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復讐は自分でやりなさい  作者: ティーケー
漆黒のユリ

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23/186


 今まで妹『有加利(ゆかり)』と相部屋であった小百合(さゆり)は、父から「12歳になったお祝い」という訳の分からない理由で一人部屋を与えられる事となった。

 本来であれば、妹の存在を気にせずに一人で自由に部屋を使える事は、喜ばしいはずである。

 ところが、小百合は嫌がった。 お姉ちゃん子であった有加利も、姉と別部屋になる事を嫌がった。 母はそんな二人の嫌がる様子を見て、父に向って吐き捨てるようにこう言った。


 「子供達が嫌がっているのに、アナタはいつもそうやって自分勝手に何でも決めようとするのね」


 父の顔へ鋭い視線を刺す母は、父に対する愛などとっくに何処(どこか)かへ捨ててしまったようだ。


 「いや、小百合は来年で中学生になるんだ。 そろそろ、一人で身の回りの事ができるように自立させなくちゃ行けないからな」


 父は冷たく言い放つ母に泰然とした様子で答えると、嫌がる小百合を無理矢理一人部屋へ移した。


 小百合は別に(さび)しくなんかなかった。 ただ、一人で寝ることが怖かったから、父の提案を拒否したのである。


 寝るときはいつも妹と一緒だった。 小百合はそれが何よりも幸福であり、“安心”であった。

だが、そんな安心が一人部屋になる事で(おびや)かされる……。



 「夜が……怖い……」



 明日から一人きりの夜を迎える小百合。


 (もしかしたら、闇に(まぎ)れて“(けもの)”がやって来るかも知れない……)


 小百合はそんな明日からの生活を不安に思い、胸が押し潰されそうになった。



 ――



 小百合が10歳の頃、父と母の仲に亀裂が生じた。 子供達は初め、その亀裂の原因が一体何であるか分からなかった。

 子供達からすれば、母が急に父に対して冷たく接するようになり、度々(たびたb)外出するようになったとしか思えなかった。

 母は外出しようとする度に、娘二人に真しやかな外出理由を伝えた。 そして、必ず「愛しているわ」と言って二人の(ひたい)にキスをしてから外出するのであった。


 小百合の父『政夫(まさお)』は警察官であった。 学生時代は柔道に熱を入れ、大会で優勝経験も有る程の実力者であった。 当時の彼は筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の体つきをしていたそうで、サラサラした髪を(なび)かせてキリッとした柳葉(やなぎば)のような目で微笑(ほほえ)む姿が多くの女性を(とりこ)にしたそうだ。

 ところが、今やそんなイケメンの面影など何処にも無かった。 40歳も過ぎ、50歳の声が聞こえてきた政夫は、でっぷり(ふく)れた太鼓腹(たいこばら)をさすりながら片手でビールを(あお)っているゴマ塩頭のオヤジへ変貌(へんぼう)を遂げていた。


 政夫の勤務態度はいたって真面目であった。 後輩や同僚にも(した)われており、後輩からは“マサさん”というあだ名を付けられていたらしい。

 小百合の母『美月(みずき)』との馴れ初めは、政夫がまだ交番勤務をしていた時であった。 繁華街の交番に勤務していた政夫が、深夜に友人達と遊び歩いていた美月を補導(ほどう)した事から交際が始まったそうだ。 その時政夫は33歳、美月は……なんと15歳の中学生であった。


 政夫は仕事に対する姿勢は真面目である一方、女性関係にだらしなかった。 彼は特に年下の女性が好みであった。 自分より数年若い女性が好きだと言うのなら「まあ、そういう人もいるよね」で済んだのかも知れないが、彼の場合は極端であった。 なんと、年端(としば)のいかない少女ですら異常な執着を見せるという病的な一面を持っていたのである。

 美月は政夫のそんな恐るべき内面など露知らず、16歳になると両親の(もと)から離れ、政夫と同棲するようになった。


 小百合の自宅である二階建ての一軒家は、政夫が交番勤務から警察署勤務へ異動した際に建てたものである。 この時、ちょうど小百合が生まれ、仕事の環境も変わったことから政夫が一発奮起してマイホームを購入したのであった。

 当初、立山(たてやま)一家は幸福な家族であった。 小百合が生まれて四年後には妹の有加利が生まれ、家の中から笑い声の絶えない絵に描いたような暖かい家庭であった。


 ところが、母が急に父を毛嫌いするようになってから状況が一変した。


 美月は娘二人に対しては、相変わらず優しかった。 しかし、しばしば子供達を置いて家を出ることが多くなった。 夫が自宅にいる休日なんかは、夫とは口も()かずにスマホばかりいじっている。 時々、母に甘える有加利に対して適当にあやしてやる事もあったが、まるで何かに取り付かれたかのように、終日スマホをいじっている事が(ほとん)どであった。

 政夫は、そんな美月に対して不満を漏らさなかった。 美月が料理を作らなくとも、掃除をしなくても、文句の一つも言わず書斎に()もっていたり、リビングで酒を飲みながらスマホをいじったりしていた。

