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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
メノス村編 第二章 魔力
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欲しいもの

購入した古い家を改修して、早十日。

ライラの生活水準は徐々に上がっていった。


メノスの村の人々は最初、ライラを訝しんでいた。

気を付けてはいたが、やはり多少目立ったのだ。

みすぼらしい少女が、良い身なりになったからだけではない。

目立たない場所とはいえ、早々に家を購入したのも目立つ原因となった。


ライラは仕方なく、実家が裕福なのだと言い訳した。

数日言い訳をつづけていると、半数近い村人が「そういうものか」と警戒心を解いた。

ソフィヌと仲良くなっていたことも大きい。

彼女と楽しく過ごしているのを見て、幾人かの村人はライラを歓迎するようになった。



「やあ、ライラ」



村を歩いていると、男の声がライラの背を打った。

振り返るとそこには、ライラよりもやや年上の青年がいた。



「クロフト。今日も訓練をしていたの?」


「そうだよ。もうヘトヘトさ」


「でもすごいね、毎日。私には出来ないです」


「出来るよ。ライラも今度、一緒にどうだい?」



クロフトと呼んだ男がにかりと笑う。

ライラは苦笑いして、丁重にお断りをした。


クロフトは最近仲良くなった青年だ。兵士になりたいという夢を持っている。

歳が近いからか、クロフトはライラを見るたび必ず声をかけてくれた。

おかげでライラの新生活は賑やかになりつつある。



「ライラはこれから買い物かい?」


「そうです。ランプが欲しくて」


「この間買ってなかった?」


「ひとつね。でも家の中で持ち運びたくないの」



ライラが言うと、クロフトが「贅沢だなあ」と片眉を上げた。

しかしライラは、「贅沢だ」と言われてもたくさんのランプが欲しかった。

生き返ってこれまで、未だ夜の暗さに慣れていないからである。


この世界には電気がない。なので、電灯もない。

明かりとなるのは暖炉の光か、手元のランプのみである。

ランプに使うものは、蝋燭であった。

この蝋燭がやや高い。ライラが欲しい蝋燭にいたってはさらに高かった。


この世界で広く使われている蝋燭は、獣脂蝋燭であった。

これがとにかく臭い。ずっと肉を焼いている臭いがするのだ。

部屋中に臭いが付くうえ、煤もひどい。

耐えきれなかったライラは、植物油で作られた蝋燭を買う他なかった。



「ランプと、この蝋燭を買うの?」


「そう」


「でも残り僅かみたいだよ」


「とりあえず全部買って、入荷されるのを待つつもりです」


「しばらく入荷はしないと思うなあ」


「どうして?」


「そんなに大きな村じゃないからね。買う人が少ないものをわざわざ仕入れてくれないよ」


「じゃあ、特別なものが欲しいと思うときは、皆どうしているの?」


「近くの街まで行くんだよ。二日はかかるから、何かのついでに買うんだ」



クロフトがさも当然といったように言う。


メノスの村は、ある程度自給自足できている村だ。

他所と商品を流通させようという思考など、ほとんどない。

近くの街テロアに対しては、穀物と豚を卸すのみ。

逆に卸されることはあまりない。必要ではないからだ。



「そういえば行商のルートからも外れてるって、誰か言っていました」


「そうだよ。この村は、まあ……閉鎖的なんだ。新しいものに対してね」


「クロフトも、閉鎖的とは思ってるんですね」


「まあね。だから俺は兵士になって、この村から出たいんだ」



そう言ったクロフトが腰の木剣に手をかける。

クロフトの木剣は、金属の棒に角材を取り付けたものであった。

本物の剣の重さを意識してのことである。

そんなものを毎日振り回しているのものだから、クロフトの身体はずいぶん逞しかった。

顔も性格も良いので、村の女性たちから人気がある。



「クロフトが村を出たら、みんな寂しがるでしょうね」


「そうかな」


「そうよ。今だって、物陰から見ている子がいるわ」


「そう? でもライラだって、秘かに人気なんだよ」


「私が? 最近まで嫌われていたと思うけど」


「それは一部にね。でもライラは、その、可愛いから……君と仲良くなりたい男もいるんだ」



クロフトが少し気恥ずかしそうに言った。

ライラは首を傾げる。そんな男性、クロフト以外に出会ったことがないからだ。

「そんなことはあり得ない」とライラは告げると、クロフトが残念そうな表情をした。


その後ライラはクロフトと別れた。

新しいランプと蝋燭を持ち、帰路へ着く。



「ライラって、鈍感だよね」



ライラの肩に乗っていたペノが言った。

もちろん、周囲に誰もいなくなったことを確認したうえでだ。



「どういうこと?」


「いや、うん、まあ! なんでもないよ!」


「そう? それはともかく、これで私たちの家はさらに快適になりますよ」


「小さな家なのに、ランプが五つになったからね!」


「まだ足りないけど、蝋燭問題が解決するまでは我慢します」


「街に買いに行けばいいんじゃない?」


「毎回ですか? それはちょっと……」


「じゃあ、来てもらうとか?」


「来てもらう……? あ、そうですね。……私、良いこと考えました!」



ライラはぱっと目を輝かせると、跳ねるようにして自宅へ駆けた。

ペノが振り落とされないよう、ライラの肩に必死になって掴まる。

自宅の木戸を開けるや、ライラは荷物を「前室」の居間に置いた。

そうして「後室」の戸の鍵を開けた。


ライラの家は、壁を隔てて前後に分けていた。

ライラが「前室」と呼んでいる部屋は、ふたつ。普通の居間と、使わない台所があった。

前室は客が来たときに使っていた。他の家と同様の内装で、目立ったものはない。


しかし壁を隔てた先にある「後室」は違った。

後室にもふたつの部屋があり、そこにはライラの贅沢を詰め込んでいた。

ひとつの部屋は寝室で、やや狭いが上等なベッドと敷物を置いていた。

もうひとつの部屋は居間で、秘かに買い集めた高級な家具や敷物で彩られている。

とにかく快適に過ごすことだけを追求し、湯水のようにお金を使って拵えた。



「あれ、ライラ。着替えるの?」



寝室へ引っ込んだライラに、ペノが首を傾げた。



「そう。街へ行くの」


「やっぱり結局行くんじゃない」


「今回だけね。次からは行かないです」


「どういうこと?」


「それは行ってから教えます。上手くいけば、村のためにもなるわ」



ライラは満面の笑みで支度をつづける。

この世界へ来て初めて、メノス村以外の街へ行くのだから。

思わず鼻歌を歌う。

ペノが呆れたと言わんばかりに両耳を折った。

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