表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第一章 ゼイメルケルの想い
40/225

健気


「はー! なるほどそうやって使いっ走りを手に入れたんだね!」



家に帰るや、明るい声がライラの両耳を打った。


明るい声の主は、ペノという名の白いウサギであった。

ペノはウサギの姿ではあるが、実のところ神様であった。

この三百年、何故だかずっとライラの傍にいる。



「人聞きの悪いことを言わないでください」


「でも買い物係に困っていたもんねえ」


「だって、ブラムが面倒臭がるから」


「面倒臭がるのは俺じゃねえ。お前だろ。このヘンテコ財布が」


「変な言い方しないで」



ライラはブラムの手を抓り、ペノの傍へ行く。

ペノがトンと跳ね、ライラの肩へ乗った。

ライラの肩の上が、お決まりの席なのだ。



「とにかく一石二鳥だと思うので。ユナには毎朝来てもらいますから」



ライラはそう言って、ペノとブラムを指差した。

ペノが愉快そうに笑い、ブラムが抓られた手をさすりながら苦い顔をした。


ペノはともかく、ブラムが反対しないのは分かっていた。

商店の並ぶ通りで出会った少女、ユナは孤児であったからだ。

頼れる親戚などなく、孤児院のように身を寄せる施設もルーアムの街にはないという。

身を擦り切らせながら生きるユナを、ブラムが見過ごせるとは思えなかった。


ライラはユナに、毎日の買い出しやお使いを頼んだ。

用事ひとつに対し、給金を毎度渡していくことにして。



(でも、残念だなあ)



「お金に困らない力」で給金を払うたび、ライラは申し訳ない気持ちになった。

出来ることなら、多額の給金をユナに払ってあげたいからだ。

しかしそれが出来なかった。

ライラの持つ「お金に困らない力」には、制限が付いているためである。


「お金に困らない力」は、何かを手に入れる時、妥当な代金しか生みだせなかった。

あれこれと理由をこじつけても、生みだすお金を大幅に増やせたことはない。

ライラがどれだけユナに良くしてあげたくても、大きな力にはなれないのだった。



「おはようございます!」



ライラの悩みを散らすように、元気な声が鳴った。

木戸を開ける。

仕事に来てくれたユナが丁寧に礼をした。



「おはよう。今日もありがとうございます」



ライラは買い出し用のメモとその代金、さらに一回分の給金を手渡した。

その金額に、ユナの表情がぱっと明るくなる。



「こちらこそ、ありがとうございます。行ってきます!」


「ええ、気を付けて」


「はい、リリーさん! それでは!」



メモとお金を受け取ったユナ。礼をして、駆けていく。

リリーというのは、ルーアムでライラが使っている偽名であった。

ライラは耳慣れない自らの名に苦笑いし、ユナの背へ手を振った。



「健気で働き者だねえ」



ユナが遠く離れた後、ライラの肩でペノがつぶやいた。

その言葉に、ライラはほんの少し寂しさを覚える。



「ところでライラ、気付いた? あの子の首飾り」


「……まあ、一応は」


「あれは良くないねえ」



ペノが唸るように言った。

ライラは困り顔で頷く。


出会ったころから、ユナは首飾りをしていた。

それは一見どこにでもある安っぽいアクセサリであった。

しかし、実は違う。

非常に高価な石が填められた首飾りだと、ライラは気付いていた。

売ればおそらく、数年は不自由なく生きられるだろう。



「親の形見だと言っていましたから、外させるわけには」


「だけどねえ、知ってる人からすればユナは歩く宝箱だよ。しかも孤児だし」


「盗まれるかもと?」


「それだけで済むかなあ」


「恐いこと言わないでください」


「まあ、そのうち教えてあげたほうがいい。少なくとも、ボクたちがこの街を出るまでにね」



ペノが両耳を揺らして言う。

「そうですね」と、ライラは眉根を寄せた。


長くともあと数年で、ライラたちはルーアムの街を去らねばならない。

不老であることを隠すため、また別の街で一から始める必要があるのだ。

ユナのことは気になるが、いつまでもライラたちが面倒を見ることは出来ない。



「首飾りなんてどうでもいい。働き口を探してやらねえとな」



ブラムが朝食の支度をしながら言った。

似合わない姿であるが、ブラムは料理が上手い。

しかも料理をするのが好きなのだという。



「それは当てがあります」


「へえ、ライラのくせに」


「くせにって……、まあいいです。とりあえずその当てに頼るまでは、私たちで面倒を見ましょう」


「俺は構わないぜ。楽ができるからな」



料理が好きなだけで、買い出しが嫌いなブラム。

にやりと笑って、包丁を宙で回す。

どうやらユナを想ってではなく、本心であるらしい。

鋭く輝く包丁が、ブラムの想いを吐きだしているように見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