ズルい結末
ファロウの街を後にして、数日。
ライラの家馬車は、ライラが雇った騎士団に護られ、悠々と西方へ進んでいた。
誰に阻まれることもなかった。
それでも、西にあるカウナまではまだまだ距離があった。
「我々はカウナに着いたら、お役御免ということで」
騎士団の、声の大きい騎士が言った。
それで十分ですと、ライラは頭を下げた。
「いや、五十名ほど、残ってもらえるだろうか」
マーウライが口を挟んだ。
声の大きい騎士が、小さく首を傾げる。
「全員じゃあなくてですかい?」
「希望する者がいれば、何人でも構わない」
「なにをするっていうんで?」
「聖女さまの護衛だ」
「それはカウナまででしょう」
「カウナに着いてから十日以内に、私は聖女さまと離婚する」
「なんだって??」
「離婚後、ウォーレン地方から聖女さまを脱出させてほしい」
「あんたあ、聖女さまが嫌いなのかい??」
「まったくの逆だ。深く愛しているからこそ、聖女さまの身の安全を確実なものとしたい」
「ウォーレンじゃあ危険っていうわけか」
「ファロウの貴族たちは、今後聖女さまのことを良く思うことはないだろう。特に、あの男は」
「そりゃあ、そうでしょうとも。きっとあのお貴族様は聖女さまが憎くて憎くて仕方なくなりますよ」
「頭に血が上ったあの男は、私が早々離婚するとは考えないでしょう。次の手を打たれる前に、二手三手先へ行かなければ」
「それでも多少の手の者が来ると思いますがね」
「その通り。それを突破するために、あなたたちの力と威風堂々たるその姿が必要だ」
マーウライが騎士たちの甲冑を指差して言った。
その煌びやかな甲冑は、並の騎士団が身に着けるものよりも美しく映えていた。
「なるほど、そういうことなら五十。いや、百を残そう」
「ありがたい」
マーウライが頷き、声が大きい騎士の手を掴んだ。
そのふたりのやり取りを聞いていたライラは、唇をゆがめる。
しかし、一言も口を挟まなかった。
マーウライが決めることにすべて従うと、ファロウを出る前に決めていたからだ。
ライラが不快に満ちた顔をしていることに気付いたマーウライが、小さく笑った。
そうして、ライラの頬をそっと撫でた。
「私の姫君。どうか最後まで、護らせてください」
「……ズルいとは思わないのですか」
「それでも、あなたと、私のためです」
「マーウライのためになることなんて、なにひとつないです」
「あなたの夫になれたこと。この一瞬が私の人生の宝となり、千年輝くことでしょう」
「……そういうこと言うのが、ズルいのです」
ライラはがくりと項垂れた。
マーウライはきっと、心の底からそう思っている。
だからこそ、ズルいと思った。
マーウライも。
自分自身も。
項垂れているライラを、マーウライの優しい手が慰めた。
ライラは顔を上げなかったが、そのまま、ズルく、優しい手の下に収まった。
ライラと後ろで、ブラムとペノが苦笑いした。




