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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

パーティに前衛が多すぎる

作者: もりー
掲載日:2024/11/04

 ここはとある町の酒場、ルイーダの酒場とかそんな大層な名前はない。ただの酒場。冒険者どもが真昼間から酒を飲んではふとしたことで殴り合いに発展するところを、笑いながらどちらが勝つか賭ける。 

 そんな酒場が賑わっているところに、苦虫を嚙み潰したような顔の勇者ヒロが来店した。夕日が傾いて夕焼けが綺麗な時間帯のことだ。


 勇者とは言っても、この世界にいる勇者に特別な力があるわけではない。もちろんキーブレードが扱えるとかそんなこともない。じゃあ勇者って何かというと、言ってしまえば只の肩書だ。神に選ばれたら勇者だし、選ばれなかったら勇者ではない。ただそれだけのものだ。


 ここだけ見ればある日女神から「あなたは勇者です」と言われるだけだと思うだろう。それは間違っていないのだが、間違っているともいえる。選ばれるだけのことももちろんあるが、選ばれるだけでない時もある。

 前置きが長くなったため、後者の具体例については省略する。




 来店したヒロにおっさんが話しかける。

「らっしゃい、その辺にかけて」

 ホールのおっさんに言われるがまま一番近くの12番と書かれている円卓に座ると水を持ってきてくれた。おっさんは紙とペンを取り出すとヒロに尋ねた。


「見る限りまだ酒は微妙だな。とりあえず水となんかつまみ持ってくるから、ダメな奴はあるか」


「乾物がいいかなぁ…」


「…とりあえず水と乾物ね」


「あ、水をもう3人分追加で」


 おっさんは頷きキッチンの方に戻った。


 ヒロはパーティの面接的なものを始めようとしていた。具体的な質問はどんなものかというと、職はなにか、パーティに入ったら何をしたいかみたいなことを聞いて、いいなと思ったら加入してもらうみたいな流れである。今回の募集で来たのは3人。事前情報などはほぼなく、あるのは掲示板に貼った掲示物に書かれていたサインのみだ。名前はナイト、メイジ、シスだ。


 顔合わせにもかかわらずヒロがさっぱりしていない訳ももちろんある。

 そう、先ほど省略したあれ、選ばれるだけではない場合がヒロに降りかかったのだ。具体的に言うと、女神からの使命がついてくることがあるのだ。




 話は昨日の夜に遡る。



 ヒロがベッドに入ってうとうとしていると、突然宿屋の部屋の中が明るくなった。強い光を発している玉がいきなり部屋に出現して周囲をものすごく明るく照らす。なんだなんだと動揺しながらも枕元にある剣を手に取って戦闘態勢にはいったヒロ。直視できないくらいの光が収まったと思ったら女神らしき人物が胡坐をかいて座っている。


「貴方は魔王討伐を目指してください」


「…? 魔王討伐? 僕が?」


「はい、では頑張ってください」


「いやいやいや、もっと順序だてて説明してくださいよ。結構混乱してるんですよこれでも」


「貴方は勇者として魔王討伐に選ばれました」


「さっきとほとんど変わってない…」


 そんなことは知らないとばかりに女神(?)は元居た場所に帰ろうと窓を開けようとする。建付けが悪いらしく開けるのに苦労している。


「いや待ってくださいよ、なんで僕が討伐しなくちゃいけないのかとか、女神からの加護とか特殊能力とかないんですか?」


「貴方が選ばれた理由ですか。簡単です、女神くじで偶然あなたの名前が出たからです。それと、女神の加護や能力なんてものもありません、信じられるのは己の肉体のみです。あ、そうそう。回復術を使える人を1人くらいは入れておいた方が後々楽になりますよ」


 そう早口で僕に言うと、残酷な女神は宿屋の窓辺から飛び立つと夜空の彼方へ消えてしまった。迸る熱いパトスがあるのはこっちだよ。


「…これからどうすればいいんだよ。とりあえず僕一人じゃ絶対無理だからパーティ募集して、魔王のいるところを他の勇者に聞けば…そもそも他の勇者を知らないよ…。あの女神に名簿くらい貰っておけばよかった…どうすりゃいいんだ…」

