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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第七章 アイゼの発明家
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コウラン


「お、お待たせ……」



気弱そうな声をこぼすコウランが、顔を見せる。

コウランは身綺麗な男であった。

ウォーレン地方独特の切れ長な目で、やや眉が太い。

気弱な雰囲気を滲ませていなければ、女性が放っておかないような美男だ。



「邪魔するぜ」


「え、あ、え? おい、ブラム??」


「今日は俺の主人も連れてきた。茶ぐらい出してやれよ」


「え、主人?? え、え? あ、ああ! こ、これは、ああ。そ、その、は、初めまして!」



ライラの存在に気付いたコウランが、慌ててライラに礼をする。

ライラはコウランを見て、なるほどと察した。

ブラムが残念そうに思っているのは、このコウランなる男の性格なのだ。

この気弱そうな感じ。面倒臭そうである。



「初めまして、コウランさん。私はレイテといいます」



ライラはさらりと、アイゼ用の偽名レイテを名乗った。

ブラムが偽名を使っていないから無用かと思ったが、一応、念のためだ。



「レ、レイテさん。あ、あの、その。こんな家に、どうも。い、今すぐお茶を淹れますから!」


「あ、いえ。お気遣いなく」


「いや、気遣えよ。コウラン。一応俺の主人だからよ」



ブラムがぶっきらぼうに言う。

どうやらふたりは、想像以上に親しいらしい。

とはいえ失礼が過ぎるのではないか。

ライラは内心ひやりとして、ブラムを睨みつけた。



「ブラム。あなたは少し無礼過ぎです」


「ああ? ここでは良いんだよ。俺とコウランは特に気を遣う仲じゃねえ」


「そ、そうなんです。ブ、ブラムはこんなだけど、良い奴で……」


「おら、聞いたかよ? たまには俺にも肩の力抜かせてくれよ」


「……えええ、……それなら、仕方ないですね」



コウランがブラムの無礼を許しているなら、仕方がない。

ライラは小さく息を吐き、室内をぐるりと見回した。


コウランの家は、外と同様に綺麗に整理されていた。

掃除も行き届いていて、塵ひとつ落ちていない。

男のひとり暮らしとは思えない空間であった。



「……コウランに、私の家で働いてもらおうかしら」



ライラはぽそりと呟く。

するとブラムが頭を横に振った。



「やめたほうがいいぜ。気が滅入っちまうに決まってる」


「いつも気弱そうにしてるわけじゃないでしょう?」


「いつもだ。今はまだ良いほうさ」


「……あれで、良いほうなんだ」



お茶を淹れているコウランの背を見て、ライラは唾を飲み込んだ。

今以上に気弱になるというのは、どれほどなのだろうか。

落ち込んで部屋に篭ってしまったりするのだろうか?



「お、お待たせ。ブ、ブラムの分もあるけど」



しばらくして戻ってきたコウランが、ライラとブラムに茶を差し出した。

何故か、コウランの分は用意されていない。

ライラは不思議に思いつつも、茶を一口飲んだ。



「美味しい。花茶ですね」


「そ、そうです。ボクが、好きでして……」


「そうなのですね。でしたら、コウランさんも」


「い、いえ! ボクなんかが、こんな高貴な方と! 滅相もない!」



コウランが震えあがって言った。

そうして半歩、後ろへ下がる。



「高貴って……私のことですか?」


「そ、そうです。ボクなんかが、言葉を交わすことすら、お、烏滸がましい! ほ、本当に申し訳ない、です」


「え? いえ、別に……私は貴族でも何でもありませんから」


「そんなことは! レイテさんの血が! 魂が! 貴き者と、語っています! ボクなんかは、路傍の石です。まったくの、無価値でして」


「いえ、そんなことは――」


「いえ、そうなのです。本当に!」



コウランが断言するように言った。

その様子を見て、ライラはなるほどと納得する。

ブラムの言う通り、気弱な性格どころではない。

面倒なほど自虐的な性格だ。

放っておいたら世捨て人になってしまいそうな勢いである。



「分かったかよ。こういう奴なんだ」


「……そう」


「時々様子を見に来ねえと死んじまいそうだからよ。もう三年の腐れ縁だ」


「……いつの間に」


「さすがにそろそろ自信を持たせてやらねえとってな」


「それで、彼の発明を?」


「そういうこった。ひとつでも上手くいきゃあ、真面になれんじゃねえかってよ」



ブラムが茶を飲み干し、立ち上がる。

次いでコウランの傍へ寄り、がしっと彼の肩を掴んだ。

するとコウランの喉から、声をすり潰したような悲鳴が漏れ出た。



「……それでは、コウランさんの発明品を、見させてもらっても?」



ライラは緊張で青ざめるコウランに目を向ける。

すっかり怖気付いたコウランは、震えながら目を泳がせるのだった。

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