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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第六章 トゾの森
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魔物除け

「今夜は野宿せずに済めばいいがな」



出発の準備が終わり、馬車に乗り込んだ後。

眠そうに欠伸をしたブラムが言った。



「森の中にいくつか、村があると聞きましたが」


「……らしいがな。どうも気配がしねえ」


「近付かないと分からないのでは」


「そうじゃねえ。人間だけじゃなく、生き物の気配がしねえんだ」



そう言ったブラムが、馬車の中から森の中を覗いた。

同じようにしてライラも森を見たが、特に何も感じない。

ブラムにしか分からないのか。

それともライラが鈍感なだけなのか。



「……まあ、血の匂いもしねえ。物騒なことはないだろ」


「だと良いですが」



ライラはごくりと唾を呑む。

その隣で、ブラムがごろりと横たわった。

寝ずの番をしてくれていたのだ。早々に寝たいのだろう。

ライラはそれ以上何も言わず、静かにしておいた。



ブラムが眠って数時間。

整備された道でも小さく揺れる馬車の中。

振動によりやや気分が悪くなってきたライラでも、外の気配が異様なことに気付いた。

ブラムの言う通り、生物の姿も、影すらも見当たらないからだ。



「ここで軍隊が野営をしていたから、獣がいなくなったんじゃない?」



詰まらなさそうにペノが言った。



「でも、軍隊がいなくなったら獣たちもすぐに戻ってくるのでは?」


「軍が魔物除けを使ったのかもね。ああいうものの粗悪品は、魔物だけじゃなく普通の獣にも効果があるから」


「では人間にも?」


「あるよ。生き辛くなって避難したのかも」



ペノが目を細めて窓の外を見る。

先ほどよりもさらに、森の静けさが気になるようになった。

魔物除けの効果が届かないのか。森の上空には野鳥の影が見えた。

しかしそれらが森の中へ降りることはなかった。



「人間がいなくなれば、この綺麗な道も消えてしまうかもしれませんね」



ライラは残念そうに言う。

次にこの道を通るのがいつになるか、それは分からない。

しかし、いつかはまた来て、通るだろう。

不老である限り、ライラの旅はつづくのだから。



「乗り物酔いしちゃうライラには、死活問題だもんね!」


「……まあ、そうです」


「なら、道の整備のために投資してみたら?」


「投資ですか? 道に?」


「そう! 今後いつかのための投資!」



そう言ったペノの目が、かすかに輝いた。

ようやく玩具を手に入れたといった顔だ。

もちろん、玩具は道ではなく、ライラである。

やはりペノは、「お金に困らない力」を無駄撃ちさせて楽しみたいらしい。


とはいえ、道にお金を使うのは面白いとライラは思った。

いつかはまた来るであろう、このトゾの道。

状態を維持しつづけるのも良いが、他の価値も生むことができるかもしれない。



「少し考えてみます」


「いいねえ! またドカンとお金を使って、トラブルも生んでくれると面白いけど」


「魂胆は分かっていますから、あえて口にしないでもらえます?」


「あっはは! これは失礼!」



ペノが高らかに笑う。

直後、眠っていたブラムが唸り声を上げた。

「うるせえぞ」と短く言い、ペノとライラを睨む。

ライラはどきりとして肩をすくめ、小声で謝るのだった。

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