 その晩ヒロは眠れなかった。




 そんなことをヒロが振り返っていたらおっさんが戻ってきた。水4杯と乾物盛り合わせを手に持っている。ジャーキーとあたりめとチーズ。

 ぼーっとしながらジャーキーに手を伸ばした瞬間、酒場のドアが開いて3人組が入ってきた。こちらの方を見ると大げさに手を振ってくる如何にも魔導士ですという女性…いや体の大きさ的には少女と言ったほうが正しいかもしれない。が後ろの2人を引き連れてやってきた。



「酒場の12番卓だからここよね。貴方がパーティ募集をしたヒロ? あたしは魔法使いのメイジ。こっちの甲冑はナイト、こっちのシスター服がシスよ。まあ適当に座るわね」

 メイジが二人に座るよう促す。3人が座ったのを確認してヒロが話し出す。


「まず最初に、俺のパーティー募集に来てくれてありがとう。顔合わせをしたくてこんなところに呼び出して申し訳ない。皆近距離戦闘しかできないとかになったら大変だからバランスよくしたいと思ってこういうことをやってるんだ。三人は顔なじみだったり?」


「同じ時間帯で酒場の前にいたから目的が同じだろうということで、外で軽く自己紹介したくらいね」

 メイジが答える。二人も頷いているから恐らくそういうことだろう。


「…というわけだ。俺の名はナイト。甲冑着てるからわかると思うが戦士だ。騎士団の所属経験があってそこで衛生兵をやっていた。衛生兵といっても戦闘訓練はしていたから前線での戦闘は任せろ!」


「どうも、シスです。僧侶やってます。神につかえる身として精いっぱい頑張ります」


「さっきも言ったけど、あたしがメイジ。魔法使いよ。杖は使わないで腰の魔導書を使って戦うわ。属性はオールマイティ、地水火風なら一通りこなせるわよ」


「みんな丁寧にありがとう。僕は勇者のヒロだ。勇者っていっても今のところ特殊なことができるわけじゃないから、近距離戦闘が主になるのかな。旅で魔術とかを覚えられたらそういうこともやってパーティの要になれるような存在になりたいと思ってるよ」


 続けてヒロが話す。

「それでなんだけど、旅でやりたいこととかここに行きたいとか、目標みたいなのとかあるかな。僕の都合だけで振り回すわけにはいかないから聞いておきたいんだ」


「そうだなあ、俺は武者修行が主だな。あとは自分の店を持ちたいくらいか。料理が趣味だからそれを活かすってなったら店を出すしかないだろ?色んな店のご飯を食べれたら直良しって感じだな」


「私はそうですね、この町から出たことがないので色々な街を見て回りたいです。一生を終え、神のもとへ向かうその日まで過ごす場所を見つけに行きたいです。安住の地探しです」


「あたしはとある魔導士の弟子だったんだけど、辞めさせられちゃって。日銭を稼ぐのも最近厳しくなってきたからここで結果を出して師匠を見返してやりたいの。それで、ヒロは何をするの?」


「僕は…倒したい人がいるんだ。その人が今どこにいるのかはわからない。でも旅先で情報収集しながらその人を見つけて倒す。これが僕の旅の目標だよ」


「ほう、倒したい人か。まあ細かいことはいずれ分かるだろう」


「じゃあ勇者パーティ結成記念ということで、お酒飲みましょ!」


「ちみっこいのにお酒飲めるんですね…」


「なんか言った?」


「いいえ何も」







 ヒロの目が覚めるとあまり見慣れない天井が目の前に広がっていた。陽が差し込んでいなく辺りも暗いので恐らくまだ外は真っ暗だが、いつ宿に入ったのかを思い出そうとしても、頭にもやがかかっておりあまり思い出せない。

