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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第四章 契約の魔法
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契約の魔法


「ですがね。私はベルノーに、子供たちを送りたいとは思わない」


「どうしてですか?」


「ベルノーにある孤児を預かる施設が、恐ろしいところだからですよ。あそこは名ばかりの場所だ。子供という存在を商売にして、汚い利益を得ているんです」



そう言ったレッサが、ベルノーにある孤児を預かる施設の実態を語りだした。


そこでは、預かった子供を奴隷商人に売り払う裏口があるという。

それだけではない。

容姿の良い少年少女は、娼館に売られるらしい。


それを聞いて、あり得ないことだと、ライラは思った。

戦地に近いとはいえ、ベルノーは大きな街だ。

悪い噂はすぐに大きくなるし、隠しきれるとは思えない。



「私はベルノーに住んでいたことがあります。そんな話は聞いたことがありません」


「知っているはずがありませんよ。ベルノーの政に携わっている者たちが、代々やっているんです」



吐き捨てるようにレッサが言った。

政に携わる者が汚い仕事を地下深くで行えば、地上は綺麗なものしか見えないだろうと。

奴隷商人のように闇でうごめく者は、地下深くにある甘い汁を外部に漏らすはずがない。

あとは、売られていく者たちが情報を漏らさなければ、地下深くの出来事は存在しないも同然だ。



「それでも隠しきれるでしょうか? それに、どうやってレッサさんはそれを知ったのですか?」



ライラは首を傾げた。

売られていく者たちすべての口を塞ぐなど、無理なのだ。

舌を切り、腕を切らなくては、いつかは明るみに出てしまう。

それほどのことが、なんらかの手段で強力に隠されている。


その強力な隠し蓋を、なぜレッサが開けられたのか。



「魔法ですよ」



レッサが「ひとつ目の疑問の答え」として言った。



「魔法? それって……まさか!?」


「ベルノーに、人間に加担する魔族がいるんです。そいつは契約の魔法を使うとか」



レッサの言葉を聞いて、ライラは息を飲んだ。

次いで、部屋の中にある自分の持ち物へ視線を向ける。


ライラの持つ魔法道具の中に、契約魔法を使うことが出来るものがあった。

それは商人たちがよく使うもので、何故だかさほど高価ではない。

ライラも便利なものだからとして、複数所持していた。



「契約魔法で口を閉ざされているわけですね」


「その通り。それを知っている者はごくわずかです」



そう言ったレッサが、採掘場の管理以外に、人間の都市の諜報活動もしているのだと明かした。

村を存続させるため、あらゆることをしなくてはならないのだという。

しかしそういった水面下の情報は、レッサとごく一部の者しか知らないらしかった。

村の中で顔の広いエイドナも知らないという。



「……レッサさんは、そんなことまで」


「皆で生きるためです」


「……そう、ですか」


「しかし生きるためとはいえ、非道を良しとしたいわけじゃない。だからこそ、エイドナからあなたの話を聞いて、ここへ飛んできたわけです」



レッサが息苦しそうに言った。

エイドナと同じ表情だと、ライラは思った。


非道を良しとしたいわけじゃないと言いつつも、レッサは未だ悩んでいる。

村と子供たちを、今この瞬間も天秤にかけているのだ。

天秤にかけるべきではないと分かっていても、かけざるを得ない。

同じ悩みを何度も繰り返し、苦しんでいる。



(なんだか鏡を見ているみたい)



なんとなく、ライラはそう思った。

ライラもまた、虚ろな悩みを心の内で延々と混ぜつづけている。

どれほど悩んでも解消できないと、分かっているのに。



「……分かりました」



間を置いて、ライラは頷いた。



「とりあえず、ベルノーにあの子たちを送りだしはしません」


「ありがとうございます、フィナ様」


「他の頼り先があるにはあります。このことで、村に迷惑はかけませんよ」



ライラはそう言って、クナドの商会を思い浮かべた。

恩を売っているクナドの大商会なら、もう一度協力させても断りはしないだろう。

するとレッサが、少し困り顔を見せた。

ライラが無理をしていると思ったらしい。



「あいや、申し訳ない。私も他の方法を考えますよ、フィナ様」


「そこまでしなくても良いですよ。これは私が始めてしまったことです」


「いえ、フィナ様。子供たちを歓迎してないとは言いましたけどね。フィナ様ほどのお方が引き取った子供たちは特別だ、とも思ってるんです。きっと村中の者が、秘かにそう思っていますよ」



レッサがライラを見据えて言った。

レッサもまた、ライラから溢れ出た大魔力を誤解した一人らしい。

誰かがあと一押ししたら、崇拝まで始めそうな勢いだ。


ライラは苦笑いする。

しかし今、誤解を取り除こうとは思わなかった。

子供たちの問題が解決するまで、この誤解は利用したほうがいいだろう。


ライラはレッサに手を差し伸べる。

レッサがライラの手を掴み取り、目を輝かせた。

直後になにかを思い出したのか、レッサは赤面して俯くのだった。

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