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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
メノス村編 第五章 別れるために出会うのか
30/224

発覚

さらに月日が流れ、十年。

ユフベロニアだけでなく、大陸全土に争いごとが満ちはじめていた。

人間と魔族の戦いは一向に収まらず、主要な街がいくつか灰塵に帰したという。


幸い、メノス村には戦いの火が延びていなかった。

戦いの匂いが漂ってきてはいるが、この辺りは戦略的価値が一切ないらしい。

しかし村人の、魔族に対する思いには大きな変化が見られた。

やれ魔族は敵だの、畜生だのと、平気で宣わっている者もいる。



「……ブラムは、大丈夫かな」



ライラはぽつりと声をこぼした。

ここ数年、村の中でブラムの姿を見たことがない。

潜んでいるのか、村を離れたのか。

いずれにしても生き辛くしていることだろう。


村を包む空気に、ライラもまた息苦しい思いをしていた。

習慣にしていた散歩はもちろんのこと、気分転換の買い物もしづらい。

戦時中であるからか、贅沢な生活をしている者へ厳しい目が向けられるからだ。



「ブラム様の様子を見てきましょうか?」



窓の外を覗くライラに、リザが声をかけてきた。

リザにはブラムが魔族であることを教えている。

というより、教えざるを得なかった。

ブラムを心配しつづけているライラを、リザが妙に思っていたからだ。


ライラはリザの問いにしばらく考え、やがて首を横に振った。



「そこまでしなくていいです、リザ。私が気にかけていると知ったら、ブラムも嫌がるでしょうし」


「そうでしょうか」


「そうですよ。それより、買い物に行ってきてもらえますか?」


「畏まりました、ライラ様」



リザが一礼し、出掛けていく。

ライラはリザの背を見送り、寝室へ入った。


とんと、ベッドに腰かける。

木の軋む音とともに、空気がふわりと膨らんだ。

舞いあがった、かすかな埃。

窓から射しこむ光を受けて、ゆっくりと踊っている。


光の先に、鏡が置かれていた。

ライラの全身が、光に照らされて映っている。



「……ペノ」



ライラは鏡に映る自分を見ながら、声をこぼした。

ペノが目を細め、両耳をわずかに揺らす。



「……私、少なくとも三十歳を超えたと思うのだけど」


「うん、そうだねえ?」


「……変だと思わないの?」


「なにが?」


「私のことよ」


「うーん? 若いっていいことだよねえとは思うよ?」



ペノが、鏡に映るライラを見て笑った。


鏡に映っているライラの姿は、少女のままであった。

この世界に来て十五年は経っているのに、かすかにも変化していない。

もはや童顔なのだという言い訳もできないほどだ。


共に暮らしているリザはというと、見た目はライラより大人となっていた。

二十代後半の、見目麗しい女性である。使用人であることが勿体ないほどだ。

その比較により、ライラの幼い姿がさらに異様に見えた。



「……ねえ、ペノ。隠していることはない?」



ライラは心の内に溜まっていることを出来るだけ抑え、静かに尋ねた。

ここ数年、変化のない自身の姿についてずっと悩みつづけていたからだ。

しかし、ペノに聞くのが怖かった。

「ライラは人間じゃあないんだよ」と言われてしまう気がした。

そうなれば、ブラムのように潜んで生きなければならないかもしれない。

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