 ふと隣を見るとメイジがよだれを垂らして眠っている。寝言でエクスプロージョンとか叫ばないでほしい。

 隣のベッドではシスが縮こまって寝ており、ナイトは部屋の中にはいなかった。


 ヒロはメイジを起こさないようにそっと起き上がり宿屋のロビーに降りるとナイトがカウンターに座っていた。カウンターにはワインが入っている開封済みボトルとグラスとつまみが入っていたであろう白い皿が置かれていた。


「おはよう、お酒もぬけて体調もぼちぼちと言ったところかな。それと、宿を取ってもらったみたいでありがとう」


「気にすんな、メイジしか酒癖悪くなかったから大丈夫だ」


 昨日の話を纏めると、30分くらいで出来上がったメイジが絡み酒をするようになり、嫌な気配を感じたナイトが少し席を外して宿を取りに東奔西走したそう。空いているところにナイト以外の3人を押し込んで自分は宿屋のバーで飲みなおしていたというそうだ。これからはメイジにはお酒は与えないようにしないとなと決心したヒロ。


 ヒロはカウンターの中に入ると棚からグラスを出し水を注いでナイトの隣に腰かけてちびちびと飲みだした。するとナイトから昨日の話を掘り返された。


「倒したい人って誰だ?」


「…魔王」


「ほう、面白い。ということは俺らも魔王討伐に加担しなくちゃいけないわけか」


「いや、別に途中離脱してもらっても構わないけど。あくまで僕が女神に選ばれたわけだから…」


「水臭えなぁ…最後まで付き合うぞ!…とは言っても俺はな。他がどうなのかはよくわからん。最悪俺らで倒しに行くぞ!」

 

「ナイト…ありがとう!」


 そんな話をしていたら夜が明けてきて上の階で物音がし始めた。冒険者たちは大体この時間に起床するのだろう


 メイジとシスも起きて下に降りてきた。メイジは寝癖が凄いし酒臭い。シスはボーっとしている。そんな二人にみかねたのかナイトは二人を肩に担ぐと井戸に向かった。


 ヒロが温くなった水をボケーっと飲んでいると3人が戻ってきた。メイジはさっぱりしていい気持ちになったのかすがすがしいほどの笑顔、シスはお祈り貯めをするために湯浴みに向かい、ナイトは若干青ざめている。あまり触れないほうが良さげと判断したのかヒロはナイトに何も聞かなかった。




 皆の準備が終わるころにはもう既に昼だった。宿の延長を済ませると、ここからは必要なものの買い出しへ向かう。メイジは魔導書への魔力注入や魔道具の購入。魔法装具なるものも見たいと言っていた。

 シスは一日中お祈り貯めをするらしいので、必要なものをピックアップしてもらいそれをともに行動するヒロとナイトで購入する流れにした。欲しいものは薬草とグミと飴とポーションと傷薬。これらは雑貨屋で揃うからひとまずナイトやヒロの装備品を整える。




「さて、装備でも見ようと思うんだけど、ナイトは甲冑着てるし、背中に大剣もあるからいらないかな?」


「せっかくだから見ていこう。お眼鏡があったら是非購入したい。ヒロも一応腰に剣があるが、それじゃ不満なのか?」


「これは家の倉庫から引っ張り出してきたなまくらだから、戦闘には不向きだと思って。でも戦えなくはないから今回は防具を見ようと思う。腰巻とか、チェインメイルとか靴とか」


「わかった。俺は一応戦闘経験者だから丁度良く装備できそうなものを見繕っておこう。資金はどのくらいだ?」


「3000ライルくらいかな」


「心もとないが、わかった。探しておこう」




 装備屋に入ると威勢のいいおっさんが出迎えてくれた。ここでは武器防具以外にも調理器具なんかの制作も行っているらしく、鍋やおたまなどもぶら下がっている。


 ヒロが安売りの片手剣を眺めていると隣にいたナイトが興奮したようにしゃべりだした。

「これは素晴らしい鍋だ! この持った時の重厚感と手にフィットするこの取っ手、間違いない、こいつが俺を呼んでいる! 鉄鍋はメンテナンスが多少面倒だが、買い切りで壊れる心配がないからお得なんだ!」


