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復讐は自分でやりなさい  作者: ティーケー
漆黒のユリ

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脱出


 「待って! あの男は――!?」


 小百合(さゆり)は、目の前で手を差し出す少女に向かって叫んだ。 彼女は自分を苦しめ、妹を殺した憎き父に復讐(ふくしゅう)をしなければならなかった。


 「あの男? ……ああ、あの一階で転がっている”ブタ”ね。 あの白ブタなら玄関を蹴飛ばした時に“運悪く”突っ立っていたから、シバいておいたわ」


 そう平然と言い放つ少女。 すると、小百合は焦燥(しょうそう)した様子で少女の手を両手で握りしめ、懇願した。


 「私はソイツを殺さなきゃならないの! 一秒でも早く! だから、私は貴方(あなた)と一緒には――!」


 小百合の瞳に(うごめ)く憎悪の影。 少女には見えていた。 その痛ましい身体を包む憎しみの炎が……。

 小百合は少女から手を離すと、一目散に部屋を出ようとした。

 

 「待って、今はダメ! 関係の無い奴らを巻き込む訳には行かないわ!」


 一階へ行こうとする小百合の腕を(つか)み、制止する少女。 小百合は少女の手を引き離そうとするが、少女の力は信じられない程強く、小百合が力一杯足掻(あが)いても、少女の身体はピクリとも動かなかった。


 「イヤ、離して! アイツを、アイツを殺さなきゃ! 私は、有加利に――!!」


 今この場で殺さなければ二度とチャンスが無いかも知れない。 憎くて、憎くて仕方がない実の父。 あの醜い姿を思い出すだけで吐き気がする。


 『あの男の肉片一片も、(ちり)一粒もこの世に残したく無い!』


 小百合は半狂乱になりながら、少女の腕を振りほどこうと喚いた。


 すると、少女は小百合の腕を引っ張って自分へ引き寄せると、暴れる小百合を優しく抱きしめた。


 「大丈夫! 貴方は必ず復讐を遂げることが出来る! だから、私を信じて――」


 「――お姉ちゃん――!」


 小百合は少女の叫びで我に返った。 そして、その叫びで妹の懐かしい声を思い出した。



 『――お姉ちゃん――!』



 「……有加利(ゆかり)……」


 小百合は少女に肩を抱かれたまま大人しくなった。 ところが、少女が『ホッ』とした様子を浮かべるや否や、立山家(たてやまけ)の周りが『ガヤ、ガヤ』と騒がしくなり、遠くから消防車やパトカーのサイレンまで聞こえてきた。

 まるで爆弾でも投げつけられたかのように破壊された玄関。 一階に積み上がる全裸の男達……。 何事かと思って立山家にかけつけた近所の住民が、その恐ろしい光景を見て、消防と警察を呼んだのであった。

 すると、少女は騒然とした状況に慌てた様子で「マズイわ、早く逃げないと!」と叫ぶと裸のままの小百合を抱きかかえて、部屋を出て裏口の方へ回った。 そして、二階の窓から外をのぞき込んで誰も居ないことを確認すると、小百合を抱えたまま壁を蹴って穴を開け、その穴から外へ飛び出した。


 「キャァァ――!!」


 少女に抱えられて二階から落ちた小百合は思わず悲鳴を上げる。


 「大丈夫!」


 少女はそう言って『トンッ』と庭へ着地すると、すぐさま小百合を抱きながら壁を飛び越えて道路へ飛び出し、忽然(こつぜん)と姿を消したのであった。



 ――



 「あぁぁ、どうしよう、失敗したわ……」


 誰も居ない小さな公園のベンチに座り、頭を抱えている金髪の少女。 隣には両手で胸を隠して寒さに震える一糸纏(いっしまと)わぬ小百合の姿があった。

 

 少女は小百合に服を着せずに逃げてしまった。 こんな格好ではこのまま小百合を連れ回す事が出来ない。 そこで、ひとまず小百合の自宅から遠く離れた人気の無い公園で待機し、仲間を呼んで女性用の服を持ってきて貰おうとした。


 「ゴメン、お姉ちゃん! 取りあえず、コレ着てて!」


 少女は自分が着ていたパーカーをおもむろに脱ぐと、小百合の肩にパーカーを掛けた。

 

 「あ、アリガト……。 でも、貴方は寒くないの?」


 パーカーを脱いだ少女はTシャツ姿になっていた。


 「大丈夫よ、こう見えても私は寒さに強いんだから! それより、ちょっと待っててね、今『島田さん』を呼ぶから」


 今は冬の気配が漂う冷たい風が吹く11月だ。 しかし、Tシャツ姿の少女はやせ我慢をしている様子は無かった。 少女は平然とした様子でズボンのポケットからボロボロのスマホを取り出すと、誰かに電話をかけ始めた。


 「あっ、もしもし、島田さん? うん、“やっぱり”だったわ。 このままじゃ、“鬼”になるかもしれない……。

 

 ――えっ、伊奈様に? ……いや、出来れば“修羅”ならないで憎悪を……。


 うん。 うん。 分かった。 取りあえず、お姉ちゃん向けの服を持って来て!」


 少女は電話越しの相手と意味不明なやり取りをしていた。 電話を切った少女は、ポケットにスマホをぞんざいに捻じ込むと「仲間が着替え持って来てくれるから、ちょっと待っててね」と小百合に微笑みかけた。



