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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第五章 約束
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索道

冬季でも凍らない、ヴェノスレス高山から流れてくる川。

ガラッド村はこの川に水車を設け、索道の動力にしている。

索道はガラッド村と採掘場を繋いでいた。

この川と索道のおかげで、ガラッド村は成り立っている。


索条には二人乗りの椅子が吊るされていた。

村人はみな、村と採掘場の間をこの椅子に乗って行き来しているらしい。

特に安全対策もされていないこの椅子で、あの高さを。



「絶対に騒いではいけませんよ」


「分かってます、ご主人様」



心配するライラをよそに、子供たちが索条に吊るされた椅子に座っていった。

もちろん、村人も同乗してくれる。

次々に索道で登っていく子供たちを見て、ライラは内心震えた。

見れば見るほど恐ろしく高いところを、索条に吊られた椅子が登っていくからだ。



「気になるならライラも行けば?」



揶揄うようにペノが言った。

ライラは細かく首を横に振る。



「私は行きませんよ。ブラムに任せます。ブラムが行くって言っていましたから」


「でも、子供たちはライラに来てほしそうだったよ?」


「本当に残念です。本当に」



ライラは数歩退き、索道を登っていく子供たちに手を振る。

椅子の上で振り返っていた子供たちが、身を乗り出して手を振り返した。

ライラはどきりとしたが、ライラが慌てるよりも早く、隣に座っていた村人が子供を抑えつけた。



「子供って凄いですね。恐いことなんて何も無いみたい」


「ライラも見た目は子供なのにね」


「はいはい。どうせ中身はお婆ちゃんですよ」



ライラは拗ねて、翻る。

するとライラのすぐ後ろにいたブラムと目が合った。

ブラムは子供たちが全員乗ったのを確認して、最後に乗ろうと待っていたのだ。



「じゃあ、行ってくるぜ」


「うん。お願いね」


「ああ。そんなに遅くならねえはずだからよ。帰ったら飯を作る。だから余計なことしないで待ってろよ」


「食材だけ買って、待っています」


「そいつは助かる」



ブラムがライラの頭をぽんと触れ、索条に吊るされた椅子に乗る。

ぐらりと、椅子が揺れた。

ライラは思わず、「ひあ!」と声を漏らす。

自分が乗ったわけではないのに、耐えがたいほど恐ろしい。


ブラムが見えなくなるまで見送ったライラは、ふらつきながら索道を離れた。

すると索道の昇降口に、女たちの姿が見えた。



「仲睦まじいですねえ」



女のひとりが、ライラの肩をとんと叩く。



「仲が良いわけではありません。彼は従者のようなもので」


「そういうふりなんでしょう? 分かっていますって、フィナ様」


「いや、あの、本当にそういうのではないですから」


「はいはい。まあったく、大雪が全部溶けてしまいますよ」


「……えええ」



聞く耳持たない女たちがにこりと笑う。

最近、誤解がひどくなっていく一方だ。

確かにブラムは外見がとても良い。

しかしそれを上回る性格の悪さがある。

出来ることなら、ここですべて明らかにしてしまいたい。



(まあ、言えるはずもないですが)



ライラは肩を落としながら、買い出しに向かった。

こうして買い出しに行くのも、普段はだいたいブラムがやってくれる。

それだけではない。日々の雑用はブラムがほぼこなしてくれている。

ライラは基本、何もしていない。

ブラムに頼り切って生きているのだ。



「ライラはブラムがいなくなったら、死んじゃいそうだよね」



ペノが両耳を揺らしながら言った。

否めない言葉だ。

ライラは言い返すことなく、淡々と買い物をつづける。


途中、いくつかの店で店主が品物を安く売ってくれた。

最近、「フィナ様からはお金を受け取れません」と言いだす人が増えている。

ライラが役に立てる事といえば、この程度だ。

外見が良く、金払いも良いとなれば、周りの者はライラとその仲間をぞんざいに扱わない。


もはやお姫様だと思って開き直ればいいのでは。

そう思うこともあった。



「だけど小心者のライラは、ずっと偉そうな態度を取れないんだよねえ」


「はいはい。どうせポンコツですよ」



ライラは頬を膨らませ、家路に着く。

道中。大荷物を抱えるライラを見かねて、数人の村人が荷物を持ってくれた。

ライラは断り切れず、何度も礼を言って家まで運んでもらった。



「何か他に、買い物へ行く予定はありますかい?」



ライラがやっとの思いで持っていた大荷物を、軽々と持つ村人。

さすがは魔族だと、ライラは感心する。



「いえ。今日はそれだけです」


「じゃあ、明日の分も買ってきましょうかい?」


「とんでもない。十分です。本当にありがとうございます」


「はは。フィナ様は本当に低姿勢で。村の外で威張り腐ってる馬鹿な同胞に見せてやりたいところでさあ」



村人がかっかと笑う。

そうしてライラの家に着くと、持ってくれていた大荷物をそっと置いてくれた。



「村の外にいる、その、戦争をしている魔族たちは……皆さんとは違うのですか?」



ライラは気になって尋ねた。

ライラの知っている魔族は、ブラムと、ガラッド村の魔族だけだからだ。

人間と戦争をつづけている魔族がどんな者たちなのか。まったく知らない。



「さほど違いはありませんがね。ただ、魔力が違うんでさ。戦争に加われるほどの魔力を持った者はね、ものの考え方とか、見える世界が違っちまうのかもしれませんね」


「偉そうになったり……するのですか?」


「ですねえ。自分たちが戦っているから、平和に生きられる魔族がいる。あいつらはそう思ってるんでさ」


「そう、ですか」


「ま、否定はできません。魔族だけの村なんて、戦争が起こる前まではエルオーランドの北西の端っこにしかありませんでしたからねえ」



村人がかっかと笑い、頭を下げて去っていく。

ライラは改めて礼を言い、村人を見送った。



祝福の大地エルオーランド。

その広大な大地は、九つの地方に分けられている。


ライラたちがいるユフベロニア地方は、エルオーランドの南東に位置している。

目指すウォーレン地方は、ユフベロニアの北。

村人が言っていたエルオーランドの北西は、ゲドレト地方という。

そこには多くの魔族が暮らしているという。



(ゲドレトに行けば……私も生きやすいのかな)



ライラはふと思う。

しかし思うだけであった。

不老とはいえ、ライラは人間なのだ。

自分が歪んでいると分かっていても、人間の中で生きていたかった。



「なんて顔してんの。そろそろブラムたちが帰ってくるよ?」



沈んでいきそうなライラを引き上げるように、ペノの声が届いた。

ライラははっとして、ペノを見る。

ペノが何事もないような顔で、床に置かれた大荷物を指差した。


陽が暮れる前。

ブラムたちが騒がしくしながら帰ってきた。

子供たちが採掘場での話をライラに聞かせてくる。


ライラは心に引っ掛かるものを見ないようにして、子供たちの話を聞くのだった。

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