固め合い
「と、とにかく私は、メノスを出ます。……その、ブラムともお別れですね」
「お別れしたのはずいぶん前だったと思うがな」
「……そう、でしたね」
「……ああ。……あ、いや、そうじゃなくて、な」
「……え?」
「……そういうこと、言いに来たわけじゃねえ」
ブラムが白髪を掻き毟り、口の中をもごもごとさせる。
まるでほんの少し前の自分を見ているようだと、ライラは思った。
とすれば、ブラムも緊張しているということか。
「ライラ」
意を決したように、ブラムが口を開いた。
その目も、ライラの目を見据えている。
力強い、瞳の光。
ライラは思わず、息を飲みこむ。
「わ……悪かったな」
そう言ったブラムの瞳の光が、くるりと揺れた。
その光に、ライラは硬直する。
「俺が、お前を追い詰めたかもしれねえ。だから、その……すまなかったな」
「……え?」
「つまり、その、なんだ。こういうことは男から謝るもんだってよ」
戸惑っているライラの前で、ブラムがそわそわとしながら言葉を綴っていく。
その姿を見て、ライラは思考が止まっていた。
自分が謝るべきだと思っていたのに、ブラムから謝ってきたからだ。
いや、それよりも。
ブラムとはこういう男であっただろうか。
「な、なんか言えよ」
「え? あ、う、うん。あの……」
「まあ……許してもらわなくてもいいけどよ」
「ゆ、許すもなにも……!」
「な、なんだよ」
「そ、その・……わ……わた……」
「わた?」
「わ……私も、謝りたかった……から……」
喉の奥に引っ掛かっていた言葉。
それを無理やり引きずり出すようにして、ライラは言った。
言った直後、胸の奥がわずかに軽くなった。
ほんのわずかであるのに、ライラは全身に羽が生えたように感じた。
「謝りたかった、私も……。いつも、気を遣ってくれていたのに。ごめんなさい、ブラム」
「あ……? あ、ああ。そ、そうかよ」
「許してもらえなくてもいいけど」
「……そんなこと言わねえよ」
「え?」
「言わねえって。あの頃は、俺も……お前も、ガキだったんだ。くだらねえガキの喧嘩だったってよ」
「そう、ですね……」
「お前は、まだ見た目がガキのままだけどよ」
「……はい?」
「お前はまだ見た目がガキのままだけどよ」
ブラムが同じ言葉をあえて二度言った。
先ほどまでと違い、瞳の光に意地悪そうな色が見え隠れしている。
「……今、お互いに謝り合う流れでしたよね」
「謝った。それはもう終わっただろ」
「……ブ、ブラムの馬鹿!」
「な、なんだあ!? この馬鹿ライラ!」
「馬鹿って言わないで!」
「お前が先に言ったんだ、この馬鹿!」
「ま、また言った!?」
「うるせえ! ばあか!!」
漂っていた神妙な空気が、一転。
二人の口は突然軽くなり、互いに罵り合った。
とはいえ心から罵っているわけではない。
それだけは互いに分かっていた。
喧嘩する前に戻ろうと、確認し合うように言葉を飛ばし合っているだけだ。