美しい庭園に出た。

 小百合の心を(おど)らせるような色取り取りの花が咲き誇る光に満ちた庭園。 11歳の時から仄暗(ほのぐら)い闇にいた小百合にとって、この楽園のような景色は「まだ自分が夢の中にいるのではないか?」という錯覚を抱かせる程であった。


 大きな池の透明な水を両手で掬うと、水面に揺らぐ小百合の顔が映った。

 スッと一筆に書いた眉を不思議そうに下げ、桃花(とうか)に似た愛らしい瞳を丸くさせ、口を(すぼ)ませている乙女(おとめ)。 その様子は年齢よりも幼く見えた。

 小百合は池の中で泳ぐカエルが気になっているようだった。



 「――お前、カエルが気になるの――?」



 すると、背後から女性の声が聞こえてきた。 その声は鼻声で聞き取り辛かった。


 (か、帰る……。 あの家に――!?)


 小百合は女性の声を聞くと醜悪(しゅうあく)な父親の姿を思い出し、(おび)えた様子で後ろを振り向いた。


 「イヤァァ! 帰りたくない!」


 小百合は(おぞ)ましい日々を思い出して思わず叫び、しゃがみ込んだ。 すると、いつの間にか小百合の目の前に赤い目をした女性が立っており、小百合に向かって笑みを浮かべていた。


 「ふふっ、怯えないで。 カエルを気にしているようだったから、声を掛けただけよ」


 「……えっ?」


 小百合はどうやら聞き違いをしていたようだ。 小百合には「帰る気なの?」と聞こえた女性の言葉は「カエルが気になるの?」と言ったのだと気が付いて、その美しい顔を恥ずかしさで紅潮させた。


 「し、失礼しました!」


 突然目の前に現れた女性が何者かは分からない。 だが、小百合は一目見てこの女性が『伊奈様』だと確信した。


 女性は麗しい太ももが見える丈の短い空色のスカートを履いており、袖の長い白セーターの上に(あい)色のジャケットを羽織っていた。 宝石のように輝く赤い瞳を細めて微笑む顔は小百合と同年齢か、もう少し幼く見えた。


 「調子はどう?」


 女性は艶然(えんぜん)と微笑んで小百合に聞く。


 (こ、この人、何処かで見た事が……)


 小百合は女性の顔を何処かで見た事があると思いながらも、突然現れた女性の美貌(びぼう)に見とれてしばらく言葉に窮していた。 


 「立山小百合、体調は良くなったの?」


 「えっ!? あ、ハイ!」


 女性からの再度の問いかけに我に返り、慌てて姿勢を(ただ)した小百合。

 

 「ハ、ハイ! お陰様で……」


 暖かい日差しが小百合の心を解きほぐす。 少し肌寒い風も日差(ひざ)しのせいで気持ちが良い。

 秋も深まった季節であるにもかかわらず、何故か青々とした緑がざわめき、小鳥が鳴く色鮮やかな景色。 今まで感情を閉ざしたモノクロの景色で息を(ひそ)めていた小百合。 暗く冷たい氷の世界から解放された彼女の心は正直だった。


 「お、お陰様で――暖かくて気持ちが良いです! こんな日が来るなんて、私は……グスッ……」


 小百合の瞳に涙が浮かぶ。 すると、女性は「クスッ」と微笑むと「お前、泣き虫さんね」と小百合を茶化すような言葉を贈った。


 「あ……あの、お名前は……?」


 小百合は女性の名前を聞こうとした。 ところが、女性は彼女の質問を(さえぎ)り、まるで小百合の心の中を見抜いているような言葉を返した。


 「ふふ、私はアタシ……。 お前が今思っている通りの名前……」


 「す、すいません! (やっぱり、この人が“伊奈様”……)」


 小百合は自分の心を伊奈に見透かされたような気がして、動揺した。 伊奈はそんな小百合に「謝らなくてもいいわ」と気遣うと、彼女の目の前を通り過ぎた。


 まるで燃えるような髪の先端が風にそよぐと、火の粉のようなキラキラとした赤い光りが舞う。 白い肌は水のように透明で、弓なりのふっくらした唇は(あで)やかな(くれない)に染まっている。


 一見幼く見える顔立ちでありながら、目を見張るような(りん)とした(ただず)まい。


 (この人、私よりも年上なんだ……)


 その姿は小百合よりもっと年上の、波乱に満ちた人生を乗り越えて来た(たくま)しい女性の美しさであった。


 伊奈は呆気に取られている小百合を横目に、奥に見える十字架が刻まれている四基の墓石へと向って行った。


 「付いて来なさい」


 「はっ、ハイ!」


 小百合は墓石へ向っていく伊奈に慌てて付いて行った。



 ――



 それぞれの墓石には花束が供えられていた。 三基は大きな墓石だが、一基は他の墓石より一回り小さい……。

 

