空っぽ王子と女狐
むかし、むかし、ある王国ので身分違いの恋がありました。
王子とそのたった一人の使用人の恋でした。
病弱なことが理由で、誰からも見放され城の奥に閉じ込められた年十歳の王子。
実家の高い身分になりたいという欲の争いである継承権争いから逃れるために、病弱王子の使用人を志願した年十五歳の男の使用人。
寝込んでいる時以外は朗らかで前向きな王子と、真面目で素直な使用人は惹かれ合いました。
王子はどんな些細なことでもお礼を言い、時に手伝おうとしてくれる。手伝わせると自分も役に立てたい喜んでくれる。
今までの使用人と違い、病弱な自分に嫌な顔ひとつせず、ひとつひとつ細かく丁寧に仕事をして、一緒に仕事をしたいというと手伝わせてくれる。
使用人と同じように丁寧に掃除をすれば、頭を撫でて褒めてくれる。
風邪にかかりやすく人の接触を避けられていた王子には使用人が頭を撫でる手はとても温かく感じました。
王子が元気な時、一日の使用人の仕事がなくなれば、使用人は教師になりました。
城の人たちは病弱王子に魔法などの勉強を教えることを嫌がりました。自分がもし風邪などを引いていた時、王子にうつして、王子がもし死んでしまうと、それは王族を殺したなどと騒がれてしまうかも知れなかったからです。
高い身分で知識のある人だった使用人は教師を兼任することを条件に使用人をしていました。
使用人は力持ちが得意でしたが、それ以外もできたので、王子にたくさん魔法を教えることができました。
一日の教師の仕事がなくなれば、使用人と王子は友達になりました。
使用人が選んだり、王子が望んだ本の感想などを話したり、ボードゲームをしたり、ごっこ遊びなどをしていました。
そうして、5年の月日が流れました。
病弱王子は使用人の食事とごっこのお陰で風邪知らずの健康的な青年になっていました。
ですが、表向きは病弱な王子のふりをしていました。
使用人以外の前では猫背で白を通り越して、血色が悪く見えるように化粧をしていました。
それは、使用人に継承権争いの恐ろしさを教わっていたからです。
王子には、お母さんがそれぞれ違う兄が三人います。
王子が病弱で一人だったのは継承権争いが原因であることも使用人から教わりました。
だから、病気のふりや大事な式典が終われば、気絶するふりをして、使用人に抱えてもらいながら、会場を後にするなどしていました。
猫背推していても大柄な王子を小柄な使用人に抱えられて、退場する姿から、王子は病弱王子から中身のない空っぽ王子と言われるようになりました。
そのせいで、王子には婚約者はいませんでした。
それでも構わず、王子は何もなければ使用人と一緒に、城に居座り続けようと思っていました。
しかし、使用人が逃げたはず継承権争いに巻き込まれました。
「性別を男と偽り、家を乗っ取ろうとし、それがダメだとわかれば、今度は女で王子を籠絡しようと考えたのか、この女狐」
ある式典が終わり、いつものように気絶したふりをして、使用人に抱えてもらっている最中、そんな言葉を王子は拾いました。
式典の後、どこか魂が抜けた様子の使用人に、王子は優しく問いかけました。
すると使用人は説明してくれました。
使用人は権力に執着した母親によって、呪われて男の人として育てられた女の人でした。
ですが、継承権争いの序盤で母親が使用人の受けた別の呪いを肩替わりして死んでしまいました。
母親が死んだことにより、継承権争いに参加することができなくなった。
残る道は、よくて平民落ち、悪くて暗殺。
藁にもすがる思いで、王子の使用人を申し込んだこと。
母親の死後、泣いたり、強い感情を持つことで呪いが解けることはあったが、完全には解けることがなかったことで男の姿をやめることはできなかったのです。使用人は泣きながら説明しました。
その間、使用人は小柄な細身の青年の姿から、少し痩せ気味の女性の姿に変わりました。
王子は使用人を泣き止むまで抱きしめました。
泣き止んで、呼吸が落ち着いたと思ったら、使用人は王子に抱きしめられたまま、眠っていました。
王子はそっと、王子のベッドの隣にある使用人のベッドに使用人を寝かせました。
眠った使用人の姿は女性でした。
いつも王子より早く起きて遅くて寝ていたので、王子は使用人が女性であることを知らなかったのです。
使用人は、目を覚ますと、王子は慌ただしくしていました。
「呪い解けた」
王子がそう言って、手鏡を使用人に渡す。
鏡に映った姿は、青年の姿ではなく女性の姿だった。
「昔読んだ童話で、キスは呪いを解くことが多い、だから、寝ている君のおでこに軽くキスをしたんだ」
王子は後ろめたくしている。
「わたくしめの呪いを解いてくださりありがとうございます。王子様」
使用人は明るい声で言った。
「勝手にキスして申し訳ない、責任は取る。結婚しよう」
王子はそう言って、旅行ごっこの時に使ったカバンを取り出していろんなものを小さくして詰め込んでいた。
使用人は驚きつつ、なぜ旅行カバンを出したのか聞きました。
すると王子は、今から自分達の住む離れが壊れるほどの魔法事故で死んだことにして駆け落ちすると言いました。
状況を飲み込めないまま、使用人は小さくされて、どこかの旅人の服装に着替えた王子の胸ポケットに入れられていました。
こうして王子は、大切なものを胸ポケットにしまって、国から逃げました。
使用人が混乱して、気を失って起きたら、隣国のそのまた海を超えた国まで移動していました。
そうして、本当の姿に戻った使用人と元王子は、そこで平民の夫婦として暮らしました。
時に喧嘩したりしつつも普通の平民として一生を終えました。
めでたし、めでたし。
しかし、実は使用人は海を超えた国の王族の血を引いていた。
その結果、疫病で親族亡くして、ひとりぼっちになった子孫が神殿に拾われ、血液検査で王族の血を引くことが判明したりする。
その後子孫が狐を助けて、家族ができることになったのでこっちも、めでたしめでたし。