考えてるさ
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「加減ってものを知らねえのか」
ブラムが呆れ顔で言った。
目の周りを真っ赤に腫らしたライラは、細腕を振り上げ、もう一度ブラムの頬を打った。
その攻撃を、ブラムが避けることはなかった。
甘んじて受け、呆れ顔だけライラへ向けている。
馬鹿にされている気がして、ライラは何度も腕を振った。
そうしているうち、手首に痛みが走った。
「やりすぎだよ、ライラ」
ペノの声が、ライラの手を止めた。
ライラの手と腕が、真っ赤に腫れ上がっていた。
手首のあたりに至っては、打ちどころが悪かったのか血が滲んでいた。
「ブラムの顔より、ライラの細い腕のほうが重症だよ」
「……う、っるさい!」
「はいはい。ブラムの顔は後で何度でも叩いていいから、今は治療をしようね?」
「……う、るさいって、ばあ……!」
「はいはい」
ペノが両耳を垂らし、ため息を吐いた。
それを見ていたマーウライも、微かに目を細め、ライラの傍から身を引いた。
ブラムの頬に、血が付いていた。
ブラムの鼻から流れたわずかな血だけではない。
ライラの手から滲みでた血が、ブラムの血と混ざって、ブラムの頬を染めていた。
「……無茶しないって、約束なのに!」
「多少はするさ。相手がお貴族様なんだぜ」
「最初から、そうする予定だったの……? 私、聞いてない……!」
「最後の手段を言ったら、お前、やってなかったろうが」
「当たり前です。私の気持ちも考えて……」
「考えてるさ」
「考えてない……」
「考えてるって」
そう言ったブラムが、ライラの後ろに視線を向けた。
マーウライを見ているのだと、振り向かなくても分かった。
それが、ライラには許せなかった。
自分以外の誰かが、自分の未来を勝手に決めていく。
それだけではない。
ライラが秘かに大事にしていたものまでも、勝手に触れ、置き換えようとする。
それを見過ごせるような度量など、ライラにはなかった。
「……次やったら、絶対許さないから」
「……お前、許せねえことが多すぎじゃねえか」
「うるさい! とにかく、許さないから!! マーウライ! あなたもですからね!?」
「誠に申し訳ありません」
マーウライが膝を突き、ライラに向かって頭を下げた。
あまりに素直に謝罪するマーウライを見て、ブラムが苦い顔をした。
ライラはふたりの様子を見て、ようやく気持ちが落ち着き、振り上げつづけた拳を下ろした。




