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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十六章 聖魔のはじまり(後編)
239/252

晩餐会、当日の朝


    ◆


  ◆




晩餐会当日。

ファロウの街は、祭りの日のように賑わった。

いや、実際そうなのか。



「大貴族が、派手に集まる日だからねえ」



呆れ顔でペノが言った。

なるほどと、ライラは頷く。


たしかに、着飾った大貴族の馬車が、街中を進む様は見物だ。

しかも、ファロウの外の貴族も来るという。

今年の晩餐会は、例年とは違い、さらに華やかになる。

噂話が好きな民衆は、そうしたことを知っていたようだった。



「まあ、今年誰よりも注目されるのはお前だろうよ」



ブラムが揶揄うように言った。

ペノが同意して、長い両耳を振り回した。



「自分の馬車と護衛を着飾るだけでなく、街を花で飾りまくったんだからねえ」


「狂ってるとしか言えねえぜ」


「ホントだよねえ」


「……褒めてないですよね?」


「褒めてる褒めてる」


「ああ、もう、うるさいなあ、もう」



ライラはペノを鷲掴みにして、ベッドへ放り投げる。

ベッドの上で数度跳ねたペノが、可愛らしい鳴き声を数度あげた。

その鳴き声を聞き、アルサファがライラの寝室へ飛び込んできた。

どうやら晩餐会当日ということもあり、神経過敏になっているらしい。



「何ごとっ……も、ない……ですね」



アルサファがほっと胸を撫で下ろした。

ライラは申し訳なさそうにしてアルサファへ寄る。



「ごめんなさい、騒がしくして」


「いいえ、大変失礼いたしました」


「……これから、もっと大騒ぎが起こるのです。今、こんなウサギのせいで神経をすり減らすわけにはいきませんね」


「最悪の場合、史に刻まれる一日となるでしょう」


「そうならないよう、穏便に事を進めましょう。ブラム、そろそろ出掛ける準備をしてください」


「とっくに終わってら。あとはお前の身体ひとつだ」


「本当に? 他の皆さんは?」



ライラはブラムからアルサファへ目を向けた。

アルサファが小さく頷いた。

どうやら本当に、なにもかも準備を終えているらしい。


とすれば、本当に後戻りはできない。

今、やはりソウカンは恐いと泣いて喚いても、ブラムは聞き入れてくれないだろう。

アルサファでさえ、首を横に振るかもしれない。



「じゃあ、やるしかないですね」



ライラは唇を結び、胸を張った。

細身の身体に、無理やり力を漲らせる。

そうしなければ、恐怖に押しつぶされそうだった。



「心配すんじゃねえ」



ブラムがライラの頭にとんと触れた。



「最悪の結果になっても、流血沙汰にはさせねえよ」


「……信じますよ?」


「あたりめえだ」


「ずいぶんな自信ですね」


「そりゃあ、そうさ。俺あ、お前を守るって決めてんだからよ」



表情を変えることなく、ブラムが言い切った。

恥ずかしいセリフだなと、ライラは思った。

しかしブラムが言うと、そうでもない。

気障な言葉ではない。

重みのある言葉に思えた。



「……私だけじゃ、困りますよ」


「分かってら。お前が守りてえもんも守らなきゃ、お前はすぐにベソかくからよ」


「そうですよ。だから、お願いね」


「ああ」



そう言ったブラムが、ライラの頭から手を離した。

手から、頭までの、その空白が、少し寂しい気がした。

その寂しさで、ライラは少し口元を震わせた。

するとブラムの手が再びライラの頭へ伸びた。


しかし、とんと乗るわけでもなく、撫でてくれるわけでもなかった。

ライラの頭へ伸びたブラムの手は、その小さな頭をコツリと叩いた。



「いっ……た! あ!」



ライラは頭を押さえ、ブラムを睨む。

しかしブラムは臆する様子を見せず、かかっと笑った。



「ちんたらしてんじゃねえ、馬鹿ライラ。とっとと行くぞ」


「ば、馬鹿って言わないで!!」



ライラの喚き声が、屋敷にひびきわたった。

わずかな間を置いて。

アルサファが、小さく笑った。

つづけて、使用人たちの幾人かが笑う。


屋敷に沈んでいた暗闇が晴れたようだ。

喚きつつも、ライラはそう思うのだった。

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