「お、兄ちゃんそれがいいものだとわかるなんて大した眼だね。どうだい、こっちの応急手当グッズ詰め合わせもつけて3000ライルにまけとくよ」


「買います!」




 結局ナイトが3000ライル使ってしまったせいでヒロの装備は買うことができなかった。そのことを店に出てから伝えるとナイトはその場に崩れ落ちてしまった。


「ああ…またやってしまった…お得やまけとくとかそういった言葉に弱くて…すまない…。でもこれからの食事の準備は任せてくれ。毎日出来立てで栄養もしっかり考えられた献立にしよう。健康は良質な食事からだからな」


「そういうことなら…まあ。うん。」




 このあと雑貨屋によって頼まれていたものを一通り買っていたらもう夜になってしまった。落ち合う場所は勿論昨日の宿屋だ。




 宿屋の前に戻るとシスが立っていた。だが別人かと思うくらいには雰囲気が違う。神聖というよりは、どちらかというと邪悪、怨霊、邪神が近い。ナイトも不穏な気配を感じ取ったのが顔を見ればわかる。兜であんまり見えないが。


 シスは戻ってきたヒロたちに気づいたところでさっきまでの気配は消えて昨日までのシスに戻った。修道服の袖の隙間からシスの右腕が少しヒロから見えたが、入れ墨らしきものがちらっと見えた。


 少し遅れてメイジが戻ってきたが、腕にガントレットを装備していた。靴も昨日のものとは変えたらしい。


「魔法装具を見ていたんだけど、これらが凄く良くってつい買っちゃった。でねでね、ガントレットの甲に穴があるでしょ?そこに水の魔石を入れて魔力を手に込めると…ほら、水が出てきた。こんな感じで魔石さえあればその属性を基とした物体を出せるんだ。勿論これは攻撃にも転用できるから安心してね」


「いいんじゃないですかね、旅が楽になると思います。ご飯はナイトが用意してくれるらしいので炊事の時とかに丁度よさそうですね」


「おう、調味料もそろえておいたから現地で食料を調達すれば美味しい料理を提供しよう!」


「では部屋に戻りましょう。今夜こそは神に祈りを捧げます」






 気が付いたら部屋の床で眠っていた。時刻は8時半。

 あの後シスが「持ち運びできる祭壇を作りますので手伝ってください」と言い出したのでパーティメンバーのためだと思い全員で制作に取り掛かった。

 すぐに終わるだろうと思っていたので二つ返事で返してしまったのが運の尽き、湯浴みが終わってさあ寝るぞというところで言い出すのだ。

 シスが設計図の3枚目を取り出したところで雰囲気が怪しくなった。

 ところどころに細かい飾りが必要らしく、果たしてこれらは必要なのかを聞いたら「不必要なものはありません」と返ってくる。


 開始2時間くらいでメイジが寝ると言い出したので、ヒロはメイジに割り当てられていた部分も引き受ける。細かいことは得意ではないらしいヒロは悪戦苦闘しながらも着々と装飾を作り上げていく。


 そのまた2時間後、ナイトから返事がなくなったと思ったらさっきまで作っていたものを全部なぎ倒して気絶してしまった。幸い細かい装飾はほかの場所によけてあったため損害は思ったほどひどくはなかったのが救いか。ヒロは壊れてしまった部分も再度作り直しておく。


 そんなこんなで祭壇は完成した。その瞬間シスはぶっ倒れてしまったが、朝日が差し込む部屋で完成した祭壇はひと際輝いていた。終わった時刻は午前の5時30分。シスをベッドに運んで部屋の片づけをしたらもう6時半、バタバタしだす時間にもかかわらずヒロは床に倒れた。


 2時間程眠ったあと、シスにチェックアウトの時間だとまくしたてられ急いで準備をするヒロ。彼が一番激務をこなしている。




 皆の準備が整い次第、チェックアウトし、朝ごはんを食べつつ西門へ向かう。食べたものはサンドイッチ、特に美味しいわけではない。パンはもそもそ肉はしょっぱい、野菜はべちゃべちゃ調味料なんてものは存在すら怪しい。