 「このお墓は……?」


 小百合が伊奈の背中に疑問を投げる。


 「希海(のぞみ)の家族。 (かたわ)らに寄り添っているのは飼い猫のお墓」


 「――希海ちゃんの――!?」


 桜色の唇を右手で隠して絶句する小百合。 小百合は希海の快活な様子を見て、彼女が『伊奈と幸福な暮らしをしている子供なのだろう』と勝手に想像していたので、意外な事実に驚きを隠せなかった。


 「篠木希海(しのきのぞみ)は不思議な子。 “月の欠片(かけら)”を瞳に宿(やど)し、絶望を希望に変える」


 伊奈はそう(つぶや)くと、それぞれの墓石に向かって手を(かざ)した。


 「彼等の魂に“憎悪の残滓(ざんし)”は無い。 希海が全て背負っているから……」


 すると伊奈は後ろを振り返り、妖艶(ようえん)な赤い瞳で小百合を見つめた。


 「立山小百合(たてやまさゆり)、聞きなさい。 ()()()()()()()は死して尚、魂に宿る黒い炎。

 

 その炎は、この世に生きる全ての生命を根絶やしにする漆黒(しっこく)の魔物よ。

 

 たとえ死を選択して肉体を滅ぼそうが、憎悪は消える事無く生命を蹂躙(じゅうりん)する。 そして、孤独、絶望と交わり鬼という“厄災(やくさい)化身(けしん)”となる」


 伊奈の声は、先ほどの鼻声とはまるで違っていた。 透き通った美しい声色であるにもかかわらず、言葉を紡ぐ度に彼女の強い意志が心へ重く響き渡る不思議な声であった。


 伊奈は言葉を失っている小百合の前へ歩み寄ると、彼女の細い肩を『ポンッ』と叩いて言葉を続けた。


 「お前の身体(からだ)(むしば)む憎悪。 お前はその()まわしい憎悪の炎を、お前自身の力で消さなければならないの。


 憎悪をこの世界にバラ撒いてはいけないの、分かる?」


 ……正直、小百合には良く分からなかった。 だが、伊奈が指摘する憎悪の原因は憎き父、そして唾棄(だき)すべき母である事は分かっていた。

 父と母に対する峻烈(しゅんれつ)な恨み。 その恨みを晴らすためには、自分自身の力で復讐をしなければならない。 いや、むしろ小百合は自分自身の力で復讐する事だけを欲している。


 世界に憎悪をバラ撒く事など小百合にとってどうでも良い事であった。 それに、今はもう死ぬ事なんて考えてはいない。

 

 『――お姉ちゃん、生きて――』


 有加利(ゆかり)の願いに(こた)える為、彼女は生き続けなければならないのである。



 ――



 屋敷へ戻った小百合は、伊奈に「復讐を遂げることが出来る力を授けて欲しい」と頼んだ。

 希海はまだ学校から帰って来なかった。 伊奈は小百合の願いを受け入れたが「希海が帰って来るまでお待ちなさい」と小百合に伝え、事前に小百合の覚悟を問うた。


 「もし、お前が復讐する者を愛している者達がいた場合、お前はその者達をも全員抹殺(まっさつ)しなければならない」


 それは小百合が伊奈の力を手に入れる為の条件であった。


 小百合は伊奈の言葉にただ黙って(うなず)いた。 小百合の強い意志を宿した瞳を見て、伊奈は満足そうに微笑んだ。


 「ふふ、結構な事ね。 まあ、どちらにせよ、お前に選択肢は無いのだけど」


 「せ、選択肢……ですか……?」


 目を丸くする小百合に、伊奈は悠然(ゆうぜん)と言葉を続けた。


 「もし、アタシの力を受け入れる事を拒めば、お前自身の脆弱(ぜいじゃく)な力で復讐を遂げるしかない。 仮に復讐を遂げることが出来れば、鬼にならなくて済むかもしれない。 ただ、絶望と孤独――“虚無(きょむ)”は消えない。 再び憎悪に取り込まれれば、やがてお前は鬼となる。


 お前が鬼となったときは、アタシがお前を殺す。


 だから、お前はアタシの力を受け入れる以外に選択肢は無いの」


 平然とした様子で恐ろしい言葉を吐く伊奈。 だが、小百合はその言葉に恐怖を感じなかった。 


 小百合はもう決めていたから。


 伊奈の力を手に入れて、憎き両親に復讐の鉄槌(てっつい)を下すことを。


 すると、伊奈は小百合の強い意志を感じてか、小百合を少し安心させるような言葉を続けた。


 「アタシの力は虚無を封じ込める事が出来る。 だから、お前はアタシの力を受け入れて憎悪を消滅させれば、鬼になる事は無い」


 伊奈はそう言うと、打って変わって可愛らしい表情を小百合に見せ、ウィンクを投げた。


 (……それに、アタシの“ケンゾク”になっても()()()()()生きていける訳だから問題ないでしょ?)




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