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復讐は自分でやりなさい  作者: ティーケー
漆黒のユリ

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28/190

差し伸べる手


 「ゴアァァァァ!!」


 窓から射し込む暖かい日差しを(さえぎ)るカーテン。 カーテンから()れる(かすか)かな光は、ベッドの上で嬌声(きょうせい)を上げる恐ろしい怪物の影を浮かび上がらせていた。

 ブヨブヨの醜い裸体を『ビク、ビク!』と痙攣(けいれん)させて満足そうに息を(おど)らす男。 無残にも男の下敷きとなって禁忌(きんき)の欲望を受け入れた娘は、歯を食いしばりながら目を(つぶ)っていた。 


 妹が亡くなり一年を過ぎても、野獣は父に戻る事は無かった。


 娘の美しい裸体には目を背けたくなるような傷が付いていた。 白い頬には大きな青アザが広がり、ふくよかな胸には痛ましい獣の歯形が付いていた。

 この頃になると、父からの暴力は激しさを増した。 父の姿をした獣は我が子を陵辱(りょうじょく)するばかりではなく、凄惨な暴行を加えて服従を求めるようになった。


 「小百合(さゆり)、お前は俺の妻だ!」

 

 実の娘に対して吐く異常な言葉。 人間としての尊厳を捨て去り、悪魔と契約した獣は、我が子を妻として背徳の服従を強要した。

 しかし、小百合は服従などしなかった。 暴行を受けている間も憎しみの宿(やど)る瞳で野獣を(にら)み付けた。 そんな“聞き分けの無い娘”に業を煮やした男は、自らの堕落を証明する恐るべき計画を思いついた。


 「小百合、お父さんはね、お前がそんなに強情なら“仲間”に頼んで言う事を聞かせる事だって出来るんだよ♡」


 異臭のする息を娘の顔に吹きかけて、凶悪な脅しをかける腐敗した亡者(もうじゃ)。 小百合はこの男が一体何を考えているのか理解出来なかった。

 (おび)えた瞳を向ける我が子の様子に、男は陰湿(いんしつ)な笑みを浮かべた。


 「お父さんが小百合を独り占めしている事が“(うらや)ましい”って、みんな言ってるんだ。 お前は皆の“アイドル”なんだって。

 お父さんも“夫として”鼻が高いよ♪」


 小百合は獣の妄言を聞くと、自分が直面するだろう恐ろしい現実を想像して戦慄(せんりつ)を覚えた。

 

 「イヤ……止めて……」


 手錠の鎖を『ジャラ、ジャラ』と鳴らしながら、男に縋り付いて懇願する小百合。 そんな娘の様子に忌まわしい野獣はますます股間を(ふく)らませて、禁断の(たくら)みを表明した。


 「10人、いや、13、14……もうすぐ来るかな? 皆で愛を分け合って、その様子を配信しようって♪ 楽しみだね、小百合♡」


 品性などはとうに無い。 外道(げどう)堕落(だらく)するだけでは飽き足らず、神に唾を吐く悪魔へと変貌(へんぼう)した父。 だが、深くて暗い堕落の陥穽(かんせい)にはまだ底があったのだ。

 もう、この男が父親でない事は分かっていた。 獣である事は分かっていた。 しかし、ここまで醜悪な悪魔であったとは……。 小百合はこんな魔物をかつて父として(した)った事を心から後悔した。


 

 (助けて……神様……)



 ――



 悪魔は一階へ降りて行き、招き入れた男達と談笑をしている。 話しが終わればすぐにでも野獣共を引き連れて二階へ上がってくるはずだ。


 小百合は床に(ひざまづ)いて祈りを捧げていた。

 

 腫れ上がった痛ましい顔は涙の筋で薄汚れている。 白く美しかった裸体は無残に痩せて、哀れなあばら骨が浮き出ている。 (うるわ)しい桃色の唇は今や紫色に変わってしまった。 小百合はその悲愴(ひそう)な唇をグッと噛みしめてただひたすら祈りを捧げていた。

 

 (神様……お願い……私の声を聞いて!)


 小百合は生まれてから一度も神に祈ったことなどなかった。 孤独と絶望、涙も涸れ果てたその瞳に宿った真っ黒い炎は、神の奇跡など信じる余地を与えなかった。

 

 ……だが、彼女は祈った。


 自分でも何故だか分からない。 何故だか分からないが、暗澹(あんたん)とした絶望の陥穽から一筋の光が見えたような気がしたからだ。


 一階からドヤドヤと階段を上がる足音が聞こえてくる……。


 我が子から人間としての尊厳を奪った父。 身体を奪い、心を奪い、妹を奪った強欲な獣は、娘から全てを奪うだけでは飽き足らず、娘の全てを壊そうとした。

 

 「小百合ちゃん♪ これから、おじさん達と楽しい事をしようね♡」


 小百合の部屋に侵入してきた10人の男達。 19歳になったばかりの若い娘を陵辱する事に胸を躍らせる人道に悖るクズ共。 見るに()えない醜悪な裸体を(さら)け出し、ペニスをそそり立たせる腐りきった獣達。 こんな野獣達が弁護士や医者など一流の地位にある者達であるとは誰が信じることが出来るだろうか?

