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月夜譚 【No.201~No.300】

ドラゴンの幸せ 【月夜譚No.289】

作者: 夏月七葉

 まさかドラゴンに転生するとは思わなかった。

 前世の世界ではドラゴンは架空の生き物で、ゲームや漫画の中にしかいない存在だった。斯くいう私もファンタジーが大好きで、いつかあの大きな背中に乗ってみたいと夢に見たものである。

 それがよもや自分がドラゴンになるなど、誰が想像できただろうか。

 晴れた青空を自由に飛行するのは楽しいし、生活圏に住む生き物達の上位に当たるので天敵がおらず、基本快適に過ごせている。

 それなりに今世の生を謳歌しているが、難点もあった。

 一つは、数年に一度、人間が私を捕らえに来ることだ。希少なドラゴンの鱗や牙は相当高値で売れるらしい。そんな理由で狩られるなんて、まっぴらごめんだ。その度にドラゴンとしての力を発揮して追い返しているので被害は最小限だが、正直相手をするのは面倒臭い。

 もう一つは、仲間がいないことである。どうやらドラゴンは個体数が少ないらしく、少なくとも私は他のドラゴンと出会った試しがない。卵から孵った時に親は近くにいなかったし、きょうだいもいたかどうかすら判らない。他の動物達は怖がって近寄ってこないので、基本独りで過ごしている。

 淋しいという気持ちは、いつか慣れると思っていた。けれど、いつまで経っても慣れることはなかった。ドラゴンの寿命が何年あるのか知らないから、これがいつまで続くか判らない。

「やあ、こんにちは」

 しかしある日、私の前に一人の青年が現れた。彼は他の人間と違って敵意がなく、無防備に手を挙げて挨拶なんかしてくる。

 何をしにここへ来たのかは判らない。けれど青年はニコニコ笑いながら、私を見上げて言った。

「良かったら、僕と一緒に来ないかい?」

 その言葉を私は待っていた気がした。自分が世界に対してどんな存在かなんとなく解っていたから、そんなことを言ってくれる者はいないと思っていた。

 青年が差し出した掌に軽く爪の先を載せると、彼は優しく握り返してくれた。それはとても温かくて、生まれて初めて幸せだと感じる瞬間だった。

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