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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十六章 聖魔のはじまり(後編)
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荒業


しばらくの間を置いて。

ファロウの街のいたるところから、花火があがった。

その火は明らかに、ブラムの花火に呼応していた。


同時に、地鳴りがひびく。

その地鳴りは、街中で上がる花火に合わせてひびいた。



「な、何ごとだ??」



ソウカンが辺りを見回した。

ライラたちを取り囲む騎士たちも、辺りを見回し、恐れはじめた。


やがて地鳴りが、徐々に近づいてきた。

一方からではなく、四方八方から迫ってくる。

恐れおののくソウカンの騎士たちが隊列を乱しはじめた。



「あれは、なんだ!?」



騎士たちの中のひとりが、大声をあげた。

その声が向く先に、光があった。

光は揺れ動いていて、近付きながら数を増やしていった。

その光の数は、ソウカンの騎士たちの数よりも多くなった。



「魔法だ! 魔法の中に、軍隊がいるぞ!」



光を覗いて、ソウカンの騎士が叫んだ。

それを合図に、無数の光が膨れあがり、ソウカンの騎士たちを取り囲んだ。


光の中には、煌びやかな甲冑に身を包む騎士たちがいた。

その騎士たちは、ソウカンの騎士たちよりも豪壮で、尚且つ数が多かった。

「一千騎はいるな」と、ブラムが驚くように声をこぼす。



「い、いったいどこの軍だ!?」



突然現れた軍隊に、ソウカンが悲鳴に似た声をあげた。

その悲鳴は、動揺するソウカンの騎士たちによって掻き消された。


光の中から現れた騎士たち。

ソウカンの騎士たちを押し潰すように囲いを狭めていった。

圧倒されたソウカンの騎士たちは、すっかり戦意を失った。

やがて槍や剣を捨て、頭を垂れていく。



「どけい!!」



煌びやかな甲冑を着た騎士が、大声をあげた。

そうして戦意を失ったソウカンの騎士たちを押しのけ、ライラのほうへ進んできた。



「お待たせしましたかな」



大声をあげた騎士が、ライラに向かって一礼した。

ライラは小さく首を横に振ってみせた。



「問題ありません。来てくれてありがとうございます」


「なんの。当然です」


「宜しければ、街の外まで護衛していただいても?」


「もちろんです。なんでしたら、目の前の有象無象を蹴散らしましょうか」


「必要ありません。もう決着はつきましたから」



ライラはそう言って、動揺しているソウカンの騎士たちを見た。

恐れと、不安が、彼らを襲っていた。

なにが起こったのか、未だ混乱している者もいた。



光の中から現れた騎士たちの正体。

それは、ライラが雇った傭兵たちだった。

金に糸目をつけず、ファロウ近郊の何十もの傭兵団をすべて雇ったのだ。

そうして集めた傭兵たちに、煌びやかな甲冑を買い揃えた。


見た目さえ整えば、荒くれの傭兵たちも立派な騎士に見えた。

大金を湯水のように捨てられるライラだからこそできた荒業だ。



「本当に今日一日だけで、あの大金をくれるんですかい?」



大声をあげた騎士が、笑いながら尋ねてきた。

ライラは微笑みながら頷いてみせた。



「貴族様に逆らうのですから、当然の報酬でしょう」


「分かってらっしゃる。あんたに貰った金で、パーウラマにでも行くとするさ」


「パーウラマ地方は、まだ戦が多いですか」


「魔族との戦だけじゃねえもんでね、最近は。魔物や魔獣とも戦うことがあるらしい」


「魔獣とも?」


「だが、あんたに貰った金さえあれば、十分に準備していけるんで。俺たちにチャンスをくれたあんたには感謝してもしきれねえってわけでさ」


「それは良かったです」



ライラは小さく笑い、集まってくれた騎士たちに礼を伝えた。

騎士たちもまた、ライラに深く礼をして、腰に帯びた剣を打ち鳴らした。

その力強い音が、周囲を威圧し、ソウカンの騎士たちに止めを刺した。

ソウカンを置いて逃げ出す者すらいる始末だった。



「……だが、これで終わりじゃねえな」



ブラムが緊張を帯びた声を吐いた。

ブラムの視線の先には、ソウカンがいた。


ソウカンの目は、未だにぎらりと光っていた。

現状に動揺してはいるが、なにひとつ諦めてはいないようだ。

その理由は、すぐに分かった。



「ライラ、後ろに下がれ」


「あ、なに、ブラム?」


「いいから下がれ。早くしろ」



ブラムが声を荒げた。

なにかを察したマーウライが、ライラの手を掴んだ。

そうして素早くライラを馬車の中へ押し込んだ。



「ど、どうしたの??」



ライラは首を傾げ、馬車から身を乗り出そうとした。

しかしすぐさま、マーウライに押しとどめられた。



「ソウカンの手に、魔法道具がありました」


「……何の魔法道具ですか?」


「伝説級の魔法道具、『ヘイリグラウスの血涙』です」


「ヘイリグラウス……!」



ライラは大声をあげ、もう一度馬車から飛びだそうとした。

ヘイリグラウスの血涙は、狙った相手を必ず殺すことができるという必殺の魔法道具なのだ。

その凶器のために、ライラは昨日までソウカンに屈していたのである。


あの凶器が、ブラムに向けられているというのか。

今。この瞬間も。



「ブラム!!」



叫び声をあげた。

しかし叫ぶライラをマーウライが押しとどめた。

馬車から飛びだしていかないように、ライラの細い身体を抱いて、抑え込んだ。



「どいてください!!」



マーウライの腕の中。

ライラは怒鳴った。

しかしどれほど怒鳴っても、マーウライがライラを離すことはなかった。



「行かせることはできません、ライラ様」


「いいから!! どいて!!」


「ダメです。ライラ様」


「どいてったら!!」



ライラは、邪魔をするマーウライを何度も押した。

しかしマーウライが道を開けることはなかった。

ライラは鬱陶しくなり、マーウライの腕に噛みついた。

それでもマーウライは、首を横に振り、ライラを押しとどめた。

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