表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
長男ですが?  作者: 不明
33/33

32 崩壊ですが?

 午後9時を過ぎても帰らない鈴さんを心配しながらも家事をこなす佐一。


 今日は週に二回訪れる鈴さんの食事当番だったが、帰ってこないのと霰さんが空腹でお菓子でお腹を満たそうとしていたので自分が代わりに食事当番をこなしていた。


 食事も終わり、皆が食べ終わった食器を洗っていると玄関の戸が開く音が聞こえ、急いでタオルで手を拭き玄関へと顔を出す。


「鈴さん遅かったですね。今日は鈴さんの当番でしたよ忘れ……」


 言葉を言い終わる前に静かに鈴は近寄ると身に着けるエプロンごと胸ぐらをつかむ。


 その行動に直ぐに鈴さんの感情悟った。


「何ですか?」


 だが、何故ここまで鈴さんが怒りをあらわにしているのか分からない。

 

 偶然とはいえ友達との交流一日潰してしまっている。その件に関しては鈴さんに悪いことしたなとは思っている。


 この行動に至る理由には何かトリガーがあるはずそう思い立った佐一は力を抜き、鈴さんの行動を潔く受け止めることにした。


「お昼の話、覚えてる?」


「ああ、これ以上鈴さんグループに踏み込むと潰すって件ですか覚えてますよ。それがどうかしましたか」


「あの言葉少し変える」


 佐一を強く壁に叩きつけながら、鈴が初めて見せる表情で。


「今から今後一切私にかかわるな‼ クソ長男‼」


 怒号、怒りのこもった馬頭。昼間と話したときに感じなかった悪意が言葉に込められている。


 『長男』という言葉に動揺しながらも、自分の思考を貫くため左腕を右手で後が残るほど強く握り、表情を崩さず平然を装いながら言葉を返す。


「それは無理ですね。家族ですし」


「篠崎君を利用して私たちが遊ぶ日と場所を聞いて偶然と偽り、あの時もあの時も計算済みで乃虎ちゃんを怒らせて、困らせて、恥をかかせて。乃虎ちゃんの悪いところを私に全部見せて引き裂こうとあんたはしている。陰でこそこそ計算しながら姑息に、それが私は許せない‼」


 『鈴さん』ではなく『自分』が乃虎の人間性を見るために最初の行動は起こしたが、こちらの考えと事情を知らなければそういう思考にたどり着くのは何となく分かる。


 だがその他は偶然と乃虎が勝手に起こした事。自分は知らん。かと言って頭に血が上っている鈴さんに弁明しても無理だろうし。


「……」


「はぁ……はぁ……」


 けど『何故』鈴さんがこんなにも怒っているのか、鈴さんが放つ無茶苦茶な言葉で分かった。


 言葉通り自分が引き裂こうとしている件? 違う。鈴さんは自分に『こいつが悪い』と言い聞かせて怒っているんだ。


 ゲームセンターのもめごと後、乃虎と二人取り残された鈴さんはその場の空気で自分や篠崎さん、乃虎以上に冷静さを失って抑え込んでいたに違いない。


 それからずっと乃虎と分かれてから家にたどり着くまで頭が回りその『怒り』を押さえつけ、自分が現れたことによって怒りを発散し今に至る。自分、深ノ宮 佐一を悪者にし、敵を作らなければ鈴さん自身が崩れてしまう。


 つまり鈴さんのこの怒りは『自分自身』に対しての怒り。


 あの時、あの場所で、乃虎さんに対して何もできなかった自分を理解しているからこそ怒りながら涙を流しているんだ。


 鈴さんは『引き裂くために動いている』という考えに至るほど、自分深ノ宮 佐一の事を何も知らない。信用もしていない。それもそのはず去年のクリスマス頃からしかまともに話した事がないのだから。


 だからこそこの言葉を佐一は選ぶ。


「で?」


 たった一言だった。


「っ‼でって……」


 怒り、悔しい、悲しいを混ぜたぐちゃぐちゃ感情を表情に表した鈴はゆっくりと佐一の胸ぐらから手を放すと横を通り階段を上ってゆく。


 鈴の頭の中にはこれ以上、佐一にぶつける言葉が見つからなかったからだ。


 階段を上る鈴さんの背中を黙って見守って、見えなくなったときと同時に胸に手を当て強く服を握りしめる。


 佐一の心境は悲しみに揺ていた、表情に出るほど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