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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
メノス村編 第一章 はじまり
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泥の内より、花


服を買ったあと、ライラは井戸水で身体を洗おうとした。

しかし井戸水はあまりに冷たかった。

覚悟を決めて水をかぶったものの、ライラは思わず悲鳴をあげてしまった。



「あ、あんた! そんなことしちゃあ風邪ひいちまうよ!」



近くでライラを不思議そうに見ていた女が、目を丸くし、叫んだ。

すぐさま震えるライラの手を掴み、井戸の傍にあった家へ連れ込んだ。


家に入るや、女が湯を沸かしはじめる。

きょとんとしているライラから葉っぱをむしり取り、身体を湯で温めてくれた。

ついで、親切にもライラの全身を洗うことまで手伝ってくれた。


ライラの身体は驚くほどに汚れていて、湯を何度沸かしても足りないほどであった。

髪の毛に至っては土で固まっていた。髪を傷めずに洗うには長い時間を要した。



「ずいぶんひどい姿だったけど、見違えたねえ」



陽が傾きはじめたころ。

全身の泥を落としたライラの姿を見て、女が驚きの声を上げた。

ライラは細身で容姿の良い少女であった。

髪は赤みがかった黒。泥を洗い流したことで、腰まで届く美しい長髪がふわりと揺れた。



「本当にありがとうございます」


「いいのよ。まあ、ずいぶん薪を使っちまったけどねえ」


「……それは、その、本当に申し訳なく……」



ライラは俯く。

薪がどれほどの値段か分からないが、あれだけ湯を沸かすことなど滅多にないに違いない。

恐らく数日分の薪を使わせてしまっただろう。


しかし、ふと。

ライラは自らの手を見た。



(もしかしたら……)



手の中からまたお金が出せるのではないか?

さきほどの服屋で、服を買ったときのように。


そう考えたライラは、意を決して手をぎゅうっと握ってみた。

使わせた薪を思い浮かべ、その代金を想像する。

すると手の内に何かを握りしめたような感覚を覚えた。

ライラは自らの手を広げる。手のひらに、銀貨が二枚乗っていた。



(やっぱり、そうなんだ!)



ライラは確信した。

これこそ、ウサギがくれた「お金に困らない力」なのだ。

どうやら買いたいものに対して、必要な分だけのお金が現れるらしい。


ライラは女に深く礼をして、銀貨を手渡そうとした。

女は「多すぎる」と言って固辞したが、ライラは再三頭を下げ、無理やりに銀貨を押し渡した。

薪代だけでなく、その日の予定をライラに使わせてしまったからである。



「何か困ったことがあれば、またいらっしゃい」



別れ際、女がライラの黒髪をそっと撫で、送りだしてくれた。

ライラは感謝の言葉を伝え、女の家を去るのだった。

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