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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十六章 聖魔のはじまり(後編)
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賢いふりなんかすんじゃねえ


アテンとグナイが、優しい目で、ライラを見ていた。

ガラッド村から、わざわざライラのためにここまで付き合ってくれた。

最初は恩義もあって付いてきてくれたかもしれないが、今はきっと違う。

与えたものはすべて返したと言っても、アテンとグナイは帰らないだろう。


アルサファが、凛とした目で、ライラを見ていた。

リザの子孫である彼女は、やはりリザに似ていた。

メノス村で、ライラを送りだしたときの様子を思い出した。

そのあとの、あの日も。


エイドナとレッサが、軽やかな目で、ライラを見ていた。

長い時を生きている、魔族のふたり。

長い人生から得た経験からか、それともライラへの想いゆえか。

今のこの現状も、どうとでもなると言いたげだった。


使用人たちが、必死の目で、ライラを見ていた。

この新しい屋敷に来てから、ずっとライラを支えてくれた。

職務を超えて、特に親しくなった者もいた。

もし彼らに、自らの力と不老について話しても、きっと受け入れてくれるだろう。

ここにはいない幾人かの使用人たちも、たぶん、そうだ。



「分かりますか」



間を置いて、マーウライの声がライラに届く。


マーウライが、包むような目で、ライラを見ていた。

性格を含めてなにもかも違うブラムと、どこか似ている気がした。

未だ残っている恋心が、ライラの胸をくすぐった。

同時に、力強い想いが流れこんできた気がした。



「やりたいようにやりなよ」



エイドナが、かかっと笑うように言った。

隣にいたレッサが、大きく頷いた。



「フィナ様……あ、いや、ライラ様。後のことはどうとでもしてみせます。身を隠すにはちょうどいいところが、幾つもあるので」


「ちょうどいいところ……?」


「ええ、ちょうどいいところ、です」



レッサが自らを指差して言った。

ガラッド村のような、魔族だけが暮らす場所が他にもあるのだろう。

たしかにそこなら、何十年でも身を置ける。

必要に応じて点々としているうち、ソウカンの寿命は尽きるだろう。


だけど――



「……迷惑はかけられません」



ぽつりと、こぼした。

直後、ライラの言葉を掻き消すようにブラムが口を開いた。



「俺もお前に迷惑はかけたくねえんだよ」


「……だ、だけど」


「おい、ライラ。俺とお前はよ、立場が違うのかよ? ああ??」



建前上の立場の話ではない。

旅の仲間として、どうなのだと、ブラムの強い目がライラへ向いた。



「……た、対等、ですよ、でも、今回は」


「今回もそうだろ、ああ?? なにも違わねえ。お前はお前のために、俺は俺のために、その時その時、腹あくくってんじゃねえのか。そこによ、迷惑だのなんだの、余計なもん入れ過ぎんじゃねえよ」


「……入れないとダメでしょう??」


「入れるなって言ってんじゃねえ。入れ過ぎんなっつってんだ。自分で抱えて持ちあげられねえ荷物持って、歩けるわけねえだろ。歩けなきゃ、生きてるとは言えねえ」


「でも、でも」


「るせえ! 馬鹿ライラ! 賢いふりなんかすんじゃねえ!」


「な、な、なによ!!」


「賢く生きなくたっていいんだよ、勝てなくてもいいんだ、逃げてもいいし、喚いたっていい。生きてんだからよ、上手くいったり失敗したりして、そうやって歩いていくもんだろ。だけどお前、俺たちのために歩くのを止めようとしやがったな?? ああ??」


「し、仕方ないでしょ!!」


「仕方なくなんてねえだろ、次同じこと言ったら、その場でその枯れ枝みたいな身体抱えてよ、ファロウから飛んで逃げるからな?? 後先なんざ知らねえ、俺あ頭良くねえからよ。俺がやりてえことを、腹あくくって、やる」


「だ、だけど」



ライラがそう答えようとした瞬間、ブラムの腕がライラに向けて伸びた。

がしりと、ライラの細い身体を掴む。


あ。

これ。

冗談じゃないやつだ。


ライラは一瞬で観念した。

親に怒られた子供のように、しゅんと、頭を垂れた。



「ちったあ、分かったみてえだな」


「……こんなの、脅しですよ」



ライラは頭を垂れながら、頬を膨らませた。

そうしたことで、頭の中の靄が、少し晴れた気がした。

アレコレと悩んで、考えてきたことが、唐突に馬鹿げたことだったような気がした。



「そこまで言うからには、ちゃんと……私を担いで逃げてくださいよ」



不貞腐れるように言ったライラの言葉を、ブラムがにかりと拾い上げた。

応接室に集まった他の者たちも、わっと喜びの声をあげた。



「ライラ様の期待以上にしてみせます」



マーウライが、喜びの声を締めくくった。

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