「ひとまず、どんな感じで戦うのかを見たいから魔物との戦闘を多めにこなしてみたいんだけどいいかな?」


「もちろん。昨日買った装具の力も試してみたいから」


「おう、やってやろう!」


「はい、頑張ります」






 門を出て歩くこと20分程、そよ風が吹く草原で魔物とエンカウントした。相手は狼2匹。少し速いくらいで特に苦戦するような相手ではないが…


「よし、勇者である僕と戦士のナイトがタンクをするから後ろから援護してくれ!」


 そう言うとヒロは前に出ようとしたが、シスに腕で静止された。

「その必要はありません、何故なら神の行く手を阻む愚か者に天罰を下す必要があるから。見ていてください」


 シスが右手袋を脱ぐと魔法陣のような刺青がされていた。右手を空に掲げるとそれまであまり見えなかった腕にびっしりと施されている刺青も紫色に光り、右手が禍々しい悪魔のような巨大な手に変貌した。

 呆然としているヒロのことなんざという勢いでシスは狼に向かって挑発する。

「同時にきなさい」


 狼のうち1匹は噛み殺そうとシスにとびかかる。だがシスはその巨大化した右手でとびかかってくる狼の半身をを握り潰した。鮮血が飛び散りシスが血まみれになる。


「…すっごいスプラッター」


「やべえって…」


「私でも消し飛ばすくらいよ…」


「それはそれでどうなの…?」


 残った狼が逃げようとして背を向けた瞬間、シスの脚が紫色に軽く光った。次の瞬間その場からいなくなったかと思うと、既に逃げ出した狼の前まで回り込んでいた。シスはそのままの勢いで体当たりしてくる狼の頭を蹴り飛ばした。勿論破裂して辺り一面血の海になってしまった。


 あっけなく瞬殺された魔物だったものを見ながら呆然と立ち尽くしているヒロがシスに尋ねる。

「…僧侶ですよね?」


「はい。僧侶です。ですが私は回復術にあまり適性がないのです。代わりに私はカムイと呼ばれる術で神を自分の体に憑依して戦います」


「バリバリ近距離戦闘じゃないですか…僧侶って何なんですかね」


「極めると神の力ではなく神そのものを呼び出せるので頭数増やせます」


「ちなみにそれは…」


「基本武装は剣とか長刀になるかと」


「やっぱり近距離だった…」


 ヒロは頭を抱えた。一番近距離戦闘と縁がない僧侶がバリバリ近距離戦闘をしかけている、その時点でもうお腹いっぱいなのに、回復術に適性がないと言い出すのだ。頭も抱えたくなる。


 そんなことを話していると、騒ぎを聞きつけた魔物たちが寄ってきてしまい囲まれてしまった。狼1匹と化け蜘蛛とクラゲ2匹ずつだ。


「退路がない…やばいな…シスはメイジを守って俺たちで退路を作ろう!」


「その必要はないわよ」

 そう言うとメイジはガントレットに水の魔石をセットして狼に向かって走り出す。

「覇ッ!」

 次の瞬間、メイジの両手の指からは水の刃が生成され、その水で出来た爪で狼を攻撃した。

 水に触れた部分は一瞬にして切断され、狼だったものはさいころステーキになってしまった。

 向かってくる蜘蛛たちの攻撃をかわしながら、下がって体制を整える。土の魔石をはめたブーツのつま先で地面を蹴るとその部分が隆起した。頂上からジャンプして飛び蹴りの体制を取り、靴底に生成した土の針でまずは1体。土の針を根元から折った後もう一体の蜘蛛まで跳躍し、そのまま踵落としで2体。残ったクラゲは悪いスライムじゃないとか言っていたが、火の魔石で爆散させていた。


