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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十六章 聖魔のはじまり(後編)
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ハッタリ


「そのクソに振り回されて、死ぬことに悔いはないのかね」



ヘイリグラウスの血涙の紅い光を揺らしながら、ソウカンが言った。

ブラムは小さく笑い、ほんの少し、後方の家馬車へ視線を向けた。



「ないね」


「君たちにとって、あの小娘なんぞ、たいした価値はないだろう」


「さあて、どうかな。贅沢はできるぜ」


「その贅沢も、早々に飽きたのではないかね」


「まあな」


「ならば、なぜ? お前たちが恋仲ですらないことは知っている。友だとしても、種族すら違うだろう。なのに命を捨てるほどの価値が、あると言えるか??」



そう言ったソウカンの顔が、なにかと重なった気がした。

ペノが見せた幻の中の、ライラに敵意を向ける異様な影のひとつ。

ソウカンの姿が、あそこにあったのではないか。

とすれば、これからも――



「……はは」


「なにがおかしい?」


「くだらねえ」


「なに??」


「どいつもこいつも、くだらねえってんだ」


「……なんのことだ」



ソウカンが首を傾げた。

ブラムは間を置いて、懐から小さな魔法道具を取り出した。

その魔法道具は、紅い光を放っていた。



「俺は俺だ」


「……なんの話だ……それより、その魔法道具は……?」


「ライラはライラだ」


「……おい、その魔法道具はなんだ……??」


「守るだのなんだの、知ったこっちゃねえ。価値だのなんだのもそうさ。お前らが、俺を、ライラを量るんじゃねえぞ」


「だから、なんの話をしている!? それ、より、おい……!! そ、その魔法道具だ! それは、それはなんだ!??」



喚くソウカンの目。

ブラムの取り出した魔法道具へ、釘付けとなった。

その魔法道具から放たれる、紅い光。

ソウカンの手にある魔法道具の光に酷似していた。



「……バ、バカな」



ソウカンの声が、震えて落ちた。

頬が引き攣り、化粧の裏にあった深い皴がぐしゃりと歪んだ。



「あり得ん……!」


「そう思うかよ」


「あり得んだろう! 何故だ!!」



ソウカンが悲鳴に似た声をあげた。

同時に、自らが持つ魔法道具、ヘイリグラウスの血涙に視線を向けた。


ヘイリグラウスの血涙は、希少な魔法道具だった。

この世にふたつとない。そう言ってもいいほどの逸品だった。

つまり、ブラムが持っている魔法道具は偽物だ。

装飾だけを似せ、ただ禍々しい紅い光を放つだけの安物である。

そのハッタリの光を、ソウカンに向けていた。



「偽物だ! それは!!」


「どうかな」


「お前たちにどれほどの金があったとしても、簡単には手に入れられん物だ!!」


「そうらしいな」


「ハッタリだ!!」


「そうかよ」



喚き散らすソウカンを前にして、ブラムが一歩、前に進んだ。

その一歩の重圧に、ソウカンの顔がひどく歪んだ。



「偽物だ!!」


「そうかもしれねえな。試してみりゃあ分かるさ」


「なにい??」


「試してみろよ。お前がその魔法道具を使った瞬間、俺あ絶対、俺が死ぬ前に、俺の意識が飛ぶ前に、俺のこの魔法道具でお前を必ず、殺す!」


「で、出来るものか! 出来たとして……あの小娘のために、死ぬ気か!? ああ!??」


「るせえ。元々殺るつもりだったろうが。それにそいつあお前らが決めるこっちゃねえ。俺と、ライラが決めることさ。だからよ、試してみりゃあいい。おい、ソウカン。さっさとやってみようぜ!」



そう言ってブラムは、さらに一歩進んだ。

圧されたソウカンが、再び悲鳴をあげた。

その声に、ソウカンの馬が反応した。

前足を跳ね上げ、暴れ、ソウカンを地面に叩き落とした。


地面に落ちたソウカンが、びくびくと身体を震わせた。

周囲にいた騎士たちが、慌ててソウカンを介抱した。



「ソウカン!! やるのか、やらねえのか!!」



追い撃つようにして、ブラムは叫んだ。

すると捻り潰れたような声が、小さく上がった。

ソウカンを囲む騎士たちが、しんと静まった。

ソウカンが気を失ったのだと、ブラムはなんとなく察した。



「ロジー! そろそろ仕事しろ!」



ブラムは翻り、ソラに向かって叫んだ。

すると雲ひとつない空から、万雷が降りそそいだ。

降りそそいだ雷の矢が、ソウカンの騎士たちと、ライラの騎士たちの間に勢いよく落ちた。


それが止めとなった。

ソウカンの騎士たちは慌てふためき、ついには統率を失った。

意識を失って倒れているソウカンを捨て、這う這うの体で逃げ散っていった。



「これでもう少し時間が稼げるだろうよ」



ブラムは家馬車まで戻り、ニヤリと笑った。


直後。

馬車の中から、細い腕が飛び出てきた。

マーウライに無理やり押しとどめられていた、ライラの細腕だった。

突然のことに、ブラムはその細腕を避けることができなかった。

ライラの細腕の先の小さな拳が、ブラムの顔面を撃つ。


それからしばらく。

頑丈なブラムの顔面から鼻血が出るまで。

泣きじゃくるライラが、ブラムを殴りつづけた。


ブラムは呆れ顔で、ライラの小さな拳を受けつづけるのだった。

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