 一人の若い女性に暴行を加えんと欲望を(たぎ)らせる者達の(ほとん)どが、その女性と同世代の息子や娘もいる妻帯者(さいたいしゃ)であるとは……。

 普段は世間に正義を語り、偉そうに自分の子供に説教でも垂れているのだろう。 (いや)しい欲望をひた隠し、邪悪な罪を犯そうとする悪魔が(かた)る正義など偽りの正義。 いくら社会的な地位が高かろうが、深い闇の底に墜ちた亡者だという事に変わりは無い。

 

 (お願い……神様……)


 小百合の願いは届かない……。 部屋のドアを塞いでいるのは黒マスクを被った卑猥(ひわい)な姿をした毛むくじゃらの男。 その周りにはむさ苦しい体臭を漂わす黒豚や、白髪の老人が猥褻(わいせつ)玩具(がんぐ)を片手に不気味な笑みを浮かべていた。

 

 (ダメ……有加利(ゆかり)……私……もう、ダメだよ……)


 全てを壊そうとする鬼畜の集団に、小百合は生きる事を諦めようとした。

 8年もの長きに亘って耐えて来た奴隷のような生活。 それも妹の笑顔があったからこそ耐えられた。 だが、もう妹は傍にはいない。 あの可愛らしい笑顔を二度と見る事が出来ない。

 

 『……絶望と孤独……』


 小百合の心に突き刺さる悲愴な感情。 今、彼女が憎しみと共に死んでしまえば、絶望と孤独が彼女を悪鬼へと変え、全ての人間を食らい尽くすであろう。

 

 (私は……この命を悪魔に捧げて、あの男を呪い殺す事を望む!)


 神に祈っても無駄だ。 復讐は悪魔に魂を売ることで成就(じょうじゅ)させる。 そう思った小百合は舌を歯でかみ切ろうと口を閉じ、目を瞑った。



 『――お姉ちゃん、生きて――!』



 小百合の脳裏に悲痛な涙を浮かべる有加利の姿が現れる。 姉の前ではいつも笑顔を浮かべていた有加利。 そんな彼女が涙を流し、姉の凶行を必死に止めようと叫んでいた。

 

 「有加利!」


 小百合の目の前に再び一筋の光が見えた! 驚いた彼女は『ハッ』と目を見開いた。

 

 だが、その光は幻影だった。


 目の前には恐ろしい野獣共が小百合の周りを取り囲み、ついに醜悪な手を伸ばして小百合の身体に触れようとした。



 「――助けて――!!」



 もう妹の涙は見たくない。 彼女は妹の為に生きようと思い直した。


 『生きて、生き抜いて、あの(おぞ)ましい怪物を必ずこの手で……』


 誰でも良い。 神だろうが、悪魔だろうが構わない。



 (お願い! 私の声、誰かに届いて!)

 


 小百合がそう強く願った、その時だった。



 『――バッカン――!!』



 一階から何かが爆発するような凄まじい衝撃音が響き渡った! 小百合に襲いかかろうとした魔物達が慌てて音がした方へ顔を向けた。


 「あっ――!? なっ……? あぁ……」


 すると、魔物達は拍子抜けした声を出したかと思うと、何故だがその場で『ドサ、ドサ』と倒れ込み、途端に(うめ)き声を上げ出した……。


 「な、何……? 何が……起こって……?」


 いつの間にか、部屋のドアが開け放たれていた。 廊下の冷たい空気が一糸纏わぬ小百合の身体を撫でる。


 「あ、貴方(あなた)……は……?」


 開け放たれた扉の前には、暴漢共を踏みつける一人の少女が立っていた。



 「もう、大丈夫!


 貴方の声、私達には届いているから!」



 ――



 力強く叫ぶ少女に、小百合の瞳から思わず涙が(あふ)れ出す。 少女は涙を流す小百合の顔を見てニッコリと微笑むと、如何(いかが)わしい仮面を被った男をわざとらしく踏み付けた。

 ネズミ色のパーカーを着た、ダボダボのミリタリーパンツを履いている少女。 顔だけ見れば天使のようだが、服装は天使のそれでは無く、天使のように慈悲深(じひぶか)くも無かった。


 「あぁ……♡」


 少女に踏みつけられてヨガリ声を上げる毛むくじゃらの変態親父(おやじ)


 「何が『あぁ……♡』よ、気持ち悪い! 汚いハダカ(さら)してんじゃないわよ、この変態ジジイ!」


 少女は忌々(いまいま)しそうに文句を言うと、仮面の男を蹴り飛ばした。 すると、男は滑るように廊下へ飛び出して一階へ転がり落ちて行った。 

 彼女は部屋の中にいる暴漢達にいちいち暴言を吐くと、次々に男達を一階へ突き落として行った。


 こうして、小百合の部屋にいた十余名の野獣共はあっという間に少女に駆除された。


 少女は一階で(うずたか)く積み上がる野獣共を見下ろして満足げな様子で(うなず)くと、再び部屋へ戻って来て呆然としている小百合の目の前に立った。

 両手足を手錠で拘束されている一糸纏(いっしまと)わぬ小百合の姿。 少女は小百合を一瞥(いちべつ)すると、おもむろに手を振り上げた。 すると、小百合は手錠で拘束されていた両手足に風を感じた。


 「――!?」 (て、手錠が……!?)


 なんと、小百合が両足に風を感じた瞬間、手錠の鎖が破壊されたのである。


 (一体、この子は……?)


 立て続けに起こる信じられない出来事に驚愕し、言葉に詰まる小百合。


 少女は目を丸くする小百合に慈愛の微笑みを浮かべた。 そして、小百合の前に小さな手を差し出して、叫んだ。



 「さあ、生きましょう! 私達と一緒に!」



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