しゃんとしろ
間を置いて。
馬車の中から、ふたりの男女が現れた。
ブラムと、アルサファだった。
ふたりは馬車を降り、馬車の扉の前で恭しく頭を下げた。
「思っていた以上に仰々しくなりましたね」
馬車の中から、少女の声が鳴った。
その声に向け、ブラムとアルサファがさらに頭を下げた。
馬車から最後に現れたのは、ライラだった。
ライラは美しくも淑やかなドレスに身を包んでいた。
その美しさを讃えるように、空からさらなる光が射し込んで、ライラを包んだ。
「ロジーも、やりすぎね」
光に目を細め、ライラは小さく言った。
恭しく頭を下げていたブラムが、かすかに笑った。
空から光を注いでいたのは、ロジーだった。
美しい鐘の音も、直前まで馬車が見えなかったのも、すべてロジーの魔法によるものだ。
「きっと空の上でヘロヘロになってるぜ」
「そうですね。こういう演出をするのは面倒だって、嫌そうな顔をしていたもの」
「まあ、たまには働いたほうがいいってもんだ」
ブラムが唇の端を持ちあげると、同意するようにライラは頷いた。
そうしてライラは、ブラムの手を取り、馬車を降りる。
ライラの後ろを、アルサファがしとりと付いて歩いた。
ライラたちの様子を見ていたすべての人は、静まりかえっていた。
先ほどまで騒めていた民衆も、息を止めているかのようだった。
屋敷の前庭に集まっていた貴族たちは、幾人かぽかりと口を開けている。
なにを言うべきか、どのようにするべきか、思考が止まっているようだった。
「……ようこそおいでくださいました、ランファ様」
最初に口を開いたのは、ソウカンだった。
その声をきっかけにして、貴族たちがようやく我に返っていった。
「想像を超えたご登場でした。さすがは我らが聖女さまです」
「そう思っていただけたなら、良かったです」
ライラはにこりと笑い、ソウカンへ返した。
しかしライラの心の底にある恐れは、消えていなかった。
もしもこの恐れが溢れでたら、どうなるか。
ソウカンへの恐怖に、全身を震わせてしまうのではないか。
その想いを察してか。
ライラの手を取っていたブラムが、ライラの細い手指をぐっと強く握った。
「心配すんじゃねえ」
「……う、うん」
ライラは小さく頷く。
同時に、身体が少し、熱くなった。
掴まれた手から、ブラムの熱が伝わってきたからか。
それとも――
「よし、じゃあ、行け」
ライラの背を押すように、ブラムが手を離した。
「わ、わかってます」
「しゃんとしろ」
「わかってますってば」
ライラはぐっと唇を結び、ほんの少しだけ胸を張った。
その様子を見て、ブラムが小さく笑った気がした。




