表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第五章 約束
82/195

正直の形


「フィナ様。もう良いですよ」



ライラの後ろで、レッサの声がひびいた。

振り返ると、いつの間にかレッサが傍まで来ていた。




「証拠なんて無いでしょうがね。そんな大人の事情、子供には関係がない」


「……レッサさん」


「良いんです。……セクタくん。君の言う通りだ。俺たちは魔族だ」



レッサが困った顔のまま言う。

改めて驚く少年たちを前にして、レッサが自分の正体だけでなく、年齢まで明かした。

しかしレッサが、ライラとブラムのことを言うことはなかった。

村人たちだけが魔族なのだと説明した。



「だとしてもだ」



レッサが口調を強めた。

少年たちに一歩近づき、ひとりの少年を指差す。

その少年は、怪我をしていた。

魔物に受けた傷ではなく、どこかで擦りむいただけの傷だ。



「こんな無謀なことをするべきじゃなかった。違うかい? 俺たちは心配した。フィナ様もだ。怪我で済まなかったら、どうするつもりだったんだ?」


「だけど……!」


「魔族が怖いから、逃げ出したのかい? 悪い人間から解放してくれたフィナ様に何も言わずに? だとしたら君たちは、魔族よりも恩知らずで、悪い人間だよ」



レッサが少年たちを責める。

言い過ぎな気がしたが、ライラは止めなかった。

子供扱いせずに怒るのも、大事なことなのかもしれないからだ。


少年たちは、「魔族よりも恩知らず」という言葉が効いたらしい。

反論もせず、黙って俯いた。

セクタもまた、力なく肩を落としていた。

少年たちを焚きつけたことにも、反省しているのかもしれない



「まあ、君たちが俺たち魔族を怖がるのは仕方ない。今もつづいている戦争は魔族だけが悪いわけじゃないけど、君たちにとって俺たちは敵だもんな」


「……はい」


「はは。正直なもんだ。……だけど、まあ。今のところこの村の魔族は、君たちの敵じゃない。誓ってもいい」


「……本当?」


「信じられないなら、契約の魔法を使ったっていい。嘘を付いたら罰を受けるってね」



そう言ったレッサが、右手をかざした。

レッサの右手に、光の輪が現れた。

ライラから見て、その光は契約の魔法のものではないと一瞬で判別できた。

しかし少年たちを信じさせるには十分であった。



「……分かりました、レッサさん」



セクタが項垂れて言った。

すべてに納得していなくても、無謀なことをしたことは理解しているだろう。

冷静になった今、仲間が負った怪我も、ライラに対する非礼も痛感しているといったところか。

先ほどまでの力強い目が萎れている。


萎れたセクタを見て、ライラは少年たちへ半歩寄った。



「ごめんなさい、みんな」



ライラは頭を下げた。

すると先に謝ろうと思っていた少年たちが動揺しはじめた。



「頭をあげてください、ご主人様!」


「いいえ、私は嘘を付きました。不安にさせてしまったのは、私のせいです」


「ボ、ボクたちが悪いんです! ボクたちが!」


「どちらかだけが悪いなんてことはないです。どんなことでも」



動揺する少年たちを前にして、ライラは一瞬ブラムに目を向ける。

ブラムの肩がぴくりと揺れた。

何かを思い出したらしく、ライラから目を背ける。

ブラムの様子を見て、ライラは小さく笑った。



「では、今度はみんながレッサさんたちに謝る番ですよ」


「は、はい、ご主人様」



セクタをはじめ、少年たちが素直に頷く。


少年たちは未だ不信感を抱いていたようであったが、レッサたちに謝っていった。

レッサたちも少年たちに謝った。

それからレッサたちは、怪我をした少年たちの手当てをはじめた。

レッサたちから傷の手当てを受けた少年たちは、その目から少しずつ疑惑の色を消していった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