指先に永遠の愛を宿す
「せっちゃんがネイルしてるのなんて初めてじゃね?」
下品に剥げたナツキの指先が触れた。僅かに表面が削れる音が肌から侵食していく。
反射的に払いのけたいを堪え、自然を装いながら紅く飾った爪を引き寄せた。
「ずっと前からしてみたかったんだけど機会に恵まれなくて。それにお金とかいろいろ準備が必要だったから」
「あーね。ネイルってお金かかるもんねぇ。それにメンテとかもあるし。長くもって二週間くらいが限度だし。ほらアタシのつめ、みてみー?」
視界いっぱいに不純物がたくさん練り込まれた爪を見せつけられる。ナツキの爪を覆いかぶさった、サイズ感のあっていない着せ替え品は歪に長くなっていた。
アンタと一緒にしないでよ。
喉の奥からせり上がる激昂を抑え「ナツキに似合ったデザインでかわいい」とお世辞を塗り固めた言葉を吐き出す。瞼から伸びる嬉々とした毛虫の蠢きに、しかめたいのを抑えて口角を引き上げた。
「カタブツせっちゃんがオシャレに目覚めるってことはぁ……恋の予感ってカンジ?」
「やめてよ。そういうのじゃないから。わたし俗っぽいことには興味ないの」
両手を重ね合わせ、カフェの照明で輝くネイルへ視線を落とす。
──そうよ。私の愛はアンタたちと違って、崇高で尊いものなんだから。
汚れのない雪肌の指先に宿る透き通った薄桜の花弁。
丁寧に丁寧に、一枚一枚、愛の言葉遊びをしながら散らして──十枚手に入れた。
不揃いの花びらは全てわたしの爪に重なるように整えて。
最後に愛おしい人の身体を巡る紅で染め上げた。
「君、大丈夫? こんなところで蹲って。具合悪い? ほら手を貸して」
わたしへ親切な救いの手を差し伸べてくれたあの日から、優しさでつくられた貴方の一部が欲しくなってしまった。
そうすれば貴方の愛と運命の出会いを感じられるでしょう。
愛おしい人はもう喋れなくなってしまったのが残念だけど。
「ほんと気に入ってんね」
「うん。ずっとこのままで良いくらいに」