「近距離…」


「こんな感じかな。大型だとこんな簡単にはいかないと思うけど」


「ちょっと待って、ナイトは…?」


「いや、普通に剣つかうけど…」


「そうだよね! みんな近距離戦闘だよね! 知ってた!」


 ここでヒロは一つの疑問が生じる。

「誰が回復魔法使えるの?」


「回復魔法は恐らく今のところ誰もつかえないわね、でも大丈夫じゃないかしら。圧倒的な攻撃の前では回復なんて必要ないわ」


 ものすごく頭が悪い発言をしたメイジ。

 ヒロが一昨日の自分をこれほどまで恨んだことはなかっただろう。

 ヒロの目の前は真っ暗になった。




 どれ程絶望していただろうか、辺りもすっかり暗くなってしまった。

 正直回復術を使う人間がいない状態での旅など考えていなかった。あの無責任な女神にも「回復術を使える人を最低でも1人入れないとすぐ全滅する」などと言われたのだ。昨日の昼行った情報収集でも回復術は絶対必要だと皆が口を揃えて言っていた。




「おーい、テントの設営できたぞ…ってまだうじうじしてたのか。別にいいじゃねえか、当たらなければどうということはないだろ?」

 今日の食材の調達を終えたナイトが戻ってきた。左手には仕留めたウサギがある。


「いや、わかってるよ。でも万が一のことを考えたらさ、どうしてもね」


「まあわからんでもないさ、そんなことより飯だ。なっちまったもんはしゃーない。5人目を入れるとなったら面倒だ。主に書類関係だけどな」



 ウサギの皮を尻付近と首付近以外剥いで内臓を取った後、中に香辛料や芋を詰めて尻と首に空いた穴を、鋭くした棒と皮で穴をふさぎ、即席の窯で丸焼きにし始めた

 焼いている最中にメイジを呼んできたナイトは、メイジに剥いだウサギの皮の表面を炙ってもらって毛の除去をした後、鍋で湯を沸かし皮を入れてウサギだしを取った。切った山菜を入れて少し煮ればウサギだし香る山菜スープも完成した。



 焚き火を囲って皆が座り、神への祈りをささげた。

 何となく話を切り出しづらそうなヒロを思ってナイトが代わりに話を切り出す。


「…まあ、今日の初めての実践だったわけだけど…正直俺もびっくりさ、普通のパーティではないからな。傍から見たら皆で殴ればすぐに済むみたいな脳筋集団だからな。だからここで皆のできることできないことを話しあって今後の連携に役立てていきたいんだがいいか?」


 少し思うところがあるのか、シスが少し暗い感じで話す。

「そうですね、回復を挟みながら相手の体力を削いでいくという戦闘ができません。ですので被弾を極力避けた戦闘方法にする必要があります。ちなみに私のスキルは神の憑依ですので発動中は再生能力が常人の5倍から10倍ほどになります。ですので私は多少のダメージを受けても問題はありません」


 メイジも続いて発言する。

「貴女神の憑依ができても生身はそこまで強くないでしょう? 常時ならともかくあんまり被弾するべきではないわ」


 ヒロが重い口を開ける。

「…だとすると、数を相手するときは僕とナイトで敵の数を減らしつつ、取り逃した奴をメイジとシスに処理してもらうって形になる…かもしれない。とにかく被弾していいのはナイトと僕だけなのは変わらないと思う」