 ――



 少女の名は『篠木希海(しのきのぞみ)』と言った。 小百合はその名を何処かで聞いたことがあると思ったが、ここ数年間はテレビを見ていなかったので、何処で聞いたか思い出す事が出来なかった。 小百合は希海に名を告げ、助けてくれたお礼を述べると、何故自分を助けてくれたのか希海に聞いた。


 「た、たまたま……偶然よ。 小百合さんの家の近くを散歩していたら……“邪悪な気配”を感じたの。 そ……それで中へ入ったら、あんな事に……」


 言葉に詰まった様子と、何故か小百合の顔を見ず公園のブランコを見つめながら答える挙動は、明らかに噓をついていると誰もが分かる子供らしい態度であった。


 「それより、小百合さんの身に一体何が起きたの? どうしてあんな大勢のヘンタイ共に(いじ)められて……」


 子供らしく疑問に思った事を躊躇(ちゅうちょ)無く聞く希海。 小百合は突然、忌まわしい過去を告白するよう促されて口を噤んだ。 ところが、希海の銀色の輝く不思議な瞳を見ると、何故だか「全ての過去をこの子に話さなきゃ」という気持ちにさせられた。


 「わ……私は、お父さんに……」


 「――あっ、待って! やっぱ、まだいいわ!」


 覚悟を決めて小百合が過去を話そうとした時、希海は彼女の言葉を遮った。


 「……へっ……?」


 呆気(あっけ)に取られる小百合に、希海は「え、えへへ……」と苦笑いを浮かべこう言った。


 「島田さんを呼んだ事を忘れてた。 やっぱ、島田さんが来た時に聞かないと……」


 続けて希海はベンチに座りながら膝を立てると、両手で膝を抱いて(つぶや)いた。


 「……いっつもそう。 さっきも、小百合さんにお洋服を着せてあげないですぐに外へ飛び出しちゃった……。 伊奈様には『少しは落ち着きなさい』とすぐ叱られるの」


 希海は自分が何事に対してもすぐ早合点(はやがてん)する性格を不満に思っているようであった。 小百合はそんな子供らしい悩みを吐露して空を見つめる希海に妹の面影(おもかげ)を見た。


 「ふふふ……」


 小百合が微笑(ほほえ)んだのは何年ぶりだろうか? そう、小百合が“二つ目の十字路”で最後に妹と言葉を交わした時以来……。

 彼女は希海の子供っぽい仕草を見て、久しぶりに冷え切った心が少し暖かく感じた。


 「え……えへへ……」


 小百合が微笑んでいる姿に気付いた希海は、小百合に合わせて自分も微笑みを返した。



 ――



 それからすぐ、小百合の目の前に着物を着た白髪の老婆(ろうば)が現れた。 大きな風呂敷を背負っていた老婆は、希海のパーカーで胸を隠していた小百合の前で風呂敷を広げた。

 風呂敷の中には女性用の洋服が入っていた。

だが、その洋服は何だかピンク色のドレスで袖に白いポンポンがついていたり、やたら丈の短いフリフリのスカートであったりと、とても普段着とは言えないような“悪趣味”な洋服であった……。


 「さあ、誰かに見られる前に、早くお洋服を着て!」


 希海が小百合に服を着るように(うなが)すが、小百合はこんな可愛らしい服を今まで着たことが無かったので少し戸惑(とまど)った。 だが、ハダカのままでいる訳にはいかなかったので、恥ずかしそうに(ほお)を染めながらこのフリフリのスカートとピンクのドレスを着たのであった。

 

 「あら、お似合いですよ、お嬢ちゃん」


 まるでアイドルのような姿となった小百合に、島田は梅干しのようなシワシワな口を(すぼ)めて朗らかな笑顔を見せた。 そして、小百合をベンチに座るように促すと、自分もベンチに腰を下ろした。


 「私は『島田ちえ』と申します。 そして、そこにいる貴方を助けた女の子は『篠木希海』ちゃんよ」


 島田はまず小百合に自己紹介をし、ついでに希海も紹介した。 どうせ希海の事だから、小百合に名前すら明かしていないだろうと思っていたからである……。

 希海は島田に目配せをして挨拶を促されると、小百合に向って手を差し出して「改めまして! ヨロシクね、小百合お姉ちゃん!」と元気よく挨拶をした。


「うん、改めまして! さっきは助けてくれてアリガト、希海ちゃん!」


 小百合はそう言ってニッコリ微笑んで、希海の手を握る。 希海の暖かく、柔らかな手の感触に小百合は思わず涙が出そうになった。

 希海は小百合の()せ細った悲愴(ひそう)な手を握ると、一瞬悲しげな顔を見せた。 だが、すぐに屈託の無い笑顔を小百合に向けると、小百合をベンチに座るように促した。


 ところが、小百合はベンチへ座る前に島田の前に立ち、島田に向って深々と礼を言った。


 「お聞き及びの通り、私の名前は立山小百合と申します。 この度は、見ず知らずの私を助けて頂いて有り難うございました。 そして、すぐに御礼を申し上げられなかった無礼をお詫び申し上げます」


 小百合は島田に向って丁寧にお辞儀をすると、島田は「そんな事、いいのよ。 だって、小百合ちゃんは“見ず知らず”の子ではありませんもの」と不思議な事を言って、小百合の目を丸くさせた。

 

 「まあ、そんな事より、私と希海ちゃんの間にお座りなさい」


 島田はそう言うと、小百合に向って目配せをした。 希海はすでにベンチにチョコンと座っており、島田との間に小百合が座れるように間を開けていた。


 「し、失礼します……」


 小百合は二人の間に囲まれて緊張した面持(おもも)ちでベンチに座った。




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