 リビングの椅子(いす)に対面で座り、二人してスマホの画面を見つめながら黙々と夕食を共にする姿は、子供達のみならず誰が見ても異様な光景であった。


 ――一体何故、母はこんなにも変わってしまったのだろうか?――


 子供達は母の急変した態度に困惑した。 当初は子供ながらに様々な理由を考察したが、どれも納得の行く理由を思い付くことが出来なかった。

 ところがある日、小百合は外出した母をコッソリ尾行し、父と母が不仲になった原因を突き止めた。 この時、小百合は母による許されざる行為を目の当たりにしたのである。


 「お母さんは、若い男と浮気をしていた!」

 

 その日を(さかい)に、二人の子供は母の事を恨んだ。 そして、父に対して同情し、事ある毎に父へ寄り添うようになった。

 母はそんな娘二人を見てますます心を閉ざした。 子供達だけにはかろうじて微笑みを浮かべていた顔も、いつしか能面のような顔を向けるようになった。 浮気相手と会うために外出する時も、我が子にキスをする事が無くなった。 開き直ったように化粧を塗りたくり、むせ返るような香水の(にお)いを漂わせながら、夜の街へと消えて行ったのである。


 「私達が不幸になったのは、お母さんのせいだ!」


 幼い小百合はそう言って妹と二人で(なぐさ)め合い、母に対しての恨みを(つの)らせていった。


 ……子供達は知らなかったのだ。 母がおかしくなった根本的な原因は、父にあった事を。


 夫婦仲が急に冷め切ってしまった理由。 そもそもの原因は、政夫が浮気をしていたからであった。 しかも、未成年と……。

 その事を知った美月が夫に愛想を尽かし、自暴自棄(じぼうじき)になって自分も浮気に走ったのである。


 小百合が生まれてから今日までの間、政夫のココロを巣くっている(けもの)の欲望は幸福という光によって封じられていた。 ところが、その欲望という闇が光を侵食(しんしょく)して幸福の光を飲み込み、ついに彼を獣にした。


 こうして、獣となった政夫は()むべき獣性(じゅうせい)を我が子へ向け始めたのであった。



 ――



 小百合は父が浮気をしているなんて夢にも思っていなかった。 逆に、母が父に隠れて男と浮気している事が許せなかった。

 母が変わってしまったのは父の責任ではない。 母自らが罪深い欲望の陥穽(かんせい)に墜ちた事が原因であると、母を恨んでいたのである。


 「どうして……? どうして、お母さんは変わってしまったの?」


 もはや、かつての母はもういない。 笑顔も見せずに淡々と言葉を交わす人形のような母。

 小百合はそんな裏切り者を糾弾(きゅうだん)するべく、思いきって父に母の行状(ぎょうじょう)を告白し、父に助けて貰おうと考えた。

 小百合は父に“幸福だったあの日”を取り戻してくれる事を期待したのである。


 だが、父は彼女のそんな期待を裏切った。


 涙ながらに母の行いを訴えた11歳の娘を抱きしめた父。 娘は一瞬父の優しさに安堵(あんど)の表情を浮かべ“幸福だったあの頃”に戻れるのだと期待を寄せた。


 ところが、父が娘を抱きしめる様子は明らかにおかしかった……。 父は娘の胸をまさぐったかと思うと、今度はお尻を()で回した。 そして、ついには娘の下着の中に手を突っ込んだ。


 「――!? イヤ……お、お父さん……や……」


 次第に息を荒くする父の異常に気付いた小百合は、慌てて父から離れようとした。 しかし、大人の力に押さえつけられた小百合は離れることが出来ない……。

 そして、彼女が父の顔に目を遣った瞬間、彼女の唇に(おぞ)ましい感触が伝わってきた。


 「イヤ、止めて――!! 助けて、お母さん――!!」


 父と重ねた唇を外し、必死に父から逃れた小百合。 先ほどまで恨んでいた母に必死に助けを求めるが、家には父と小百合しかいなかった……。


 (どうして……? どうして、お父さんがこんな酷い事を……?


 分からない! 私が何をしたっていうの!?


 お、お父さんが……きっと、誰かがお父さんを操って……?)


 混乱する小百合は家を出ようと玄関へ向かって走り出す。 ところが、腰が抜けて満足に走ることが出来ず、リビングの絨毯(じゅうたん)に足を取られて転倒してしまった。

 哀れな娘は四つん()いになりながら、必死になって玄関へ向かう。 しかし、無情にも彼女の足は毛むくじゃらの腕に(つか)まれた。


 「ひっ――!!」


 冷たい手の感触が足に伝わると、小百合は思わず悲鳴を上げた。 そして、恐怖に(おび)えた眼差(まなざ)しで後ろを振り向いた。


 「……えっ……? だっ……誰……?」


 小百合は言葉を詰まらせた。 恐怖に(ゆが)んだ彼女の瞳が見た光景……。 それはもう、この世のものでは無い程に、醜悪(しゅうあく)で恐ろしい光景であった。


 

 『実の娘に発情し、ペニスをそそり立たせる獣の姿』



 そこにはもう、小百合の愛した父の姿は無かった。



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