晩餐会、当日の朝
◆
◆
◆
晩餐会当日。
ファロウの街は、祭りの日のように賑わった。
いや、実際そうなのか。
「大貴族が、派手に集まる日だからねえ」
呆れ顔でペノが言った。
なるほどと、ライラは頷く。
たしかに、着飾った大貴族の馬車が、街中を進む様は見物だ。
しかも、ファロウの外の貴族も来るという。
今年の晩餐会は、例年とは違い、さらに華やかになる。
噂話が好きな民衆は、そうしたことを知っていたようだった。
「まあ、今年誰よりも注目されるのはお前だろうよ」
ブラムが揶揄うように言った。
ペノが同意して、長い両耳を振り回した。
「自分の馬車と護衛を着飾るだけでなく、街を花で飾りまくったんだからねえ」
「狂ってるとしか言えねえぜ」
「ホントだよねえ」
「……褒めてないですよね?」
「褒めてる褒めてる」
「ああ、もう、うるさいなあ、もう」
ライラはペノを鷲掴みにして、ベッドへ放り投げる。
ベッドの上で数度跳ねたペノが、可愛らしい鳴き声を数度あげた。
その鳴き声を聞き、アルサファがライラの寝室へ飛び込んできた。
どうやら晩餐会当日ということもあり、神経過敏になっているらしい。
「何ごとっ……も、ない……ですね」
アルサファがほっと胸を撫で下ろした。
ライラは申し訳なさそうにしてアルサファへ寄る。
「ごめんなさい、騒がしくして」
「いいえ、大変失礼いたしました」
「……これから、もっと大騒ぎが起こるのです。今、こんなウサギのせいで神経をすり減らすわけにはいきませんね」
「最悪の場合、史に刻まれる一日となるでしょう」
「そうならないよう、穏便に事を進めましょう。ブラム、そろそろ出掛ける準備をしてください」
「とっくに終わってら。あとはお前の身体ひとつだ」
「本当に? 他の皆さんは?」
ライラはブラムからアルサファへ目を向けた。
アルサファが小さく頷いた。
どうやら本当に、なにもかも準備を終えているらしい。
とすれば、本当に後戻りはできない。
今、やはりソウカンは恐いと泣いて喚いても、ブラムは聞き入れてくれないだろう。
アルサファでさえ、首を横に振るかもしれない。
「じゃあ、やるしかないですね」
ライラは唇を結び、胸を張った。
細身の身体に、無理やり力を漲らせる。
そうしなければ、恐怖に押しつぶされそうだった。
「心配すんじゃねえ」
ブラムがライラの頭にとんと触れた。
「最悪の結果になっても、流血沙汰にはさせねえよ」
「……信じますよ?」
「あたりめえだ」
「ずいぶんな自信ですね」
「そりゃあ、そうさ。俺あ、お前を守るって決めてんだからよ」
表情を変えることなく、ブラムが言い切った。
恥ずかしいセリフだなと、ライラは思った。
しかしブラムが言うと、そうでもない。
気障な言葉ではない。
重みのある言葉に思えた。
「……私だけじゃ、困りますよ」
「分かってら。お前が守りてえもんも守らなきゃ、お前はすぐにベソかくからよ」
「そうですよ。だから、お願いね」
「ああ」
そう言ったブラムが、ライラの頭から手を離した。
手から、頭までの、その空白が、少し寂しい気がした。
その寂しさで、ライラは少し口元を震わせた。
するとブラムの手が再びライラの頭へ伸びた。
しかし、とんと乗るわけでもなく、撫でてくれるわけでもなかった。
ライラの頭へ伸びたブラムの手は、その小さな頭をコツリと叩いた。
「いっ……た! あ!」
ライラは頭を押さえ、ブラムを睨む。
しかしブラムは臆する様子を見せず、かかっと笑った。
「ちんたらしてんじゃねえ、馬鹿ライラ。とっとと行くぞ」
「ば、馬鹿って言わないで!!」
ライラの喚き声が、屋敷にひびきわたった。
わずかな間を置いて。
アルサファが、小さく笑った。
つづけて、使用人たちの幾人かが笑う。
屋敷に沈んでいた暗闇が晴れたようだ。
喚きつつも、ライラはそう思うのだった。




