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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第三章 香りの向こう側で
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ベルノーにて


冷たい風。

身体が切れるのではないかと、ライラは全身を震わせる。

ウサギの姿のペノも寒いようで、ライラの服の中に避難している。



「ブラムだけですね、寒くなさそうなのは」


「鍛え方が違うんだ、お前らとはよ」



御者台に座っているブラムが、鼻を鳴らした。

別に強がっているわけではなく、本当に寒くないらしい。

ライラに比べてかなりの薄着であるのに、微かも震えていなかった。



「それより、ベルノーには長居できねえぞ」


「分かっています」


「ウォーレンへ行ける分だけ補給すればいいからな」


「子供じゃないんだから。分かっています」



ライラは頷き、窓の外へ目を向ける。


ライラたちを乗せた馬車は、ベルノーの街に入っていた。

ベルノーはユフベロニアの北西にあり、比較的大きな街である。

しかしライラたちは、ここに長く留まることができなかった。

五十年前にここで暮らしていたため、ライラたちのことを覚えている人間がまだ生きているかもしれないのだ。



「念のため、顔を隠しておけよ」


「名前も念のため変えます。ここでは、フィナと呼んでください」



ライラはそう言って、馬車から降りた。

固い地面の感触に、いつもながらほっとする。

ブラムも御者台から降りて、ライラの傍に立った。

馬車を顔色の悪い御者の精霊に任せ、二人は買い出しに向かう。


五十年前に比べると、ベルノーは賑やかになっていた。

人間と魔族による戦火が、ベルノーよりもさらに北西のパーウラマ地方へ移ったためだ。

とはいえ、平和になったから賑やかになったわけではない。

戦地から、戦地が近い地域となったために、人や物が集まるようになったのである。



「旅行かい?」



買い物の最中、老夫婦がライラたちに声をかけてきた。

ライラは頷き、北に向かっていると答える。



「そう、ウォーレン地方へ行くんだね」


「ええ、そうです。ジカの森を避けたいので、北西からヴェノスレス高山を迂回しようかと」


「あらあら、そう。じゃあ、トゾの森を抜けるのね。これから冬季だから、ちょうどいいわね。それじゃあ、旅の安全を祈っているわ」


「感謝します」



老夫婦が微笑む。

ライラは小さく頷き、安全祈願のおまじないをしてくれた老夫婦に礼をした。



ライラたちが向かうウォーレン地方は、ベルノーの北にあった。

しかしベルノーとウォーレンの間には、ヴェノスレス高山とジカの森があった。

ヴェノスレス高山は非常に険しく、人の身で越えれる山ではなかった。

ジカの森は魔物が多いため、そもそも近付くことすら難しい。

そのためライラたちが選べるのは、北西からヴェノスレス高山を迂回する道のみであった。


北西にあるトゾの森は、冬季の旅にはうってつけであった。

トゾの北西にあるノルト天山が、北から吹き込んでくる冷気をすべて防いでくれるからである。



「トゾへ行く前に、馬車を改良したいのだけど」



買い物をある程度終えたあと、ライラは跳ねるような声を上げた。



「何をする気だよ」


「先ほど、良い店を見つけたのです」


「ああん? 馬車の店か?」


「違いますよ、玩具屋です」


「お、玩具だあ!?」



ブラムが大声をあげる。

ライラはブラムの口の前に人差し指を当て、静かにするよう促した。

ブラムが顔をしかめ、ライラの手を振りはらう。



「……それで? 玩具を馬車に詰め込む気か?」


「ふふ、それは試してからのお楽しみです」



ライラは笑い、玩具屋へ駆けていった。

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