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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第五章 約束
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探り合い

吹雪でないときは毎日、子供たちが出掛けていく。

少年たちは、ブラムと共に採掘場へ。

少女たちは、ライラと共にエイドナの食堂へ。


どちらも長くは働かない。

冬季が過ぎた後、どうなっても子供たちが生きられるよう勉強させるのが目的だからだ。


短い時間であるからか。

それとも奴隷よりもはるかに楽であるからか。

子供たちは楽しそうに働いた。

エイドナもレッサも「ずっとここで働いてほしいのだがな」と言ってくれる。



「じゃあ、そうしてくれよって思っちまうがな」



夜になり、ブラムが顔をしかめて言った。

子供たちの良い行き先が決まらないため、ブラムは焦っていた。



「そうですけどね。仕方ないです」



とは言いつつ、ライラももちろん焦っていた。

クナドの商会という切り札はあるが、出来れば何度も頼りたくないからだ。

ライラ自身が行き詰ったときにも頼れるよう、クナドの商会には多くの面倒事を押し付けたくはない。


とすれば、どうするか。

大金を積んで誰かに預けるべきか。

いや、しかし――



「ベルノーの話を聞いたから、ビビっちゃったんだねえ」



ライラの心を読むようにして、ペノが言った。

その通りだと、ライラは肩を落とした。

ライラにとって、心から信頼できる相手や組織は少ない。

不老であることを隠すため、希薄な関係しか築いてこなかったからだ。



「信じるって、難しいです」


「まあね。価値が変わりにくい金貨と違って、心変わりしやすい人間は信用できないからねえ」


「ペノがそんなことを言っていいの?」


「別に? ボクはこの世界の神様ってわけじゃあないし」



飄々とペノが答える。

冷たい言葉だと思ったが、確かにそうだともライラは同意した。


この三百年。

人間たちに裏切られたことなど、いくらでもある。

お金が絡めばなおのこと、人間は突拍子もないことをする。

ライラに刃を向けた者だっているのだ。


だが今は、誰かを信じる他ない。

信じれないなら、信じれるように足掻く他ない。



「……ご主人様、少し、宜しいですか?」



不意に、部屋の扉の向こうから、声が鳴った。

少年の声だ。夜遅いというのに、眠れなかったのだろうか。



「どうぞ。開いていますよ」


「はい。失礼します」



扉を開けて入ってきた少年。

セクタという名で、子供たちのリーダー的な存在だ。

セクタはきょろきょろとして、落ち着かない様子を見せた。

ブラムがいることを気にしているのか。主人であるライラの部屋に入ることを躊躇っているのか。



「どうかしましたか?」



落ち着かない様子のセクタに、ライラから声をかけた。

セクタの小さな肩が揺れる。



「少し、気になることが」


「あら。どんなことでしょう?」


「エイドナさんのことです」



そう言ったセクタに、ライラはどきりとした。

何を言い出すのか、分かった気がしたからだ。



「エイドナさんは、ご病気なのでしょうか。身体があんなに白くて……でも、元気そうで」


「もしかして、女の子たちが心配していたの?」


「はい」



セクタが間を置かず答えた。

少女たちに、代わりに聞いてきて欲しいと言われたのか。

それとも少女たちの想いとは別に、セクタ自身が興味を持ったのか。

どちらにせよ、セクタの目に悪意があるようには見えない。



「……そう。では心配しないでいいですよ。エイドナさんはどこも悪くないです。そういう体質だと思っていてください」


「そう、なのですか?」


「ええ。彼女たちにも、心配しないでと伝えておいて。お願いね、セクタ」


「分かりました、ご主人様」



セクタが頭を下げ、扉のほうへ戻っていく。

ライラは「おやすみなさい」と、セクタに手を振った。

セクタが振り返り、再び頭を下げる。


セクタがライラの部屋を出てしばらく後。

ブラムが目を細めた。



「あいつ、気付いたんじゃねえか?」


「何をです?」


「村の連中のことさ。魔族なんじゃねえかってな」


「まさか」



ライラは子供たちがいる部屋のほうへ向く。

セクタの足音と、子供の部屋の戸が閉まる音が聞こえた。



「……気付かれるとは思えません」



ライラは小声で言う。

聞き取り辛かったのか。ブラムがライラの傍へ寄った。



「けどな、子供ってのは勘が良いもんだ」


「そうだとしても、証拠なんてないです。どの人も、魔法を使ったりしてないですし」


「分かってら。だが用心したほうがいいかもしれねえ。レッサやエイドナにも言っておくべきだ」



ブラムが真顔で言う。

ブラムは粗暴に見えて、意外と繊細だ。

ライラのことはもちろん、子供たちのこともよく見てくれている。

もしかすると、少年たちと一緒にいて何かを察したのかもしれない。



「分かりました。エイドナさんには言っておきます」


「ああ」


「……冬季が終わるまで、平穏で済めばいいのですが」



ライラは目を瞑り、ベッドに倒れ込む。

しばらくして、戸の閉まる音が聞こえた。

ブラムがそっと出て行ったのだ。

粗暴に見えて、本当に妙なところで繊細だ。



「ペノはどう思います?」



目を瞑りながら、ライラは言った。



「さあねえ」


「もしかして、なにか知っているのですか?」


「知らないよ。知らないほうが面白そうだからね!」


「ペノだけが面白いのですけどね」


「そう!」



楽しそうにペノが言った。

ペノがライラたちに協力してくれるのは、気分次第だ。

親身になってくれる時もあるが、ほとんどの場合、高みの見物を決め込む。

どうやら今回も、後者であるらしかった。

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