今言うから、ちょっと待ってて
静寂が、佇んでいた。
誰も彼も、ライラの一挙手一投足を見守っていた。
息苦しいなと、ライラは心の内で苦い顔をする。
緊張で吐きそうになった。
これほど多くの人々に注目されるほど、自分は立派な人間ではない。
どうしてこうなったのかなと、刹那、ライラは自らの三百年を振り返り、心の内でため息を吐いた。
「本日はお別れの挨拶に伺いました」
ライラは努めて凛とした表情のまま、静かに言った。
その声は、静寂の中で強くひびいた。
「…………どういうことですかな」
間を置いて、ソウカンが返した。
にこやかな表情だった。
しかしその裏には凄まじい怒りが渦巻いていると、ライラは感じ取った。
「そのままの意味です。私は急いでカウナへ行かなければなりません」
ライラは、ソウカンの怒りを前にして言い切った。
声が震えなかったという奇跡に、心の内でほっとする。
「……ほう、カウナへ」
「はい」
「本日の晩餐会よりも、大事な用件ですかな」
ソウカンの顔から、笑顔が剥がれはじめていた。
それはそうだろう。
ライラの後ろ盾になってくれていたソウカンの元を去るのだ。
しかも晩餐会の前に。
面子を潰すも同然のことなのだ。
そうしてまでも去る理由があるのかと、ソウカンの目がぎらりと光った。
そうなるだろうと、ライラも分かっていた。
だからこそ、その理由を答える。
いや。
答えられるのか。
言えるのか。
本当に?
「ランファ様?」
ソウカンが急かすように言葉を繋いだ。
ライラはハッとして、ソウカンの目を見据えた。
そうだ。
言うしかない。
言うしか――
「……お……」
声を出した瞬間、声が震えた。
顔も熱くなった。
「お?」
ソウカンが首を傾げた。
うるさいな。
ちょっと待ってて。
今言うから、ちょっと、ああ、もう――――!
「……お、夫、の……!」
「……夫?」
「お、夫の、用で、今すぐ、共に帰らなくては、ならないので……す!」
「……な……は?」
ソウカンがぽかりと口を開けた。
なにを言っているのだと、呆れ果てた顔だ。
それはそうだろう。
ライラもそう思った。
「……夫とは、その従者かね?」
「ち、違います!」
即答した。
ブラムは、そういうのではない。
そういうのでは――
「――私です。ソウカン殿」
即答しつつも戸惑うライラを助けるように、凛とした声が通った。
その涼やかな音に、周囲にいた人々が目を向けた。




