ブラムの頼み事
ブラムは今、アイゼに友人がいるのだという。
それだけでも珍しいことだとライラは思った。
しかし珍しいのは、それだけではなかった。
その友人は自称発明家で、音楽が好きだというのだ。
「……ブラムって、音楽が好きなの?」
似合わないといった目で、ライラはブラムを見た。
するとバツが悪そうな顔でブラムが視線を逸らした。
「……たまたま気に入ったんだ」
「音楽が? 友達が?」
「どっちだっていいだろうが」
「それはそうですね。それで、その発明家さんを助けたいってことですか?」
「そういうことだ」
目を逸らしたままブラムが言う。
やはり珍しいとライラは思った。
そもそもブラムがこうして頼ってくることが、珍しいを通り越して恐ろしい。
何か企んでいるのではないかとすら思う。
「何も企んじゃいねえぞ」
ライラの心を読むようにブラムが言った。
ライラははっとして、頷く。
「でも私、不確かなものにはお金を出せないと思いますよ」
「そうだな。ゴミを高く買うことも出来ない。そいつは分かってる」
「その口ぶりだと、まだ真面な発明品は出来てなさそうですね」
「はっきり言ってそんなとこだ」
ブラムががっかりして息を吐いた。
それならばどうしろというのかと、ライラは首を傾げる。
「お金に困らない力」は、目的がはっきりしたものにしか発動しない。
ただ支援するといった漠然なことでは、貨幣が生まれないのだ。
無価値なものに対しても、同様である。
役に立たない発明品を高く買って、資金援助するということも出来ない。
「とりあえず本人に会ってくれねえか。会えば、たぶん……分かる」
がっかりした表情のまま、ブラムが小さく頭を下げた。
やはり珍しい。これから雷雨になるのではないか。
あのブラムがしおらしくなるなんて、三百年前の旅がはじまった時以来である。
正直、ちょっと気持ち悪い。
「……ブラム。何か変なもの食べてないですよね」
「食ってねえよ」
「もしかして別人なの?」
「何言ってんだ、馬鹿ライラ」
「あ、本人ですね。……って、馬鹿って言わないで!」
ライラは怒鳴り、ブラムの頬を思いきり抓るのだった。