 そんなこんなで話し合って各々できることをピックアップすると以下のようになった。


 ヒロ

 近距離が主ではあるが、術での間接攻撃も恐らく可能。だが現時点では期待できない。

 全体的な平均値が高めでどこのポジションもこなせる。

 だが回復はアイテムに頼る。


 ナイト

 大剣での殲滅と防御はピカイチ、だが機動性はあまりない。

 骨折までなら応急処置で対応可能。今のところ唯一のヒーラー。

 いざとなったらナイトを壁に逃げることも視野。


 シス

 カムイにより高い殲滅力と圧倒的な身体再生能力を一時的に獲得可能、だがクールタイムと精神的な疲労がある。

 クールタイム中は動けないわけではないが、大きく身体能力は低下する。誰かのカバーは必須。

 回復術は期待できない。


 メイジ

 ずば抜けた身体能力と魔石による攻撃力が特徴、だが防御力は皆無。

 魔石を抜きにしても身体能力で多少はカバーできるが、長期戦は困難。

 魔石は店舗購入だから金銭は必須。

 回復術の適性は皆無。




 紙に纏めるとヒロは顔を上げて言った。

「ひとまずはこんな感じかな、これを見る限り最前線はナイトがやるべきだと思う。メイジは今のところ基本魔石使用無しの純粋な格闘を、連戦にならないよう僕のカバーを挟みつつ殲滅してもらうのが基本戦術になると思う。僕が対処できない場合は魔石を使っての対処になるかもしれないけどその時はその時かな」


 唯一言及されていないシスが当然の疑問を投げる

「じゃあ私は…どこの位置がいいのでしょう」


 ヒロが答える

「僕が思うに、シスの攻撃力はメイジの最高火力よりも上。でもその代わり攻撃力と身体能力の殆どがカムイ頼み。そのカムイも連続使用はかなり負担になるから敵側の増援が来られるとシスが動けなくなって僕たちはシスを守りながら戦わなくちゃいけない。だから基本は僕たちで対処して、いざというときにカムイを発動して殲滅。っていうのが主な立ち回りになると思う」

 ナイトが補足する。

「あとは状況確認とかだな。戦ってると目の前の敵に集中する関係上周りの状況確認まで頭が回らないんだ。敵の増援とか、敵の不意打ちとかそういったものを遠くから教えてくれるだけでも最前線は助かる」


「なるほど。纏めると、基本は状況確認と手負いの処理、強敵はカムイで殲滅ですね。となるとナイフあたりが欲しいので隣町に着いたら買いましょう」


「なんでもいいなら俺のダガーでも渡そうか?」


「あ、いただきます」


「戦闘方針も決まったことだし、ヒロ。そろそろ言う時が来たぞ」


「…実は僕、魔王討伐に女神から選ばれちゃったんだ。だからパーティ募集なんかをしたわけだけど、ナイトはついてきてくれるらしいんだけど二人はどうなのかなって」


「私たちが何のために勇者パーティに入ったのかわかってなかったのね、魔王でも大魔法使いでも神でも悪魔でも、私たちの前に立ちふさがるなら全てぶっ倒すわよ」


「ええ、そのために来ました。これは神の信託ではありません。私の意志です」


「二人とも…ありがとう…」


「お、いい感じにまとまったな。じゃあ気を取り直してご飯を…ってご飯さめちゃったなあ…。皆多分まだ手つけてないだろ? 戻してあっためるからさ」


「あ、私もう食べちゃいました。美味しかったので」


「シス…」





 紆余曲折あり魔王城の目の前まで時は進む



「ついにここまで来たぞ魔王!」


「一時はどうなることかと思ったよ、回復がいない旅は金輪際やりたくないね」


「ヒロさん以外重傷を負った時は死を覚悟致しました」


「あの時はなあ…シスとメイジは二人とも肩に担がれて、俺は鎧や荷物全部捨てて逃げたんだもんな…」


「そのあと偶然通りかかった商人の荷台に乗せてもらって、最寄りの街まで乗せてもらったっけ。」


「っと。そろそろ思い出に浸るのはやめようぜ。まだ最後の仕事が残ってる。」


「ああ、よし皆! 行くぞ!」


「おう!」


「うん!」


「はい!」


閲覧頂きありがとうございます。拙い文章でしたが楽しんでいただけたなら幸いです。

書こうと思ったきっかけは友人が回復縛りでゲームをしていたからですね、何をやっていたのかはまあまあ前のことなので忘れてしまいましたが、よくやるなぁと思ったのは覚えています。

んでふと思ったわけです、魔王討伐で回復術を縛ったらやばない?と。ドラクエで言うと戦士魔法武闘盗賊とかそんな構成だったら結構頭おかしいのでは?と


とまあこんな経緯がありまして今回なろうに投稿させていただきました。誤字脱字ありましたら目をつぶってください。

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