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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十六章 聖魔のはじまり(後編)
238/252

格好良くない決断


 ◇


   ◇


     ◇




その日の夕刻まで、ブラムはマーウライと共にライラを説得しつづけた。

最後の最後まで、ライラが納得した表情を見せることはなかった。

しかし諦めに似た覚悟を、ようやく決めてくれた。


ライラの覚悟を聞いて、ブラムは早々に動きだす。

というより、いつでも動けるよう、事前に準備を進めていた。

正直、ライラがどう答えようと、ライラを街の外へ逃がす計画を実行に移すつもりだった。

最後の手段を取らずに済んだと、ブラムは安堵していた。



「いや、しかし、ずいぶん四方八方へ手を回したね」



マーウライが呆れるように言った。

マーウライの前には、いくつかの木箱が置かれている。

そのうちのひとつは、クナド商会に手を尽くさせ、用意したものだった。



「まあ、全部必ずライラが金を払うって言っておいたからよ。どいつもこいつもしっかり動いてくれたぜ」


「それはライラ様の人徳だろう」


「そういうこった。あいつは周りに結構慕われてるってことを、意外と理解してねえ。それが分かってりゃあ、もっと上手く生きられるんだがよ」



そう言って、ブラムはライラのほうを見た。


ライラは、眠っていた。

ブラムがかき集めたものに、「お金に困らない力」を使わせたからだ。

今回、ライラの手から溢れでた金貨は、なかなかの量だった。

そのためライラは、魔力を使い過ぎて早々に倒れた。



「それもライラ様の良いところだ」


「どうだかな」


「少なくとも、ブラム。君はそう思っているだろう」



マーウライが片眉を上げた。

ブラムは口の端をかすかに歪ませ、マーウライから目を背けた。


ライラの良いところも、悪いところも、知っているつもりだった。

知っていくことで、いつかは通じ合える。

すべてを清算できる。

そう思っていたときがあったからだ。


しかし、違っていた。

互いに互いを知り合っても、通じ合えないところがある。

むしろ、長い時をかけたことで、大きな壁を感じるところがある。



「……てめえが羨ましいよ」



ため息を吐きだした。

ずいぶんと正直な言葉が吐き出したものだと、瞬時に自嘲する。


マーウライは、ブラムとは違う視点で、ライラを知っている。

良いところも、悪いところも、マーウライの視点で知り得ている。

ライラも、きっとそうだろう。

そしてふたりには、ブラムとライラの間にあるような壁は、おそらくない。



「私は、逆だがな」


「……ああ?」


「お互い、相手を羨んでいるというわけだ」


「……そうかよ」


「そうとも」



そう言ったマーウライが、眠っているライラに目を向けた。

優しく、美しい目だと、ブラムは思った。

その思いを察してか、マーウライが片眉を上げてブラムに視線を移した。



「いや、しかし。せめて今日と明日だけは、私を羨んでほしいな」



不敵な笑みだった。

苛立ちを覚えたが、やはり美しい目だなと、ブラムは思った。

次いで、両手のひらをマーウライに向けた。



「……分かってら。今回、この話を持ち掛けたのは、俺だ」


「潔いな」


「ライラを守るためだ」


「そうだな。そのために我らは明日、互いの心を踏み砕くとしよう」



マーウライが頷き、懐に手を入れた。

懐から取り出されたものは、契約の魔法道具の一種だった。

ブラムはその魔法道具を横目に、眠っているライラを抱き上げた。

数瞬、ライラが目を覚ました。

しかしすぐに、ブラムの腕の中でウトウトしはじめた。


ブラムはライラを寝室へ運び入れた。

後ろから、アルサファも寝室へ入ってきた。

アルサファは、使用人顔負けの手際よさで、ライラがすぐにベッドへ入れるよう整えていった。

そうして整えられたベッドへ、ブラムはライラを横たわらせる。


ベッドに横になったライラが、もぞもぞと身体をくねらせた。

アルサファがライラのために、上からそっと布をかぶせた。

かぶせられた布を、ライラがもぞもぞと抱きかかえ、小さな声でなにかを言っている。

その声は聞き取れなかった。



「……じゃあ、やるか」



もぞもぞと動くライラを見て、ブラムは小さく息を吐いた。

後ろにいたアルサファとマーウライが、無言で頷く。


契約の魔法道具を手にしていたマーウライが、ライラの傍へ寄った。

ブラムはマーウライのために身を引く直前、ライラの手に、少し触れた。

するとライラが、小さく指を動かし、ブラムの手に触れ返した。



「……ライラ」


「……ん、んう」



ライラが寝惚けながら返事した。

ブラムは口元を緩ませ、ライラの細い指を、ほんの少し摘まんだ。



「……なあ、ライラ。まだ……マーウライのことが、好きかよ……?」



聞きながら、ブラムは自らの胸が締め付けられたような気がした。

そんな気がしただけだと、ブラムは小さく首を横に振った。



「……ん、んう、ん……す、好き、だけど……」


「……そうか」


「……う、ん、ん、な……に……」


「……いや、なんでもねえ」



ブラムはライラの細い指を摘まみながら、目を細めた。

そうして、傍へ来ていたマーウライのために、その場を譲った。


マーウライが、ほんの少し、申し訳なさそうに俯いた。

ブラムはマーウライの肩を軽く小突いた。

「さっさと決めちまえ」と、口の端を持ち上げてみせた。

そうすることで、マーウライの覚悟が決まったようだった。

手にしていた契約の魔法道具を、ライラに向けた。



「ライラ様。大事なお話があります」



マーウライの声。

寝惚け眼のライラを小突いた。


その夜。

その場にいた四人、皆が自らの心を誤魔化した。

格好良くもない、呆れた決断だと、ブラムは思った。

ライラも、そう思っただろう。


マーウライとの契約を終えたライラが、ブラムを見ていた。

なにか、訴えるような目だった。

どうしようもねえだろ。

ブラムは苦笑いした。

しかし、目は背けなかった。

ライラもまた目を背けず、苦笑いを返した。

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