小者がキレると、どうしようもない
「おいでなすったぜ」
「誰が?」
「決まってらあ」
ブラムが言うや、馬車が減速をはじめた。
どうやら前方に、ソウカンの騎士たちが見えたらしい。
馬車が止まると同時に、ブラムが馬車から飛び下りた。
マーウライも馬車から下り、最後にライラも馬車を下りた。
ファロウの外へ向かう道路の先。
整然とならぶ騎士たちがいた。
鋭い槍を構え、じわじわとライラたちのほうへ詰め寄りはじめていた。
馬車の後方にも、騎士たちが迫っていた。
その騎士たちは、前方で待ち構えていた騎士たちよりも多かった。
「……ソウカン様」
後方から迫る騎士たちを見て、ライラは声を落とした。
追いかけてくる騎士たちの先頭に、一台の馬車。
ソウカンが乗る、貴族の馬車だった。
ライラたちの家馬車に近付くと、その貴族の馬車から、ソウカンが下りてきた。
「お迎えに参りました」
ソウカンが、微笑みながら言った。
その笑みに、ライラはぞくりとする。
「お別れを、先ほど済ませましたが」
「ええ、その通り。ですから再びお迎えに」
「もう十分です。どうか道を開けてください」
「はは。まさかまさか」
ソウカンが笑いながら、歩み寄ってきた。
その一歩一歩が、妙な威圧感を吐いていた。
ライラは心底震えあがったが、かろうじて耐えた。
傍にいたマーウライと、ライラの前に立つブラムが、ライラの小心をなんとか立たせてくれている。
「お別れです、ソウカン様」
「震えていらっしゃる。無理をなさいますな、聖女さま」
「それ以上近付かないでください」
「そうは参りません」
「ソウカン様、本当に、お願いします」
「ははは。まさかまさか」
ソウカンが首を横に振った。
そうしてまた一歩、ライラへ寄った。
「我々はこの先にために、あらゆる計画を立ててきました。もはや覆すこと叶わぬところまで、進んできました。どれほど手を汚しても、伸ばしたこの手を引くことはできないのです」
そう言って、ソウカンが右手をあげた。
一拍置いて、前後から迫っていた騎士たちがライラの家馬車を囲った。
五百騎はいるだろうか。
ソウカンが放つ威圧感とは別の、鋭い圧がライラに触れた。
ただの脅しではない。
一騎一騎が、語っているようだった。
「ソウカン様。取り返しがつかないと、そう思いませんか」
「そのようです。しかし聖女さまひとり手に入れたなら、すべて取り戻せます」
ソウカンの目が、ぎらりと揺れた。
人ではない。魔物のような目だとライラは思った。
その魔物が、右手をゆっくりと下ろす。
手の先が、ブラムと、マーウライへ向いていた。
殺すのか。
ふたりを。
そう問わなくても、ソウカンの目がすべてに答えていた。
(……許せない)
ライラの心の内に、赤黒い火が灯った。
その火が、怒りなのだと、間を置いて気付く。
抑えがたい感情だった。
これまでの怒りとはまったく別のものだと、はっきり分かった。
「……ブラム。合図を出して」
ライラは、前に立っていたブラムに声をかけた。
ブラムが無言で頷き、両腕を上げた。
ブラムの手には、筒型の魔法道具が握られていた。
その魔法道具は、花火を打ち上げる炎の魔法が込められていた。
ブラムが魔法道具に力を込めると、筒の先端が真っ赤に輝いた。
「ソウカン。うちのお姫様が小者なうちに、手を引いておくんだったな」
「なに??」
「小者って奴あ、キレると手が付けられねえもんだ」
「何のことだ??」
ソウカンが首を傾げる。
直後。ブラムが握る魔法道具から花火が放たれた。
その火は高く上がり、ファロウの街の上空で弾けた。




