賢いふりなんかすんじゃねえ
アテンとグナイが、優しい目で、ライラを見ていた。
ガラッド村から、わざわざライラのためにここまで付き合ってくれた。
最初は恩義もあって付いてきてくれたかもしれないが、今はきっと違う。
与えたものはすべて返したと言っても、アテンとグナイは帰らないだろう。
アルサファが、凛とした目で、ライラを見ていた。
リザの子孫である彼女は、やはりリザに似ていた。
メノス村で、ライラを送りだしたときの様子を思い出した。
そのあとの、あの日も。
エイドナとレッサが、軽やかな目で、ライラを見ていた。
長い時を生きている、魔族のふたり。
長い人生から得た経験からか、それともライラへの想いゆえか。
今のこの現状も、どうとでもなると言いたげだった。
使用人たちが、必死の目で、ライラを見ていた。
この新しい屋敷に来てから、ずっとライラを支えてくれた。
職務を超えて、特に親しくなった者もいた。
もし彼らに、自らの力と不老について話しても、きっと受け入れてくれるだろう。
ここにはいない幾人かの使用人たちも、たぶん、そうだ。
「分かりますか」
間を置いて、マーウライの声がライラに届く。
マーウライが、包むような目で、ライラを見ていた。
性格を含めてなにもかも違うブラムと、どこか似ている気がした。
未だ残っている恋心が、ライラの胸をくすぐった。
同時に、力強い想いが流れこんできた気がした。
「やりたいようにやりなよ」
エイドナが、かかっと笑うように言った。
隣にいたレッサが、大きく頷いた。
「フィナ様……あ、いや、ライラ様。後のことはどうとでもしてみせます。身を隠すにはちょうどいいところが、幾つもあるので」
「ちょうどいいところ……?」
「ええ、ちょうどいいところ、です」
レッサが自らを指差して言った。
ガラッド村のような、魔族だけが暮らす場所が他にもあるのだろう。
たしかにそこなら、何十年でも身を置ける。
必要に応じて点々としているうち、ソウカンの寿命は尽きるだろう。
だけど――
「……迷惑はかけられません」
ぽつりと、こぼした。
直後、ライラの言葉を掻き消すようにブラムが口を開いた。
「俺もお前に迷惑はかけたくねえんだよ」
「……だ、だけど」
「おい、ライラ。俺とお前はよ、立場が違うのかよ? ああ??」
建前上の立場の話ではない。
旅の仲間として、どうなのだと、ブラムの強い目がライラへ向いた。
「……た、対等、ですよ、でも、今回は」
「今回もそうだろ、ああ?? なにも違わねえ。お前はお前のために、俺は俺のために、その時その時、腹あくくってんじゃねえのか。そこによ、迷惑だのなんだの、余計なもん入れ過ぎんじゃねえよ」
「……入れないとダメでしょう??」
「入れるなって言ってんじゃねえ。入れ過ぎんなっつってんだ。自分で抱えて持ちあげられねえ荷物持って、歩けるわけねえだろ。歩けなきゃ、生きてるとは言えねえ」
「でも、でも」
「るせえ! 馬鹿ライラ! 賢いふりなんかすんじゃねえ!」
「な、な、なによ!!」
「賢く生きなくたっていいんだよ、勝てなくてもいいんだ、逃げてもいいし、喚いたっていい。生きてんだからよ、上手くいったり失敗したりして、そうやって歩いていくもんだろ。だけどお前、俺たちのために歩くのを止めようとしやがったな?? ああ??」
「し、仕方ないでしょ!!」
「仕方なくなんてねえだろ、次同じこと言ったら、その場でその枯れ枝みたいな身体抱えてよ、ファロウから飛んで逃げるからな?? 後先なんざ知らねえ、俺あ頭良くねえからよ。俺がやりてえことを、腹あくくって、やる」
「だ、だけど」
ライラがそう答えようとした瞬間、ブラムの腕がライラに向けて伸びた。
がしりと、ライラの細い身体を掴む。
あ。
これ。
冗談じゃないやつだ。
ライラは一瞬で観念した。
親に怒られた子供のように、しゅんと、頭を垂れた。
「ちったあ、分かったみてえだな」
「……こんなの、脅しですよ」
ライラは頭を垂れながら、頬を膨らませた。
そうしたことで、頭の中の靄が、少し晴れた気がした。
アレコレと悩んで、考えてきたことが、唐突に馬鹿げたことだったような気がした。
「そこまで言うからには、ちゃんと……私を担いで逃げてくださいよ」
不貞腐れるように言ったライラの言葉を、ブラムがにかりと拾い上げた。
応接室に集まった他の者たちも、わっと喜びの声をあげた。
「ライラ様の期待以上にしてみせます」
マーウライが、喜びの声を締めくくった。




